2022年9月24日土曜日

台風や大雨 災害予報のオーバーな表現は聞き飽きた 




・これまで経験したことのない


ような



・過去に一度も出会ったことの


ないような



・いのちの危険がせまっていま



        


要するにこんなのはじめて!」っていうことなのか 

自然災害に対する人の予防の気持ちをより高めようとするためなのかこのところ天気予報で注意を喚起するアナウンスの表現がオーバーで過激になっていることが気にかかる

たとえばこれまで経験したことのないようなとか過去に一度も出会ったことがないようなというふうなものでいかにも今回の天候が過去にないほどの大きな災害をもたらすことを示唆しているのだ

これはまさに脅しの他の何物でもないのではないか。

それに去年も一昨年ももう何年も続けて同じような表現の予報を流し続けているではないか

こうした予報も当たればは納得するだろうがたいていは外れることが多いのが問題なのだ

数日前にも台湾で起きた地震の影響で沖縄地方に津波注意報が出されたが水位は少しも変化することなく予想は見事な空振りだった

こんなことが続いているせいか最近では気象庁がまた例のオーバー予報を出しているぞ!」は辟易しはじめているのだ

要するにいつも予想を外しているのに懲りることなくいつまでも同じような奇抜な表現の予報を流していることには大いに不満を感じているのだ

こんなオーバーな表現の予報を流すぐらいならいっそのこと同じような意味を持っているこんなのはじめて!」という表現を使ったらどうだろうか

例えば

台風襲来激しい雨と風  こんなのはじめて

とでもいうふうに

こちらの方が説得力だけでなくユーモアもあってよほど人に受けるのでなないだろうか

2022年9月19日月曜日

井伏鱒二の小説「多甚古村」が面白い


 多甚古たじんこという片田舎の村 素朴な駐在所巡査の日記風日常記録

多甚古村たじんこむらという南国の小さな田舎の村の駐在所に勤務する甲田巡査の日記のような日常記録だがその村で人が起こす小さな事件との関わりにこの巡査は思いやりある温かい気持ちで接しているがそこに作者井伏鱒二の深い人間性を感じる

読んでいて心温まるだけでなくテンポがいい軽快な展開がとても面白く小説として出来の良い優れた作品であるまさ小説家井伏鱒二の実力を証明する一作ではないだろうか

下に紹介するのは年末大晦日の日の日記だがこの特別な日の出費を家計簿ふうにまとめている

正月元旦の1日前、年に何度もないいわば非日常的な日の家計の出費を記しているのだが、戦時中のこととはいえ、その質素なことに驚かされる

それに何より不思議なのは正月前だというのに酒の準備がないことだ

 



十二月三十一日

 今年の最終の巡回を終り町の年越詣り雑沓取締りの応援に出張する私たちはみな帽子の顎紐をかけて手に提灯を持ち左右の通行人にせいてはいけませんよ押しては子供が危いなどと叫ぶのである戦時中のため参詣人は特に雑沓する大道商人や屋台店や見世物やバナナ屋なども今年は例年の五倍もたくさんゐたしかし例年と違ひ今年は喧嘩が一つもなくてその代り地味でみな理由の通る密会が四組ほど挙げられた

 帰って来てからも私は家計簿を調べ購入品の消費額と日割りの対照に自分ながら興味を持った左のような入費の割合であった

米二升十日分七十四銭醤油一升二十日分四十銭酢五合二十日分十三銭砂糖十日分五十銭味噌百目五日分七銭大根一本二日分五銭炭一俵二十日分一円三十銭煉炭十二箇十二日分五十銭炬燵と火鉢のたどん三箇一日分一銭コーヒー一箇月分九十銭めざし二日分三銭バット二箇一日分十六銭電気代九十銭新聞代一円散髪代三十銭月一回

 他に必需品と関係のないものは十二月分はコサック従軍記古本五十銭レ・ミレザブル古本二十銭一回十一銭小魚五回五十銭うどん二回十銭慰問袋二箇一円管内貧困者へ寄付一回七十銭菓子七回七十銭靴墨葉書インキ等四円也以上のような割である

