2026年7月25日土曜日

小説のようなエッセイ・シリーズ No.5


「”サイズ感”がいまいち合わなかったみたい」

翌朝、彼女が発した意味深なセリフを聞いて愕然!



彼女を初めて見たのは私が勤めていたホテルのフロントだった


大阪とニューヨークで通算20年間ホテルマンとして働いた私が、その間強く印象に残っていることの一つに、外国人相手のコールガールとしてホテルへ出入りしていたひとりの女性との出会いがあります。


確かイニシャルにH.Eがつく人でした。彼女を最初に見たのは当時商都大阪で高級ホテルとして名を馳せていた大阪グランドホテル(2009年廃業)で、そのフロントオフィスに勤務していた22歳の頃でした。


彼女が強く印象に残ったのは、その垢抜けした都会的な容姿です。後で知ったのですが、スリーサイズが上から90,60、90ということで、滅多に見ることのないような日本人離れした見事なプロポーションの持ち主でした。



彼女は高級ホテルを根城にするハイクラスなコールガール


これも後で知ったのですが、その美しい女性はこのホテルに宿泊する外国人相手のコールガールだったのです


私のブログ「高級ホテルにたむろする怪しい人たち」にも書きましたが、コールガールにもランクがあり、高級ホテルに宿泊する外国人の相手をするのは、いうまでもなく料金の高いハイクラスな最上級に属する女性たちです。


客になるのはスイートルームなど室料の高い高級な部屋に宿泊するお金持ちの外国人たちが主で、よほどのことがない限り日本人は相手にしません。


それだけに彼女たちは語学が堪能で、特に英語となるとほとんどが流ちょうにこなせるようでした。


そんな彼女たちの中には一流大学を卒業した高学歴の女性も少なくなかったようです。今のように高学歴の女性にふさわしい職場が少なく、それ故にコールガールは語学を生かしてお金を稼げる有望な職業とみなされたのかもしれません


彼女と親密な関係に慣れたきっかけとは


ホテルの一介のフロントスタッフとして働いていた私には、彼女たちは正直言って高嶺の花でした。要するに対等に付き合えるような相手ではなかったのです。


でも偶然に起こったあることをきっかけにその高嶺の花の存在である女性と親しくなることが出来たのです。


それは彼女を初めて見た頃から5年程過ぎてのことでした。


なんと、彼女とは住んでいた町が同じだった


そのころ私は、それまで務めていた大阪グランドホテルから、同じ系列のリーガロイヤルホテルに転属になっていました。


このホテルは同じ住友系列だとは言え、規模も格式も大阪グランドホテルを遥かに凌いでおり、文字通り当時の大阪ナンバーワンの高級ホテルでした。


彼女のほうも根城をこの新しいホテルのほうへ移していたようで、フロントで勤務する私は以前より頻繁にその姿を目にするようになっていました。


親しくなったきっかけはよく会うようになったからだけではありません。ある日のこと、帰宅する電車で偶然に彼女と会ったのです。


なんと同じ電車にあの彼女が乗っていたのです。私と彼女の自宅はJRの片町線の同じ沿線にあったのです。


これを機に彼女とのステキな交友が始まった


電車での突然のふれあいがあったとはいえ、彼女もそれまでホテルカウンターでの私との出会いをよく覚えてくれていたせいか、その後二人の仲は急速に親密度を増し、気がつけば週に一度はデートを重ねるようになっていました。


