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17
三度目のデートが一月の終わりに近い土曜日になったのは、間でそんなことがあったためだった。
その日の約束は前回より一時間早い四時の待ち合わせであった。
待ち合わせ場所は前回と同じだったが、今度は前と違って、ポイントをはっきり指定していたので、四時十分前には二人はしっかり会っていた。
コンクリートの柱の前で目と目を合わせたとき、進次はいきなり和子を抱きしめたい衝動に駆られたが、群衆の中ではそれもかなわず、ただ手を握ってずっと目を見ていた。
たった二週間しかたっていないというのに、何かとても懐かしいような、切ないような甘い気持ちになっていた。
和子にしても、この日の進次との出合いは特別感慨深いものであった。
年が明けてすぐ夜汽車の中で進次に出会ってから、その夜、思いがけず一緒に一夜をホテルで過ごして心を乱し、次の週は初めて居酒屋なるところへ行って悪酔いし、送ってもらった下宿の部屋で思いっきり抱きしめられ、期待と不安のこの上なく掻き立てられたのだが、結局それ以上は何もなかった。
そしてその後、図らずも風邪で寝込んでしまった。
この一ヶ月は十九歳の乙女にとって、少なからず動揺と波乱の日々であったのだ。
思いがけず風邪で寝込んだのも、心と身体のバランスが一気に崩れたからに違いなかった。
「和ちゃん、少し痩せたみたいだね」
「あらそう、風邪で少し食欲がなかったせいかしら。進次さんは元気そうね」
進次の顔を覗き込むようにして、しげしげと見つめながら和子が言った。
「ねえ和ちゃん。今日は少し高いところへ上がって夜景でも見ながら食事しようか?」
「高いところって、タワーかなにか?通天閣のような」
「違うよ。ビル、ビルだよ。このすぐ近くのビルの二十三階にあるんだよ。食事のできるラウンジが」
まだ行ったことはなかったのだが、バイト先の先輩が「いいよ、女と行くのは。ムードがあって」と、言ってたのを、ふと思いだして、そこへ行ってみようかと、つい口に出したのだ。
「へえー、二十三階。高いわねえ。でも進次さん、そのビル、高さだけじゃなくて食事の値段も高いんじゃない?」
「そうでもないらしいよ。若い客も多いって、先輩が言ってたし」
そう応えたものの、はっきり言って、「そんな場所へ行くのは場違いかな?」とも進次は思っていた。
テーブルチャージも取られるそうで、少なくともこの前の居酒屋の優に二倍はかかるはずだ。
でも最初がラーメン屋で二度目が居酒屋。和子が気にしないとは言え、デートの場所がいつもそんなところばかりでは、いかにも情けない。いつもとはいかないが、せめて給料日の後ぐらいは奮発すべきだ。
そう思って、思い切って和子に言ってみたのだ。
「わたしはいいわ。進次さんが行くところだったら、どこだってついていくわ。これまでだってそうだったんだし」
和子にそんなふうに言われて進次は最初の日のホテルのことがチラッと頭をかすめたが、「進次さんの行くところならどこでもついていく」というセリフに大いに男心がくすぐられ、前にも増して和子のことがいとおしく思えてきた。
そこからわずか五分ぐらい歩いただけで、二人はそのビルの入口に着き、一階のホールの両側に三基づつ計六基もあるエレベーターのうち、左側のいちばん手前にあったものに乗り、目指す二十三階へと上がっていった。
高速エレベーターは、アッという間に二人を最上階へ運んでくれた。
エレベーターを降りると、正面五~六メートル先にラウンジの入口があったが、その手前右側は総ガラス張りになっており、日もすっかり落ちた大阪北の夜景が大きな窓いっぱいにキラキラと輝いていた。
「わあーキレイ。見て見て進次さん。夕焼けとネオンサインが重なってすごくキレイ」
目の前に広がる夜景に思わず魅入られたのか、和子は足早に窓のほうへ向かって進みながら、感極まったような声を出していた。
窓際で肩を寄せ合い、二人は食事に来たのも忘れたかのように、長い間夜景に見とれて立っていた。
夜のとばりもすっかり下りて、辺りのネオンの海が一段と鮮やかさを増してきたころ、進次が言った。
「和ちゃん。夜景ならラウンジの中からで見えるだろし、そろそろ中へ入ろうか」
和子は先ほどから眼下に広がる光景にすっかり魅入られていて、うっとりした表情をしていたが、進次の声で振り返り「そうね」と返事をしてやっとその場を離れた。
つづく
次回11月12日(木)

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