 私は自分のこの物品消費の状況を見て国家から金銭をもらってゐる私はこれだけの物品を消費して果してそれに値するだけの人間奉仕をしてゐるだろうかと熟考したそれに値する代物かどうかといつくづく考えたが自分で軽軽に判定することは差しひかへることにしたそれでも私は月四十三円のほかに手当をもらひ年末のボーナスをもらふので実家に毎月十五円づつ仕送りをして母と弟にも小遣をすこし送れるというものだ.。


出典:日本文学全集 43 筑摩書房

 

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井伏鱒二
(1898-1993)広島県生れ本名満寿二中学時代は画家を志したが長兄のすすめで志望を文学に変え、1917(大正6)年早大予科に進む。1929(昭和4)山椒魚等で文壇に登場。1938ジョン万次郎漂流記で直木賞を、1950本日休診他により読売文学賞を、1966年には黒い雨で野間文芸賞を受けるなど受賞多数。1966文化勲章受賞

2022年9月14日水曜日

blogger「生涯現役日記」に載せた私の記事が 並みいる大手サイトを抑えて googleページランク(2022/9/14)で堂々第2位に !!

 

小説新人賞応募者へで検索したgoogleページランク

(202214)


 

  (1) 応募者必見編集者が語る小説現代長編新人賞・虎の巻


(2)小説新人賞応募者にぜひとも伝えたいこと・シリーズ(1)~

      http://tuneoo.blogspot.com/2020/07/blog-post.html

 

(3)小説の賞に応募する原稿の書き方 ルールをプロが

 

(4)短編小説新人賞 応募要項 集英社Webマガジンコバルト

 

(5)一次選考で落とされるつのパターン(2018月号

 

(6)新人賞の応募するときに知っておくべきことあれこれ

 

(7)Webかから応募できる小説新人賞まとめ 2022年下半期

 

(8)文學界新人賞 作品募集 文藝春秋


9)12 ポプラ社 小説新人賞

 

(10)文学賞応募者必見!【表紙の書き方・つけ方講座 カクヨム

 

出典;google検索ページ小説新人賞応募者へ」2022/9/14

2022年9月11日日曜日

青春18きっぷ、JR大阪天満駅改札口でトラブルに


青春
18きっぷの日付スタンプ・駅員は確認しにくいのか

この夏青春18きっぷは枚目だということは利用可能日は計10日間になる

上の写真にあるように使用する日に駅員がその日の日付スタンプを押印してくれるのだ

トラブルが起きたのは日目に使用をした9大阪天満駅でのことだった

大阪の天満は居酒屋立ち飲み屋の聖地とも呼ばれる場所で評判の名店は多い

数ある名店の中から天満駅すぐそばにある2軒の立ち飲み屋がすごく気に入り、この日はそのうち1店のほうに行った帰りだった

JR天満駅でいつものように中に駅員がいるいちばん橋の改札口できっぷを中の方に向けて通過した

改札を通過して5~6メートル進んだところで思いがけないことが起こったなんと改札口にいた駅員が、「ちょっと待ってくださいと追いかけてきたのだ

いったい何事かと思って振り返ると、駅員がきっぷをもう一度見せてくださいというではないか

なんだか意味がよくわからなかったがとりあえずきっぷを出して見せた。

すると駅員はキップにチラッと目をやってからけっこうですと言って去っていった


不正乗車を疑われて腹が立った

しかしこちらとしては少しもけっこうでないなぜって駅員が追っかけてきたのは不正乗車を疑ったからなのに違いないのだ

スタンプがよく読み取れなかったからというよりキップに何らかの不正があるという不審から追いかけてきたのではないだろうか

要は不正乗車を疑われたのだこれが腹が立たないわけがない

こちらは何の不正もしていないのだこのまま済ませておけないと思い窓口に引き返しててその駅員に問うたどうして追いかけてきてまでキップを確認したのか

でも駅員は口を濁してはっきり答えなかった

疑われたこちらとして気が収まらず、もっと粘って問い詰めようと思ったのだが、「車内に忘れ物をしたという女の人がが窓口で話し込んでいて駅員はそちらにかかりっきりになっていた。