確か親しくなってから2か月ほど過ぎた5~6度目の夕方のデートだったと思います。


この日は大阪北新地で人気だったサパークラブ「キングスランド」という店に向かいました。


このクラブは上手なフィリピンのバンド演奏が評判の、当時としては夜のデートにピッタリのナイトスポットでした。


二人は素晴らしいバンド演奏に乗り、夜が更けるのも忘れるように、ゴーゴーダンスに酔いしれました。


そして翌朝気がついたとき、二人はホテルのベッドの中でした。


彼女は ”サイズ感”  もインターナショナルだった


楽しかった前夜が過ぎ、翌朝二人でホテルにいたのは良かったのですが、「好事魔多し」とはまさにこのことです。


朝になって、私は思いがけない衝撃を受けたのです。


それは彼女が何気なしに発した

「”サイズ感”がいまいち合わなかったみたい」というセリフを聴いたからです


「サイズ感が合わなかった」とは実に意味深な言葉ではありませんか。耳にしたときは衝撃だけでなく同時に屈辱感も感じました。


でもあっけらかんと言い放った彼女のこの言葉にはなんとなく真実味がこもっていました。


それもそうかもしれません。なにしろ彼女は長年外国人相手のコールガールとして過ごしてきているのです。


そんな彼女が久しぶりに普通の日本人を相手にして、「サイズ感が合わない」と感じるのは当然のことだと思ったからです。


私自身は人並みのサイズと自認していたのですが、でもそれは日本男性として考えた場合です。


しかし彼女のサイズの基準は日本人ではなく外国人男性だったのです。要は基準対象が違っていただけで、別に彼女が間違っているとか悪いとかではないのです。


いうなれば、彼女はサイズ感もインターナショナルだったのです。


おわり

2026年7月23日木曜日

T.Ohhira エンタメワールド〈7〉進次と和子の青春グラフィティ(2)

 

                     adobe stock


          2

 それから十五分の間、進次はなんとか間を繕おうと、自分のことを中心にしゃべっていた。

 つまり、歳は二十一歳で、大学を二年で中退して、今はアルバイトをしながら英語の専門学校へ通っていること、大阪の叔母の家に下宿していて、四国の実家からの帰途であること、アルバイトが夜勤なので昼間の英語学校では居眠りばかりしていること、などというふうに,いわば自己紹介を兼ねて真面目に話したつもりだった。


 そんな進次の話を女は頷きながら黙って聞いていたが、昼間は居眠りばかりとくだりでは、クスッと声を出して笑ったので進次は前にもましてホッとした。

 ―ひょっとしてこの人、三宮で降りた後も少しくらいだったらお茶にでも付き合ってくれるかもしれない。十二時を少し回っているとはいえ、今夜はまだ正月三日で、おまけに明日は日曜日、すぐ帰らなければいけないなどと、堅いことは言わないかもしれないー そんな安易な期待を抱いて、次第に胸を膨らませながら進次は次の展開を考えていた。


 列車のスピードが少し落ちて、街の灯が次第に濃くなり、それが窓いっぱいに広がってきたとき、「あと三分ほどで神戸です」と、また車内アナウンスが流れてきた。神戸から三宮までは五分とかからない。あと五~六分もするといよいよ列車を降りるのだ。


 「あのう、そろそろ支度しましょうか。お荷物は?」

 多分網棚に乗せているのだろうと、下ろしてあげるつもりで進次がたずねた。

 「は、はい。あの二つですけど、でもわたし自分で下ろします」女がそういって網棚に手を伸ばそうとしたので、進次は一瞬先にその方に手を伸ばし、まず大きいほうのバッグを女の足もとに下ろし、続いてもう一つを下ろしてその上に乗せた。

自分のことだと決してこうはしないだろうというほどの素早い動作で、三宮で下車した後の展開を意識した精一杯の得点稼ぎに違いなかった。 


 「すみません。重かったでしょう。母が持っていけとあれこれ入れるもんですから」

 女が恐縮しながら、さっきより打ち解けた表情で言ったので、降りた後の可能性が少し増してきたと、進次はいっそう胸を膨らませていた。


 出札口のほうへ向かってゆっくり流れていた人の群れが、その手前二十メートルぐらいの所でピタッと止まり少しも動かなくなった。

背伸びして先を見渡すと、三列くらいで動いていた人の群れは、先へ行くほど次第にに細くなっており、先頭の人が大きな荷物を抱えて、窮屈そうに横向きになって出札口を抜けていた。


 「出るまでに少しかかりそうですねえ」 立ち止まった進次はそう言って両手の荷物をそっと下に降ろした。

さっきから肩と腕の痛みが増していて、耐え切らないほどになっており、本当はドサッと投げ出すようにでも降ろしたかったのだが、女に力なしと思われなくないばっかりに、ここでも見栄を張って何げない顔をしてゆっくりと降ろしたのだ。

