2026年1月15日木曜日

お笑い芸人が書いた最高に素晴らしいエッセイ集


 

田中卓志エッセイ集「ちょっと不運な方が生活は楽しい」がおもしろい

図書館の人気本コーナーでこの本を見たとき、「あっ田中卓志の本がある」と、躊躇なく手に取ってすぐ貸し出し受付へ急ぎました。


2年前に「ベストエッセイ2022」で彼のエッセイを読んで、これほどエッセイが上手なお笑い芸人がいたのかと、いたく感心した記憶があったからです。


そのエッセイ集のタイトルは「ちょっと不運な方が生活は楽しい」といいます


田中卓志に注目したのは「ベストエッセイ2022」を読んでから


上で書いたように「田中卓志はお笑い芸人だが、それだけでなくエッセイストとしても素晴らしい才能を持っている」と私が注目したのは今回紹介する本「ちょっと不運な方が生活は楽しい」を読んだからではありません。


これ以前の2年前に、毎年1冊出版されている「ベストエッセイ2022」を読んだときです。


その本には前年に発表され出版物に載せられたすべてのエッセイの中から優れたもの70篇が掲載されています。


その中に田中卓志のエッセイ集「ちょっと不運な方が生活は楽しい」に収録されている「最高の食事」という作品が載っており


それを読んで、お笑い芸人にこれほどエッセイが上手な人がいたのか」といたく感心したのです。


それを知っていただくために、下にその作品の抜粋を載せます。



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   最高の食事(抜粋)


 お弁当にまつわる話がもう一つある。

 それは某バラエティ番組に参加した時の話で、何人かの芸人とその母親も一緒に出演していた。

 母親は息子が小さい頃に作っていたお弁当を再現して持って来ており、それを色々なタレントさんが見て、食べたいと思うお弁当を順に指名していく。

 選ばれたら抜けていき、最後に誰のお弁当が残るのか? という趣旨の企画だった。


 僕の母親が提出したお弁当を見ると、本当に僕が中学生や高校生の時に食べていたお弁当そのままで、冷凍の唐揚げ、プチトマト、卵焼き、白いご飯、半分に切ったみかんなどなど、一切テレビ的な演出の入っていない、無防備なお弁当だった。

 収録は進み、僕の母のお弁当はなかなか選ばれないまま、最後の2択にまで残ってしまっていた。


 僕の母親はこれまでにもしょっちゅうテレビに出演していたし、バラエティにも慣れていて、毎回驚くほど笑いをとって帰るので、正直、どう転ぼうが心配ないと思っていた。


 そして、最後の判定でタレントさんが選んだのは母のお弁当ではなかった。母のお弁当は最下位になった。


 選ばなかった理由を尋ねられたタレントさんは「冷凍食品が入っていて愛情を感じられない」と言った。


 タレントさんも何か言わなければならないから、仕方なくそう理由を言ったのだろうし、悪くはない。


 それを聞いて、「さあ母の面白いコメントが出るぞ!」と思いながら待っていると、どんな状況でも強気で笑いを振りまいてきた母が落ち込んでしまっていた。


 いつもの笑顔が消えて、ただうつむいていただけだった。


 これを見た瞬間、僕はヤバイ……と思った。確かに母はバラエティモンスターかと思うくらい面白い人だけど、芸人ではない。特にこういう母としての愛情を問われることに対してうまく返せるような強さは持ち合わせていない、一般の人だということを忘れていた。


 あまりに母が強い人だから大丈夫だと思いこみすぎていたことに気づき、僕はここから、自分のバラエティ人生の中でも3本の指に入るくらいの、大立ち回りをする!


「おい! お母さん落ち込んでるだろ! 冷凍食品がダメとか言うけどな、うちのお母さんは共働きで看護師をやっていて忙しかったんだよ! 3交代で忙しい中、弁当も作ったから、冷凍食品くらい入るんだよ! でもな、身長を一番伸ばしたのはこの弁当だ!」


 すると、母は涙を流していた。


 看護師時代の母は、朝8時に出て行って夕方帰ってきてから僕たちのご飯を作ったり、準夜勤だと16時から病院に行って0時に家に帰ってきたり、23時に病院に行って朝9時に帰ってくることもある、生活が不規則になる大変な仕事をしていた。


 なかなか親への感謝の気持ちなど伝えるタイミングがないから、こんな状況がきっかけといえど、お弁当を3人兄弟分きっちり作ってくれたことに感謝していたと言えて良かったと思ったし、自分が働くようになって、仕事をしながら子育てするなんて凄すぎるな~と感じていた矢先でもあったので、そういう尊敬の言葉がスルスルと出てきた!


 たぶん、仕事が暇な頃だったら、そんな言葉は出なかったと思う。

 それを言い放った勢いで、スタジオで母のお弁当をバクバク食べて「母ちゃん美味いぜ!」と言うと、母はありがとうと答えてくれた。


 この状況がウケたので、これで何とかなった! と思いホッとしていると、周りの他の芸人のお母様がみんな泣いていた。


 これで番組的なオチもついて、結果的には全てが上手くいった。


 ここまで読んでもらったら、自分の好感度も上がるような気がするけれど、この大立ち回りをした人物は、過去に家族に嘘をついて芸人になり、母親を泣きながら膝から崩れ落ちさせたことがある人物と同一人物なので、お忘れなく。

出典:「ちょっと不運な方が生活は楽しい」田中卓志 新潮社



田中卓志は母親から多大な影響を受けている


この作品は発表されたときSNSで大反響があったと言いますが、読んだ誰もに涙を誘わせる感動の一篇です。この作品を書いたのも彼が日頃から母親に強い愛情を抱いているからに違いありません。作品を読んでもよくわかりますが彼は母から多大な影響を受けているのです。


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「ちょっと不運な方が生活は楽しい」出版社内容情報


「どこかの優しい誰かが読んでくれたら……」アンガールズ田中の初エッセイ集! 真面目すぎる性格なのにふざける仕事を志し、第一印象が「キモい」だった山根とコンビを組み、港区女子合コンの悔しさをバネにめでたく結婚。人気芸人の悲喜こもごも(悲、強め)の日常は、クスリと笑えて妙に共感。「ベスト・エッセイ2022」にも選出され280万人が涙した、母のお弁当の思い出を綴ったあの一編も収録!

内容説明

アンガールズ田中、初のエッセイ集!書き下ろし「相方か友達か」「結婚相手の条件」を含編。人気芸人の悲喜こもごもの日常は、クスリと笑えて妙に共感。

目次

停電したなか卯で通じ合った
いじめっ子とお笑いと
18歳、なんでもない人間
人生で一番の修羅場
休み時間の変態ごっこ
ブレイクはしたものの
最高の食事
朝のパチンコ屋で
「待て!そこの新選組!!」
初めてのテレビ収録
空手と嘘
ヤンキーにからまれたら
無防備な魅力
山から降りてくる鳥使い少年
18年目のジャンガジャンガ
幻のパワーワード
港区女子と紅茶と僕と
リミッターが外れた
ランキングの信憑性
薄毛の僕だから
相方は友達か
結婚相手の条件