腹の虫はまだ収まらなかったが、こんなことで、気に入った立ち飲み屋で得たせっかくの酔い心地をさましてしまったらもったいないではないかとも思い心残りではあったが今日のところはこのまま立ち去ることにした


駅員は18きっぷスタンプ日付を瞬時に読み取るための動体視力訓練を受けているのだろうか

青春18きっぷを使い始めて以前から思っていた
駅員は客が歩きながら見せる18きっぷの日付スタンプを読み取ることができるのだろうか

上の写真で見ればお分かりだと思うがスタンプの印影はそれほど濃くはない
それを目の前に差し出されるとは言え立ち止まって出してくれる場合はいいのだが動きながらだと目をやるのは一瞬のことになる

その間にスタンプの日付を読み取らなければいけないのだそのためには目がよくなければいけないがそれだけでなく優れた動体視力が必要なのではないだろうか

はたして駅員は動体視力の訓練を受けているのだろうかいやそこまで行ってはいないのではないだろうかだからこそ今日のように見損なって後から客を追いかけているようなことが起こったではないか

でも動体視力の訓練が無理ならば別の対策が必要なのではそれにはまず日付スタンプをよく見えるようにすることだ
そのためにはスタンプの色を目立つように濃くしたり色を変えたりすることが必要だ

見間違えて客に不正乗車の疑いをかけないようにするためにも是非とも実行していただきたいものだ

2022年9月4日日曜日

小説にも書いた これが我が身に迫ったクライシスだ(シリーズ・その6)(最終回)

  


小説名《直線コースは長かった》

その男の言葉を信じて買った万円の馬券だったが                    

 

連勝複式 一と三の組六百二十円オッまた上がっている

六百二十円もついたのかええっとそれだとろくさんが十八でにさんが六で合計一万八千六百円かそれから三千円を引くと一万五千六百円だな


「やった最初からこんなに儲かった」


久夫は頭の中でこんな計算をしながらウキウキした気分で払い戻しの順番を待っていた


配当金を手にして次のレースまでまだ二十分あると時間を確認すると馬券売り場の並びの隅にあるスタンド喫茶へ行きコーヒーを頼んだ


 次が第四レースだしこの調子だと元手の五万円が倍になるのは時間の問題だな。 

そんな都合のいいことを考えながら熱いコーヒーをすすっていた


第四レースの前オッズの掲示板のところには少しだけしかとどまらなかった第三レースの前にすでに予想は立てていてこのレースは本命に中穴馬券を絡ませた三点買いだと決めていたのだただその三点にどれだけ賭けるかはまだ決めてなかった


 前のレースで勝ったことだしよし今度は倍の六千円を賭けてみよう本命の〈5―6〉に三千円残った三千円を〈6―8〉〈1―8〉に千五百円づつよしこれでいこう久夫がそう結論を出して発売窓口に並ぼうとした時だった

 

やあ久しぶりどうしてたの元気だった?」

 

雑踏の中からふいにそんな声が聞こえてきた自分に向けたものではないだろうそう思ったもののいちおう声の方ををり向いてみた


カーキ色のジャケットに白いズボンをはいた大柄な男が二メートルほど先に立っていた満面に笑みをたたえていてもうこれ以上にこやかな表情はできないと思えるほどのこぼれるような笑顔を向けて男は立っている

 

あのう僕でしょうか?」久夫は左右を見わたした後男にそうたずねたその人にさっぱり見覚えがなかったからだ


そうですよあなたですよ本当に久しぶりですねえ三年ぶりくらいじゃないですかお元気そうでその後どうだったんですか?」

 

男は少しも笑顔をくずさずそう言った

 

久夫はそのこぼれんばかりの笑顔と懐かしそうな声にすっかり引き込まれながら考えていた三年ぶりはて誰だったろう


この街で会った人ではないということは以前いた大阪か仕事での取引先の人だろうかそれとも学生時代の友達かいやそんなはずはない相手は大分歳上だああ思い出せないうーんいったい誰だったろう? 