でもそんな進次のことを察したのか、また列が動き始めたとき、女は「わたし一つ持ちます」と言うや否や、小さいほうのバッグにさっと手を伸ばすと、進次より少し早く進み始めた。


進次は、やはりぼくがと、取り戻そうと思ったのだが、 ―まあいいか、これでもあちらより二倍くらいは重そうだし― そう思いなおして、またノロノロと出口へ向かっていった。

 それからさらに二~三度立ち止まり、やっと出札口を抜けて待合室のベンチまで来たときは、下車してかれこれ十五分くらいはたっていた。 


 「すごい人混みでしたねえ、年末年始はこれだから嫌なんですよ。疲れたでしょう、ここに座ってしばらく休みませんか」かろうじて二人分の空席を見つけて、進次が女に言った。

 「ええかなり、わたしこんな小さなバッグ一つだけなのに、もうぐったりです」そう言って女は素直に応じて進次の横に腰を下ろした。

 「無理もないですよ。列車ではずっと立ちっぱなしだったし、あー疲れた。できたら早くどこかで横にでもなりたい気分です」進次のそんな本音ともつかないセリフがおかしかったのか、女がクスッと声を出して笑った。

 ―オッ、いい雰囲気、このタイミングを逃してはならない― そう思って進次はすぐまた口を開いた。


「今日はまだ正月三日、おまけに明日は日曜日だし、別に急いで帰らなくてもいいんでしょう。せっかく知り合ってこのまま別れてしまうのもなんですし、よかったら喫茶店でも行って少しお話しませんか?」ありきたりで少しも気の利いたセリフではなかったが、思い切って女を誘ってみた。


進次のその申し出に、さすがに女は少しためらいを見せてはいたが、チラッと腕時計に目をやってから小さな声で答えた。

 「もう一時前でしょう。どうしようこんな遅くに、でもせっかくですから少しぐらいでしたら」 女の口調は先ほどの打ち解けた感じからまた最初のはにかみ口調に変わっていたものの、進次にとっては小躍りしたいほどの嬉しい返事であった。


でも時計は確かに一時少し前を指しており、それほど長くは引っ張れないとも思っていた。


つづく

次回 7月30日(木)


2026年7月18日土曜日

誇るべきか、恥ずべきか、世界で最も多くインターネットを使っているのは《日本人》

インターネット使用頻度の国際比較

出典:社会実情データ図録



日本人のIT・情報化対応が後手に回っており、その証拠にインターネット利用率が低いというデータがしばしば紹介されてきたが、ここにきて逆にインターネット利用率が高いというデータも見かけるようになった。しかし、日本は世界の潮流から遅れているから改善が必要だというマスコミ特有の論調に合わないためか報道されることもない。


 ここで取り上げたのは、ピューリサーチセンターが行っている国際調査の2025年春の結果であり、インターネットを「ほとんど常に」(Aimost constantly)利用している人の割合が日本は56%と世界24か国中もっとも高くなっている。


 2位は韓国の49%、3位はアルゼンチンの43%、4位はイスラエルの42%と続いている。図は大陸別に「ほとんど常に」の高い順に並べてあるが、欧州諸国や北米諸国はこれらの国を下回っている。例えばインターネットを「ほとんど常に」利用しているドイツ人の割合は24%と日本人の半分以下に過ぎない。


 日本人の使用頻度の高さは、むしろ、スマホ中毒という好ましからざる状況の指標として引用される可能性があろう。


 一方、これと矛盾するようであるが、日本人は「ネット不使用」の比率が14%と北米や欧州のどの国より高くなっている。ここに日本のインターネット利用のかねてよりの特徴、すなわちネットを使わなくても支障なく暮らせるア ナログ的に便利な社会であるという特徴があらわれている。


 以下には年齢別のインターネット利用率のグラフを掲げた。いずれの国でも若い世代ほど利用率が高いという結果になっているが、日本の場合、50歳以上の中高年層の利用率の高さが38%と、全体同様、世界1となっている点が目立っている。かつてと違い中高年もスマホをしょっちゅう使いようになった生活実態が明らかである。フランス人は保守的であり50歳以上の中高年で「常に使用」比率は8%と非常に低い(ドイツ人も11%)。




