書評に入る前に、まずこの本の値段に触れないわけにはいかないだろう。
なんと単なる文庫本なのに、その値段は驚くべきか、1650円(税込)なのである。これって普通の単行本の平均的な値段をも上回っているのではなかろうか。
上の写真がこの高価な文庫本、講談社文芸文庫「追悼の文学史」である。
この本の表紙を見ただけで、値段を当てることができる人はおそらく皆無なのではあるまいか。
文庫本の値段が異常にに高くなった昨今だが、それを見込んでも、予想できる値段の範囲は1000円以内であろう。
それ故に、裏ページを見て、1650円と知ると、誰もが「嘘ッ、なんで!」と驚嘆するに違いないだろう。
この値段だと本屋で購入する人は皆無なのではあるまいか。したがって、研究者や図書館だけの購入になり、あらかじめそれを予想してつけた値段なのに違いない。
この文庫本が高い理由は
文庫本の値段はページ数で決まることが多いが、稀に発行部数による場合もある。
元は「群像」という購読数の少ない地味な純文学誌に掲載された作品を一冊にまとめたものゆえに、一般の人の購入はあまり期待できないが、たとえ少部数でも出版する価値のある場合などである。
こうした本は主な購入ターゲットを図書館や研究者などとして、極めて少部数で発行されるのだ。
出版社としてはたとえ発行部数が少なくても、採算に乗せなければならない。そのためには価格設定に頼るしかないのだ。
かくして1650円の文庫本の誕生となる。
昔(1980年代)の文庫本の価格は
私の古い読書記録を見ると、感想文のほかに、本の発行年や価格が書かれているが,それによると今から約40年前の文庫本の価格は以下のようになっている。
これでわかるように、40年前の文庫本の値段は、現在の平均価格の約40%程度である。
さて、この本の評価は
この本は文豪と呼ばれた佐藤春夫、高見順、広津和郎、三島由紀夫、志賀直哉、川端康成等 6名の作家の死後に書かれた、文壇著名人による追悼文集である。
文豪たちの思い出話や、知られざるエピソードなどが記されていて、なかなか興味ぶかい価値のある書物である。
一流作家43名による秀逸なエッセイアンソロジー
「追悼の文学史」というタイトルはやや堅苦しいが、内容は決して固くはない。
地味な書名は忘れて、大正から昭和にかけての一流作家(作家以外の文化人も含む)43名によるエッセイアンソロジーだと思って読めばいい。
これだけ豪華な執筆陣はそう簡単に揃うものではない。それだけに素晴らしい出来栄えのエッセイ揃いで、読者は名文の数々に酔いしれること請け合いである。
1650円という価格はさておいて、本好きなら絶対に見逃せない価値ある一冊だ。
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出版社内容情報
佐藤春夫、高見順、広津和郎、三島由紀夫、川端康成等逝きし巨星への追悼文集。筆者には柴田錬三郎、森茉莉、中野重治、武田泰淳他。佐藤春夫、高見順、広津和郎、三島由紀夫、志賀直哉、川端康成――逝きし巨星への追悼文集。
<執筆者一覧>
阿川弘之、網野菊、石坂洋次郎、伊藤整、井上靖、上田三四二、江口渙、円地文子、大庭みな子、奥野信太郎、尾崎一雄、小田切進、上司海雲、亀井勝一郎、河野多惠子、佐多稲子、柴田錬三郎、瀬戸内晴美、高田博厚、瀧井孝作、武田泰淳、竹西寛子、田村泰次郎、檀一雄、丹阿弥谷津子、富沢有為男、中谷孝雄、中野重治、中村真一郎、新田潤、丹羽文雄、長谷川幸雄、平野謙、広津桃子、藤枝静男、舟橋聖一、本多秋五、松本清張、丸岡明、室生朝子、森茉莉、山本健吉、吉行淳之介(五十音順)
※本書は、『群像』(1964年7月号、1965年10月号、1968年12月号、1971年2月号、1972年1月号、同年6月号)を底本といたしました。
出典:紀伊国屋書店
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