次のレースの馬券を買わなければいけないこともあってか久夫の頭は少し混乱してきた。「あのう失礼ですがどちらでお会いしたんでしょうか?」久夫がそうたずね終わるか終わらないうちに男がまた口を開いた

 

ところでさっきのレース取りましたか?」

 

ええまあ質問をはぐらかされてか久夫はポカンとした表情で答えた


そうですかそれはよかったですねえ実は僕もなんですよ見てくださいこれ男はそう言って右手をジャケットの内ポケットに突っ込むとすごく部厚い札束をつかんで久夫の目の前に突き出した


それを見て久夫はえっと声を上げて後ろへ少しのけぞった目の前に出された札束の厚さに驚いたからだ百万円いやもっとある

すごいですねえ!」いっしゅん相手が誰だったか考えるのを忘れたかのようにつぶやくように言った

 

ねえこらから第四レース買うんでしょうなに買うんですか?」]


は間髪をいれずに聞いた。「これなんですけど男のその声につられて久夫は予想紙に赤鉛筆で書いた三点の数字を見せながら答えた

 

ああこれねいい線いってるけどこれでは駄目ここだけの話なんだけど本命になっているこの五枠の馬練習中に足を打撲したらしいんですよ一時は出走取り消しも考えたそうだしだから五枠はまず無理買うなら三番人気の〈1―8〉もう一点休養あけのサツキヒーローを絡ませた〈7―8〉、これですよこれねえところで今いくらお金もっていますか?」

 

男は屈託なく少しも悪びれた様子のない口調でたずねた


六万円ほどですけど


久夫は反射的につい正直に答えてしまった

 

そう六万円ねじゃあそれ出して僕が一緒に買ってきて上げますよ

 

男のその言葉に久夫はなんの抵抗もなくズボンのポケットに手を突っ込み二つ折りの札束をつかむとそれから千円札だけ抜いて差し出した後で考えるとその時はまるで催眠術にでもかけられたかのように抵抗力というものが少しも働いていなかったのだ

 

じゃあちょっとここで待っててくださいね

 

久夫からお金を受け取った男は三列ほど離れた窓口へ行き間もなく馬券を握って戻ってきた

 

はいこれ六万円分あと五分もすればこれ少なく見積もっても五六十万にはなりますよじゃあ僕はこれで向こうに人を待たせているものですから

 

男は馬券を渡した後そう言うとピョコンと頭を下げて立ち去った久夫には事態がよくわからなかった

 いったいどういうことだろうか?、これってだいいちあの人が誰だったかまだ思い出せていないそれなのに持ち金のほとんどを渡して一度に六万円分もの馬券を買わされるとはまったくどうなってるんだろうか? ]]


その後しばらくの間久夫はまるでキツネにでも化かされたかのようにぽかんとした表情でその場に立ちつくしていた

 

あと一分で発売窓口を締め切ります

 

場内アナウンスのその声で久夫はやっと我に帰りわたされた馬券をしげしげと見つめた。〈1―8〉四万円、〈7―8〉二万円の合計六万円馬券にはそうプリントされていた

 

 うーんでもこれあたるのかなあ少しだけ平静さを取り戻していちばん近くにあるオッズを映し出しているテレビモニターの画面を見た。〈1―8〉十二六倍。〈7―8〉三十八六倍というオッズが映し出されていた


すると、〈1―8〉が入れば五十万円ちょっと、〈7―8〉だと三千八百六十かける二百でええっと七十万円以上にもなる当たればすごい


発走時間があと一分後に迫っていることもあったせいか男のことがまだ気にはなっていたが気持ちはぐっと次のレースへと傾斜した

久夫は手にしていた馬券をズボンのポケットに奥深くしまい込むとあたふたと観覧席の方へ急いだ

 