出典:社会実情データ図録


2026年7月16日木曜日

T.Ohhira エンタメワールド〈7〉進次と和子の青春グラフィティ(1)

 

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 1960 進次と和子の青春グラフィティ 


1960  進次と和子の青春グラフィティ』はこんなお話


1960年の正月三日、四国の実家から大阪の下宿へ戻る途中の英語専門学校生・山中進次(21)は、混雑する列車内で服飾専門学校生の針谷和子(19)と偶然出会う。

進次は一目惚れした和子と少しでも長く過ごしたい一心で、本来の目的地ではない神戸の三宮駅で下車した。

深夜の街で二人はラーメン屋に入り、専門学校生同士として急速に意気投合する。

その後、霧の立ち込める神戸港のベンチで初めてのキスを交わした。

進次は「朝まで一緒に過ごしてほしいが、変なことは絶対にしない」と約束し、古びたホテルへ和子を誘う。

内心では微かな期待を抱いていた和子だったが、進次は約束を頑なに守り、和子に手を出すことなく紳士的に添い寝をして朝を迎えた。

下宿へ戻った和子は、隣室の友人・紀子に進次との顛末をウキウキしながら語る。

和子は純粋に進次へ惹かれており、実はそれ以上の進展も期待していたため、彼の理性を嬉しく思う反面、女としての魅力不足を少し不安に思ったりもしていた。

その週末、二人は梅田で二度目のデートを果たす。

進次は予算と相談しながらこぎれいな居酒屋へ和子を連れていき、和子は初めての居酒屋や「ポパイ」という料理、お酒を心から楽しんだ。

しかし、店を出た直後に和子が悪酔いして激しい吐き気に襲われてしまう。進次は動転しながらも和子を介抱し、彼女の暮らす高級住宅街・芦屋の下宿まで送り届けた。

コタツの中で抱き合い、再び激しいキスを交わしたものの、進次は和子の体調を気遣ってこの夜も理性を保ち、何もせずに眠りについた。

翌朝、和子が健気に作ってくれた朝食をごちそうになり、進次はバラ色の幸福感に包まれながら帰路についた。

その後、進次の金欠や和子がインフルエンザで寝込んだことが重なり、二人の会えない日々が二週間ほど続く。

お互いに一日千秋の思いで待ち焦がれ、一月の最終土曜日に三度目のデートを迎えた。アルバイトの給料日後で懐に余裕のある進次は、和子を喜ばせようと梅田の高層ビル23階にあるラウンジへと連れていく。

二人はきらめく大都会の夜景を眺め、ムーディなピアノ演奏に耳を傾けながら、贅沢な地中海料理とビールを堪能した。

最高潮に高まったロマンチックなムードのまま、二人は手を繋いで扇町公園近くのラブホテルへと向かう。

これまでのデートで進次の優しさと男らしさを確信していた和子は、身を委ねるようにしてついていった。

部屋に入るや否や、進次はこれまでの我慢を爆発させるように和子を激しく抱きしめ、今夜を待ち侘びていた和子もまたその情熱を受け入れる。

二人は朝が訪れるまで、時間を忘れて何度も互いの体を貪り合い、ついに心も体も結ばれるのだった。

        

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その冬の正月三日、終着駅の大阪まで帰るはずだったのに、どうした訳か進次は神戸の三宮で降りていた。

すでに午前0時を過ぎているというのに、降車ホームは帰省から帰る人々であふれており、出口へ向かう通路も押しあいへしあいで随分ゆっくりとしか進まないせいか、右手に二つ、左手に一つの荷物の重みが次第にずしっと肩にかかってきた。

