火花が大ベストセラーになったのは作品の力ではない
昨年の又吉直樹著「火花」が280万冊という爆発的な売り上げを記録してから、おそらく芥川賞がよく分からなくなったと考える人は多いはずです。
なぜなら、一般的な意見として「おもしろくなくてつまらない」と評された作品がなぜか、賞を取り、その後爆発的な売り上げを記録したことに多くの人が疑問を抱いているからです。
つまり「火花」が芥川賞になったのも、爆発的売り上げを記録したのも、すべて著者が所属している吉本興行と、出版者である文芸春秋が仕組んだことで
小説の価値が優れていたからではない、と多くの人がうすうす感づいているからです。
それ故に作家登竜門である名門「芥川賞」に疑念を抱く人が増えているのです。
火花の次の芥川賞は村田紗耶香さんの「コンビニ人間でした。
この作品は「火花」よりはるかに高い評価を受け、読んだ人のことごとくが、おもしろくて価値ある作品で読みごたえがあったと評価しています。
では売り上げはどうかというと、最近になってやっと50万部を超えたところで、火花には遠く及びません。
でも50万部売れたら大成功で、作家としては胸を張って大いばりできます。
そもそも前回の火花の280万部が異常なのであって、前述のように、作品の優劣評価という点では参考にすることはできません。
前置きがずいぶん長くなってしまいましたが、以上のことを頭に入れて今回の芥川賞作品「しんせかい」を読んでみました。
結論から言うと、面白さで言えば、コンビニ人間ほどではありませんが、火花よりはよほどましでした。
独断と偏見による芥川賞評価ポイント
とはいえ、芥川賞は直木賞のようにエンタテイメント性ばかりで評価できないところがありますので、おもしろさだけでなく、次の点も考慮に入れて評価してみました。
それは
・琴線に触れるような心打たれる文章は多いか?
・展開に意外性はあるか?
・作者の人間性に共感、感銘できるか?
の3点です。
まず琴線に触れる文章ですが、人は芥川賞作品のような優れた小説を読む際には、なんらかの感動を期待します。
そうした感動を与えてくれるのは琴線に触れるようなすばらしい文章です。
しんせかいにはそうした文章が少なからずある上に、全編を通してウィットとペーソスが満ちており、琴線に触れる、ということに関しては合格です。
次は展開に意外性があるか、という点ですが、一般的に小説を読む際には、読み手側の意に反して、ストーリーが思いがけない方向に進むと、ハッとさせられ、それに刺激を与えられます。
人は刺激を求める動物ですから、そうした小説には好感を持ちます。
しんせかいにはこの意外性が全編を通して見られます。それが読者をハラハラさせて興味をつながせるのです。
最後の作者の人間性です。前で全編がウィットに満ちている、と書きましたが、この作者はユーモアセンスの持ち主です。
ボソッと言った一言にも、どことなく面白さを漂わしているような根っからのユーモアセンスの持ち主です。それが読む人を引きつけるのです。
それだけでなく、この作者は反骨精神も持ち合わせていて、権威に対して安易に迎合したりしません。
それをよく表しているのは、この作品の重要人物である「先生」にあえて逆らう姿勢を示していることです。このことも読者の好感を呼びます。
といういうことで、作者の人間性も十分に伝わってきました。
以上のような評価になり、総合的に判断しても、「しんせかい」は小説として読みごたえがあり、芥川賞にふさわしい作品である、と認めることにしました。
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