2021年11月8日月曜日

今この本がおすすめ  「しごと放浪記」 森まゆみ 集英社


著者の出身大学は早稲田だが、進んだのは女性は珍しい政経学部。ましてや著者が入学した当時は女子学生は稀有の存在といってもいいかもしれない。それをよく示すように、授業では女子学生は一人だけだったと著者自身が語っている。

政経学部と聞けば、文系とはいえ授業内容は至って硬派、それゆえに女性と言えども著者はお硬い人なのではと読む前は思ったのだが、その予想は見事にハズレ、この本は全編を通して親しみやすい砕けて表現が多いわかり易い文章で綴られている。

著者は出版社で編集者をしていたが、作品の評価ポイントとして真っ先に「文章がこなれているか」を上げている。その考えが自分の作品の文章に反映されているのだろう。 

この本は読んでる途中で何度も「良い作品だなあ」と感じた価値ある一冊である。下でご紹介するのは、著者の人間性が特によく現れている一節。 

 

ここを読むと著者の人間性がよくわかる 

30代は地域雑誌を続け、子供を育て、市民運動をいくつも経験しました。36歳で離婚したところ、まだ若くて、男性から二人だけのお誘いがありましたが、私はたいてい「子供が待っていますから」とお断りしました。 

私の結婚指輪は、離婚後、悲しくて痩せたためかゆるくなり、仕方なく中指に嵌めかえました。今度は立ち直って太り、抜けなくなりました。「それって男よけののろいか」と笑われたくらいですが、これはさすがに50代なかばで、消防署に言って切ってもらいました。 

40代は単行本をせっせと書き、半ばになってからはようやく海外旅行に行く暇とゆとりができました。街を見る目を東京でみがいたので、どこへ言っても楽しかった。名所旧跡はほとんど行きません。普通の人々の暮らし、何を食べて、どんなものを着て、どんな家に暮らし、何を信じているのか、余暇はどんなことをして過ごすのか、そんなことを観察するのが面白かったのです。(203ページ)

 

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著者と作品の背景について


自分の仕事を見つけるために著者がたどった「しごと放浪」。
そこには今、仕事について考え、悩み、迷う人のためのヒントがある。
勤められない人、勤まらない人、フリーランスを目指す人も必読。


1970年代、男子学生が圧倒的に多い大学での学生生活、男女雇用機会均等法実施のはるか以前にPR会社や出版社に勤務…。編集者、地域雑誌『谷根千』発行人、書き手として今に至るフリーランスの日々。著者が歩んできた仕事の一本道、脇道、遠回りの道…。思いがけない妊娠、出産、育児を抱えて女の人生は割り切れない。常に切り開いてきた「しごと放浪」の道を自伝的に語る。


今、新型コロナウイルスの感染により、多くの人の労働環境が大きく変化している。著者の「しごと放浪」は、仕事について考え、悩み、迷う人たち、とりわけ著者の「娘」とも呼ぶべき世代や、同じジャンルの仕事を目指す女性へのヒントとなる。
また東京オリンピックの開催で揺れるなか、常に東京を思い、見続けてきた視線から、オリンピックと日本、東京への感慨も語られる。( 出典:集英社)

 

【著者略歴】
森まゆみ(もり まゆみ)作家、編集者。1954年生まれ。出版社勤務を経て1984年、地域雑誌『谷中・根津・千駄木(谷根千)』を創刊。「地域雑誌」を越えた人気を得、谷根千は東京の人気スポットになる。並行して東京の歴史的建物の保存・活用を続ける。『鴎外の坂』『「即興詩人」のイタリア』『「青鞜」の冒険』『子規の音』『「五足の靴」をゆく 明治の修学旅行』『路上のポルトレ』 など著書多数。

 

(この本の目次)

 第一章

均等法以前の女子大生 一九七三~七七
第二章
PR会社に潜り込み、出版社に転職
第三章
赤坂の出版社で編集の仕事を覚える
第四章
もう一度学び直す 東京大学新聞研究所へ
第五章
出産、子育て、保育園
第六章
地域雑誌『谷根千』の船出
第七章
離婚して物書きになる 一九九一
第八章
講演、テレビから保存運動まで
第九章
女性が大切にされない地域は消えていく
第一〇章
あとは町で遊ぶのみ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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