 「重たいでしょう、私ひとつ持ちましょうか」

かたわらを小さな手提げカバン一つ持って歩く女が恐縮そうに言った。

 「いいですよこれくらい、これでもぼく男ですから」

力にはからっきし自信がないはずなのに、進次は見栄を張ってそう応えた。

 その女とはほんの三十分ほど前に知り合ったばかりであった。

 座席がなく、出口に近い通路に立っていた進次のすぐ横に、その女も窓の方を見ながら立っていた。

 三つぐらい年下だろうか、いや二つかな、ときおり横目で観察して、そんなふうに考えながら、進次はしきりに話しかけるタイミングを計っていた。

 確か姫路を過ぎた頃であったろうか、列車がガタッと左右に大きく揺れて、進次と女の身体が窓の方に大きく傾いて、お互いが体勢を整えたすぐ後で、弾みでなのか目と目が合った。

 「よく揺れますね、この列車」 

女がまた窓の方へ向き直ったとき、その横顔を遠慮がちに眺めながら進次がはにかみ口調で言った。

 「えっ、ええそうですね」

不意に声をかけられたせいか、女は少し戸惑いを見せながら、チラッと進次の方を振り向いて答えた。

 さっき思ったとおり、やはりこの人ぼくより二〜三歳年下に違いない。口紅はうっすらと塗ってはいるが、それ以外は化粧をしている様子もない。ほっぺたがつやつやと光っており、まるで少女のように染まっているではないか。

それに、さっき返事をしたときも、このぼく以上にはにかんでいて、まるで純情そのものだった。

ひょっとしてこの人はまだボーイフレンドがいないのかもしれない。

進次はそんなふうに考えて、少し期待を膨らませながら次のセリフを考えていた。

  

 真冬とはいえ、通路の隅々までぎっしりと乗客の詰まった車内は人いきれとスティームの暖房とでむせ返っていて、両側の窓は真っ白に分厚くくもっており、その上に通過する街の灯がぼおーと鈍く映っていた。

 「あのー、どちらまでいらっしゃるのですか?」

 車内アナウンスが、「次の停車駅は明石です」と伝えた後、進次が二度目の口を開いた。

 さっきから女の行き先を考えていて、神戸だろうか、それとも大阪だろうか? 

いずれにしてももっと会話を進めないと、この先の進展はないだろうし、ましてや次の明石などで降りられたのでは一巻の終わりではないか。そう思って少し焦って聞いたのであった。

 「三宮なんです。芦屋まで帰るんですけど、これあそこで止まらないでしょう。私鉄ももうないし、三宮からタクシーで帰ります」

 さっきほどのためらいは見せなかったものの、女はまだ幾分か恥じらいを含ませながら、今度は進次の目を見て答えた。 

 再び問いかけに応じてくれたことに気をよくした進次であったが、三宮で降りると聞いて、焦る気持ちに拍車がかかった。

 どうしよう、三宮だとあと十五分ぐらいしかない。もうすこし話して、せめて名前と電話番号だけでも聞いておこうか。

でも教えてくれなかったらどうしよう。これまた一巻の終わりではないか。

できることなら今夜中にもっと話し合って一気に仲良くなりたい。

この人だって、さっきの応え方からして、けっしてぼくのことを嫌がっているようでもない。

いやそれどころか、恥じらいながら答えた様子からして、むしろ好感を抱いてくれたのではないだろうか。そう思って、今度は意を決して切り出した。

 「へえー、三宮なんですか。それじゃあ同じですねえ。ぼくもそこで降りるんです。いや、下宿は大阪なんですけど、今夜は灘の姉の家へ寄る予定なんです」

 灘に姉がいるのは事実だった。でも小さな子どもが二人いて、もうとっくに寝てしまっているのは知っていて、今夜寄るつもりなど毛頭なかったのだが。

 進次は女にそう告げて、とりあえずほっとした。少なくともあと十五分ポッキリでこの女と別れることだけは避けられたのだと。

 進次の降りる駅が三宮だと聞いて、女は「えっ、そうなんですか」と短く応えただけだったが、表情にはそれまで見せなかった明るい笑みを浮かべていた。


つづく

次回は7月23日(木)


