昨年の芥川賞「火花」では失望したが
文芸春秋9月号で芥川賞受賞作品の「コンビニ人間」を読みました。
昨年の又吉直樹の「火花」で失望したこともあって、「本当に良い作品なのか?」と、読む前は期待と不安が半々でした。
最初の3~4ページまで読み進んだ段階では、はっきり言って「この作品もたいしたことないか?」と、半分ぐらいは失望の気持ちでした。
ところが、それを過ぎると次第に惹きつけられていき、読むのが楽しくなり、先の展開が待ち遠しく感じてきました。
同時に、「この作家はただものではない」、というような、著者・村田紗耶香さんへの尊敬の念が生まれてきました。
コンビニをテーマにしたこれほど優れた作品は、コンビニのアルバイトを18年も続けた作者にしか書けない、と思ったからです。
内容はコンビニの仕事の内容、スタッフの人間模様、コンビニ以外の交友関係、それに家族のことや主人公の日常生活をつづったもので、決してストーリー性が豊かなものではなく
場合によっては読み手の退屈を誘いかねないテーマなのですが、この作者が取り上げると、単調なルーティンワークであるコンビニの仕事が実に生き生きとして輝いて見えるのです。
それに人間模様にしても、店長をはじめ、スタッフはひっきりなしに代わっていき、定着する人の少ない中で、特定の人に対しては、鋭い観察力と説得力のある文章で、人間性を魅力的につづっています。
また、小説らしい意外性も取り入れており、このコンビニの嫌われ者である一人の男性スタッフについては、嫌悪の気持ちを抱きながらも、特別の関心を示して、その後私生活にまで及ぶほど深く関わっていく展開は見事です。
このあたりは、”変人を標榜する” 主人公の面目躍如たるところではないでしょうか。
作家だから当然のことかもしれませんが、著者はまだ30代という若い女性なのに、その鋭い人間観察力に、強く引き付けられました。
この作品についての選考委員の選評を読んでみますと、昨年の「火花」のときは、選考委員の半分ぐらいしか推薦していなかったのですが
今回の「コンビニ人間」は、ほぼ全員の人が「優れた作品である」と、受賞を認めています。
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