さっきいた位置まで戻ってきて座ろうと思えばまだ少し席は空いていたが今度ばかりはゆっくり腰かける気にはなれず階段の端の通路に立ち今か今かと出走の合図を待っていた


場内スピーカーをとおして威勢のいいファンファーレが鳴りついに第四レースはスタートした


ウォーという歓声とともに座っていた観客が一斉に立ち上がったスタート地点は第一コーナーの手前で馬群はスタートしてすぐにカーブにかかりしばらくはどの馬が先頭なのかよくわからなかった

 白とピンクと橙だとにかくそれが来ればいい

 

馬群が向こう側の長い直線にかかったところで目を凝らして騎手の帽子の色を見た一番手が黄色二番手は白その後を並ぶようしてピンクと橙色が走っているオッ四番以内に三頭全部が入っている! 脳裏をサッと部厚い札束がかすめた


馬群はそのままの順位で第三コーナーをまわりまもなく第四コーナーにかかろうとしていたさっきから一番手を走っている黄色の馬の勢いがやや鈍り二番手の白との差が一馬身ほどに詰まっている

 

 「その調子黄色後退しろ後退しろピンク橙ガンバレ!」

 

久夫は興奮で息が詰まりそうになりながら胸の中で必死に叫んでいた

第四コーナーにかかり直線に入るちょっと手前で黄色の馬がずるずる後退してあっと言うまに四位になった

 

 やった来たぞ来たぞピンク橙が


ゴールまで直線二百メートルのところでピンクの騎手がビシッと鞭を入れると馬は一気にスピードをあげあっという間に二位の白に三馬身ほども差をつけたよしこれでピンクの一着はだいじょうぶだあとは後続の二頭のうちどちらかが二着になってくれればいい

 

久夫はそう思ってはりさけんばかりに胸をふくらませながら直線に入った馬群を凝視していた

先頭のピンクがさらに飛ばして差を広げたのでもうその方には目を向けずひたすら白と橙ばかりに視線を送っていた二位の白と三位の橙の差は半馬身


でも二頭とも直線に入ってからはなにかヨタヨタしていてもうひとつスピードにのれていない久夫がそう思っていたときだった

 

第四コーナーをまわった時は確か五六番手だったはずの黒の馬が直線一気に差を詰めてきてあっというまに黄色を抜き去り残り百メートルのところでは三位の橙にももう一馬身と迫っていたおまけに前二頭に比べて足どりがしっかりしていてスピードもだんだん増してきているようだった

危ない黒に抜かされる橙ガンバってそのまま逃げ切れ久夫は胸の中でそう叫び拳をギュッと握りしめ食い入るように三頭の馬を見つめていたそれでもあと百メートルくらいのところまでは順位はかわらなかった


ゴールまであとわずか五十メートルというところで黒の騎手がビシッビシッと激しく鞭をいれた出た出た黒の馬が出たそしてついに橙と並んだ


あぶない!」久夫がわれを忘れて大きな声で叫んだとき三頭の馬はほどんど並ぶようにしてゴールへなだれこんだ

 

ゴール寸前で橙色はわずかだが黒にかわされたでも白はどうだろう内枠と外枠でかなり位置が離れていたので定かではないけれどなんとか頭差くらいで二着に残っていたのではないだろうか


「2―8、2―8久夫に大きなダメージを与えるそんな声があたりのあちこちから叫ばれた。「なにっ、2―8だとそんなばかなこと! だったらこの六万円の馬券はモクズと消えるではないかとつぶやいてあたりのそんな声を必死で否定しようとした

 

「1―8、1―8白が鼻差で残っていたすぐ近くでさっきとは別のそんな声がしたとっさにその方をふり向いて声の主に上ずった声で聞いた


そうですねえシロの馬たしかに残りましたねえ」「残った残った。1―8にまちがいない野球帽をかぶった初老の男のその自信に満ちた言葉を聞いて久夫はすっかり有頂天になり足が地につかない気持ちだったでも不安な気持ちもまだ半分くらいあった