2026年7月13日月曜日

書評「ベストエッセイ2025」日本文芸家協会編 光村図書 村上春樹他78名の作品


キャッチコピーには「名文の宝庫! 78篇の珠玉のエッセイ」とあるが、果たしてどうなのだろうか



毎年夏に出るこのシリーズを読むのは今回で確か12冊目になると思いますが、書評の感想文でいつも書いていることがあります。それはベストエッセイと名乗っているとはいえ、掲載された78篇の作品すべてが優れているのではないということです。


それが何故かを説明するのはここでは省きますが、まあ「世の中って万事そんなもの」とでも思ってくだされば結構です。


で、時間を有効に使いたい方向けに78篇の中から私が独断で選んだ秀作15篇をご紹介したいと思います。これこそ、まさに「ベストの中のベスト」と言えます。


ここに選んだ15名の作者で特に注目したいのは高嶋政伸、ERIKO、村上春樹の3氏です。俳優、モデル、作家という陣容ですが、中でも光るのは俳優の高島政伸氏です。


ご存じ高島忠夫、寿美 花代 を両親に持つ、まさに俳優として申し分のない血筋です。


しかし優れているのは俳優の才能だけではないのです。この本に挙げられた「インティマシーコーディネーター」というエッセイを読めば、その優れた文才に驚かされます。その卓越した文章力でこの類まれな秀作が生み出されたのです。


78作品の中の《ベストの中のベスト》

この15名の作品が特におススメです


・松永K三蔵  「押せども引けども雨後菜ぬ扉」小説家

・ERIKO 「世界の日常を旅する」モデル、定住旅行者

・川内有緒 「画面の中の孤島」ノンフィクション作家

・富田望生 「わたしのブギウギ」女優

・ほしよりこ「お屋敷の奥様」漫画家

・西山繭子 「うちの娘です」女優、作家

・早見和真 「その声は誰の声?」小説家

・燃え殻  「僕を魚博士にした祖母の褒め殺し」作家

・高嶋政伸 「インティマシーコーディネイター」俳優

・上坂あゆ美「ひび割れた世の中だけど君だけは」歌人

・小川洋子 「おじいさんと通りすがりの者」作家

・星野知子 「たばこ」俳優、エッセイスト

・村上春樹 「小澤征爾さんを失って」作家

・五木寛之 「愛嬌にない時代」作家

・上間陽子 「若い母たちの振り袖姿に」教育学者




この中で私が推す最も優れた3作品は


No.1   高嶋政伸(俳優)「インティマシーコーディネイター」


No.2   ERIKO(モデル、定住旅行者)「世界の日常を旅する」


No.3   村上春樹(作家)「小澤征爾さんを失って」



高嶋政伸の作品「インティマシーコーディネーター」について


インティマシーコーディネーターという言葉を聞いたことがある人は、おそらく日本では数少ないと思われます。


下の説明でお分かりいただけると思いますが、最近になって映画界でよく使われるようになった専門用語です。


高嶋氏は俳優であるゆえにこれをテーマとして取り上げたのです。専門用語とはいえ、映画は楽しみと安らぎを与えてくれるエンタメとして人々から切り離すことができません。


それ故に今回高島氏がエッセイのテーマに取り上げた「インティマシーコーディネーター」は私たちも関心を持つべき事柄なのではないでしょうか。


高嶋氏は自身が主演したNHKドラマで実の娘に性的暴行を加える父親を演じますが、その娘役の若い俳優を気遣ってこのエッセイを書いているのです。


間違っても父から性的暴行を受けるという演技が後々トラウマとなって残ることがないように、インティマシーコーディネーターの指導と協力を得ながら極めて慎重に撮影の望んでいる姿が実によく描かれています。


特に感銘を受けたのは、暴行の最中に手で娘の口をふさぐシーンがあるのですが、手の感触や臭いで相手の女優が不快な気持ちにならないようにと、自らが薬局に出向き、店員のアドバイスを受けながら良質な除菌のウエットティッシュを買い求めるているのです。


こうした様子もこのエッセイには書かれています。


いずれにしても共演の女優を守ろうが故に行った、インティマシーコーディネーター共同作業についてを、400字原稿用紙10枚以上の長いエッセイを書き上げているのです。


おそらく氏のこの作品には、多くの読者が強い共感をえたものと確信します。



インティマシーコーディネーターとは


(AIによる概要)

