2019年11月23日土曜日

名作を読み直してみた(1)・ 田舎教師 田山花袋

 
 
文庫版(新潮文庫)は106刷りにも達する超ロングベストセラー
 
一見自伝風の作品だが、そうではない。花袋には生涯教師の経験はない。
 
「蒲団」と並ぶ代表作だが、古い作品にもかかわらず現在でも根強い人気を続けている。その証拠に左の写真にある新潮文庫は平成30年の発行まで実に110刷りを数えており大ベストセラーにも匹敵する発行部数を誇っている。
 
110刷がいかにすごいかといえば、たとえば夏目漱石の「こころ」や「草枕」などと比較しても、決して遜色がないことからもよくわかる。
 
もっとも太宰治の「人間失格」のように206刷りという恐るべき超ロングベストセラー作品もあるのだが。
 
 
田舎教師はなぜこれほど長い間人気が続くのか
 
・文章とストーリーがわかりやすい
古い本を読むのに悩まされることのひとつは仮名遣いと意味不明の古い用語が多いことです。今の新仮名づかいでなく、読みづらい旧仮名づかいになっている上に、今では使われていない古い用語が出てくることもあります。
 
確かにのこの作品にもそうした箇所は少なくありません。でもそうした箇所にはほとんどルビが振られていますから読めないことはありません。
 
そんな難点は多少あっても、文章が回りくどくなく非常に素直な読みやすい表現で書かれいるためスラスラ読み続けていけます。
 
またストーリーが時系列に順序だてて展開しているため、わかりやすく、途中でこんがらがり、立ち止まって整理しなければならないようなことはありません。
 
読んでいる最中に「なんとわかりやすい小説なんだろう」と何度も思ったぐらいです。
 
 
・卓越した背景(情景)描写と心象描写
一般的に小説は、背景描写、心象(心理)描写、会話文でなりなっています。その比率は均等ではなく作品によって異なりますが、概して下手な小説ほど会話文の比率が多く、小説で大切な要素である背景や心象描写がうんと少なくなっているようです。
 
それは会話文に比べて書くのが難しいからです。会話文はともかく、背景や心象の描写こそが作家に力量が問われる大切な要素なのです。
 
この作品は会話文は極端に少なく、その反対に背景、心象の描写が非常に多くなっています。だからといって決して読みづらくはなく、作者の卓越した表現力(文章力)はこの作品の価値をうんと高めています。
 
 
・登場人物が多彩で魅力的 
主人公(林清三)の魅力を語るには、登場人物を挙げないわけには行きません。なぜならこれが多彩で多いほど、主人公の人間性が良くわかるからです。
 
彼を取り巻く人物は学生時代の友人を初めとして男女とも非常に多くいます。とりまく友人が多いということは彼が人として魅力があるからであり、それが人をひきつけるのです。これが登場人物を多彩にし、この小説の大きな魅力になっています。
 
 
・文学のかおりが高い
小説などの文芸作品を読んでいると、よく文学とは何か、という命題に突き当たります。特に純文学と称される作品を読む際によくあることです。何を言おうとするのかが不明で内容にさっぱり興味がわかないため、小説(文学)というもの意味がわからなくなってしまうのです。
 
その点この作品は違います。薫り高い瑞々しい文章が散りばめられており、味わい深い文学のかおりが、初めから終わりまでいたるところに立ち込めているからです。
 
”これぞ文学 ”という思いを強く感じさせる作品です。
  
 
 
田舎教師 あらすじ
主人公林清三は、埼玉・三田ヶ谷村の小学校教師。中学卒業までは青雲の志に燃えていたものの家庭の事情もあって卒業後は薄給(月給11円)地方の教師になるしかなかった田舎の地味な教師生活の中、時には東京から下宿先の寺に学生時代の親友らがやって来て、酒に酔いにまかせて文学談義を闘わしたり、また一高に行った友人から葉書を羨望をこめて読んだりしながら日々を送っていた。そうした中で教師仲間で通った田舎の小さな料理屋酒の味もおぼえ。夏休みがやってくると密かに思いを寄せていた熊谷に住む親友の妹が学校から帰ってきたのを訪ねてその美貌に恋心を募らすそうした焦燥と寂しさを癒やそうと利根川べりの妓楼に女を求めに行くようになり生活は乱れるやっと堕落から逃れて、何とか気を取り直すと、かねてより学校の授業の合間に勉学を重ねてきた音楽の試験を受けに東京へ行くが、あえなく失敗に終わり借金はますます増えていったその後健康も次第に悪化して、病魔は日に日に体を犯していったついに学校休み、実家で養生を続けたがくしくも日露戦争での遼陽半島占領で賑わう提灯行列の日に貧困のなか寂しく死んでいく。


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