レース後のどよめきが少しおさまって上の方からぞろぞろと下りてくる観客の波にもまれて久夫も階段を下りていきとにかく払い戻し窓口の方へ行こうと思っていた時だった

 

第四レースの結果をお知らせします場内アナウンスが流れてあたりがシーンとした久夫はこのまま息が止まるのではと思うほど期待と不安が交錯した気持ちで放送に聞き入った

連勝複式。2の組二千百四十円

 

それは恐ろしいほど冷酷な響きをもって久夫の耳に飛び込んできた

まさかとは思ったがやはりゴール前で白の馬は激しく差し込んできた黒の馬に抜かれていたのだ


アナウンスを聞いてそのまま三歩ほど歩いたところで体の力が見る見る抜けてくるのがはっきりわかったそして立っているのもいやだという気になり近くのベンチにへなへなと座り込んだ


 そんなばかなさっきの人だって白が鼻差で残っていたと言ってたではないか

 久夫にはまだ結果が信じられなかったそして先ほどの放送は間違いでしたまさかあるはずもない場内放送が聞こえてくるのではなどとばかげたことを力なく考えていた

 

その場にどれくらい座っていただろうか次に耳にしたのは、「第六レースの結果をお知らせしますというアナウンスであった


レースとレースの間は三十分だから第四レースが終わってからその場所に一時間以上もポカンと座りつくしていたのだその一時間余第四レースでもうちょっとのところで取れた大金を逃した悔しさと六万円もの馬券を一度に買わせた男のことが交互に頭にもたげて来ていた

 

 それにしてもあの男いったい誰だったのだろう六万円の馬券を買わせたのは好意からなのだろうか確かにあの男が言ったように五枠の黄色の馬は途中でズルズル後退して着外に敗れた


そして総合的な結果にしても一着のピンクの馬は別格としても最後に黒の馬に抜かれた白と橙の馬を含めて予想した馬のすべてが四着以内に入っており実にいいとこをついてたではないか


でももし黒に抜かれずにあのまま〈7―8〉と入っていて大金をつかんでいたとすればいったいどうやってあの男を見つけどのようにお礼を言ったらよかったのだろう? 

 

少しだけ冷静さを取り戻して久夫がそんなことを考えていたときだったそれまでのものと違って今度は男の人によるアナウンスが聞こえてきた。「場内の皆様にお知らせしますたちの悪いコーチ屋グループが場内に入り込んでいます


馬券売り場近くで知らない人に話し掛けられたときはじゅうぶんご注意ください一回目のときにはそれを聞き流したでも二回目に同じアナウンスが流れてきたとき、〈コーチ屋と言う言葉が耳について離れなかったコーチ屋っていったい何だろうコーチと言えば人を指導すること


コーチ屋つまり人を指導する商売かそんなふうに考えていてハッと気がついたそして馬券売り場窓口の近くでなれなれしく近づいてきたあの大柄なパンチパーマの男の姿が脳裏に浮かんできたあれだあの男がコーチ屋だ


そうだ自分はそれに引っ掛かったのだ。「やあ久しぶりですねえと近づいてきたときのあの懐かしそうな声親しみに満ちたこぼれんばかりのあの笑顔そうだあれは全部やつの芝居だったのだそうだきっとそれに違いない


どうりでいくら考えても思い出せなかったわけだ最初からあんな男知らなかったのに人に他のことを考えさせてその隙に自分のペースに乗せてしまうしかも小道具に前のレースで取ったという部厚い札束をちらつかせながら

 

でもレースの予想はいいとこついてたではないか黄色の馬は足を故障していて駄目だと言ったそのとおりあの馬は第四コーナー手前で大きく後退して着外になっている馬については彼らもそれなりに研究しているのであろうか


それにしても不思議なのは買った馬券を全部渡してサッと去っていった騙したとしても彼には何の報酬もないではないか


そう考えていると久夫は何がなんだかよくわからなくなってきた



 

 小説直線コースは長かったより危機の部分抜粋