インティマシー・コーディネーター(Intimacy Coordinator)は、映画やドラマなどの制作現場で、ヌードや肌の露出、性的な身体接触を伴うシーンを調整・監督する専門職です。出演者の心身の安全と尊厳を守りつつ、演出意図を最大限に実現するための橋渡し役を担います。 [1, 2]

具体的な役割は以下の通りです。

  • 事前調整: 脚本を読み込んで性的なシーンの範囲を確認し、監督の演出意図をヒアリングします。

  • 同意の確認: 俳優と面談し、どこまでの露出や接触が可能か、事前にお互いの境界線(同意範囲)を明確にします。

  • 現場でのサポート: 撮影時にセットへ立ち会い、俳優のプライバシーを守りながら、あらかじめ合意された範囲で演出が行われているか確認・調整を行います。 [1, 2, 3]

この職種は2018年頃にハリウッドで確立され、日本でも2020年頃から本格的な導入が始まりました



・・・・・・・・・・・・・・・・

■ベストエッセイ2025収録作品著者(全78名)

青山ゆみこ(文筆家)/ 浅田次郎(作家)/ 浅野忠信(俳優)/ 五木寛之(小説家・随筆家)/

井上荒野(作家)/ 上坂あゆ美(歌人)/ 上間陽子(教育学者)/ 江﨑文武(音楽家)/

蛭子能収(漫画家・タレント)/ ERIKO(モデル・定住旅行家)/ 大川慎太郎(将棋観戦記者)/

小川洋子(作家)/ 小佐田定雄(落語作家)/ 小山内恵美子(小説家・元新聞記者)/角田光代(作家)/ 笠井瑠美子(製本技術者)/ 川内有緒(ノンフィクション作家)/河﨑秋子(作家)/ 川添 愛(言語学者)/ 川村 湊(文芸評論家)/ 岸本佐知子(翻訳家)/ 鯨庭(漫画家)/ 齋藤陽道(写真家)/ 最果タヒ(詩人)/ 柴門ふみ(漫画家)/佐伯一麦(作家)/酒井順子(エッセイスト)/ 佐々木幹郎(詩人)/ 佐佐木 陸(小説家)/ 沢木耕太郎(作家)/市街地ギャオ(作家)/ 柴田一成(京都大学名誉教授)/ 鈴木咲子(花屋店主)/鈴木涼美(作家・エッセイスト)/ 鈴木俊貴(動物言語学者・東京大学准教授)/スズキナオ(ライター)/ 千 宗室(茶道裏千家家元)/ 髙樹のぶ子(小説家)/ 髙嶋政伸(俳優)/天童荒太(作家)/ 富田望生(女優)/ 西山繭子(女優・作家)/

延江 浩(ラジオプロデューサー・作家)/ 信友直子(映画監督)/ 長谷川 宏(哲学者)/蜂飼 耳(詩人)/ 林 真理子(作家)/ 早見和真(小説家)/ 原田宗典(作家)/平松洋子(エッセイスト・作家)/ 平芳裕子(神戸大学大学院教授)/広瀬浩二郎(国立民族学博物館教授)/ 深沢 潮(作家)/ 福井尚子(ライター・編集者)/福田尚代(美術家)/ 藤沢 周(作家)/ 藤村忠寿(HTB「水曜どうでしょう」チーフディレクター)/星野知子(俳優・エッセイスト)/ ほしよりこ(漫画家)/ 穂村 弘(歌人)/ 堀江敏幸(作家)/町田 康(作家)/ 松永K三蔵(作家)/ 三浦しをん(作家)/

蓑田沙希(「古本と肴 マーブル」店主)/ 牟田都子(校正者)/ 村井祐樹(東京大学史料編纂所准教授)/村上春樹(作家)/ 村田喜代子(作家)/ 燃え殻(作家)/ 山極壽一(総合地球環境学研究所長)/ヤマザキマリ(漫画家・文筆家・画家)/ 横尾忠則(美術家)/ 吉田篤弘(作家・デザイナー)/吉峯美和(テレビディレクター・映画監督)/ 柳亭こみち(落語家)/ わかぎゑふ(劇作家・演出家)/鷲田清一(哲学者)


2026年7月10日金曜日

バレーボール女子世界大会のTV中継 何故ブラック企業がスポンサーなのか


(AI による概要)

女子バレーボールの世界大会中継で、いわゆる「ブラック企業」や労働環境が問題視された企業がスポンサーにつくのは、テレビ局側の莫大な放映権料・制作費を回収するための高額なスポンサー料が必要である一方、批判を恐れずに広告効果を求める企業側の思惑が一致するからです。

理由は主に以下の3点に集約されます。

  • テレビ局の莫大なコスト: 世界大会の放映権料や中継・イベント運営にかかる費用は非常に高額です。局は巨額の赤字リスクを抱えるため、資金力のある大口スポンサーを確保する必要があります。 [1]

  • 知名度アップの必要性: 一般的に「ブラック企業」と噂される企業は、労働問題等で企業のイメージが低下していることが多く、それを払拭するための「大規模なテレビ露出(企業の知名度や安心感の向上)」を強く求めています。

  • ターゲット層の一致: バレーボール中継は家族層や幅広い年代の視聴者が多く、特に地方の主婦層などに向けた認知度向上を狙う企業(通信教育、不動産、人材派遣など)にとって、非常に費用対効果の高い広告枠となります。

こうした構図により、資金提供を求めるテレビ局側と、大規模な露出によるイメージ刷新や知名度アップを図りたい企業側の利害が一致し、スポンサー契約が成立しています。


バレーボール女子世界大会のスポンサーに買取専門店などの企業が多いのは、「メインの視聴者層(40〜50代女性)」と「買取業界のメインターゲット層」がぴったり一致しているからです。

また、近年のコロナ禍以降、従来の大手企業がスポーツ協賛を控える傾向がある中、業績が好調な買取店が多額のスポンサー料を積極的に支払っていることも大きな理由です。

主な理由は以下の3点に集約されます。

  • 視聴者層との高い親和性
    貴金属やブランド品などの査定・買取を利用するメイン層は40代〜50代の女性です。テレビのバレーボール中継は主婦層やファミリー層の視聴率が高いため、この層に向けてダイレクトに認知度や信頼性を高められる絶好の場となっています。

  • 認知度と信頼性の向上
    「買取大吉」などの企業が大会のタイトル(冠)スポンサーになる理由は、全国展開を進める上で、テレビCMとの相乗効果を狙うためです。世界的な国際大会のスポンサーを務めることで、「安心できる企業」というブランドイメージを視聴者に強く印象付けることができます。

  • 資金力と業界のトレンド
    日本のリユース・買取市場は堅調に伸びており、店舗拡大や利益率の高さから高い広告費を捻出できる資金力を持った企業が増えています。


バレーボール女子世界大会のスポンサーに買取専門店などの企業が多いのは、「メインの視聴者層(40〜50代女性)」と「買取業界のメインターゲット層」がぴったり一致しているからです。また、近年のコロナ禍以降、従来の大手企業がスポーツ協賛を控える傾向がある中、業績が好調な買取店が多額のスポンサー料を積極的に支払っていることも大きな理由です。

主な理由は以下の3点に集約されます。

  • 視聴者層との高い親和性
    貴金属やブランド品などの査定・買取を利用するメイン層は40代〜50代の女性です。テレビのバレーボール中継は主婦層やファミリー層の視聴率が高いため、この層に向けてダイレクトに認知度や信頼性を高められる絶好の場となっています。

  • 認知度と信頼性の向上
    「買取大吉」などの企業が大会のタイトル(冠)スポンサーになる理由は、全国展開を進める上で、テレビCMとの相乗効果を狙うためです。世界的な国際大会のスポンサーを務めることで、「安心できる企業」というブランドイメージを視聴者に強く印象付けることができます。

  • 資金力と業界のトレンド
    日本のリユース・買取市場は堅調に伸びており、店舗拡大や利益率の高さから高い広告費を捻出できる資金力を持った企業が増えています。