2020年3月23日月曜日

名作を読み直してみた(5)・人間失格 太宰治


空前絶後 驚異の超ロング大ベストセラー

一般的に本は100万部売れたら大ベストセラーと呼ばれます。

ところがです。この人間失格はこれまでに文庫版だけでもその7倍に当たる700万部近くを売りつくしているのです。

そうなのです。太宰治の「人間失格」は夏目漱石の「心」と並ぶ、日本文学史上空前絶後の超ベストセラー作品なのです。


手記という形をとった自伝的作品

人間失格は自伝的な私小説とみなされていますが、その形式は手記という形をとっており、構成は5段になっています。

最初は「はしがき」に始まり、その後 第一の手記、第二の手記、第三の手記と続き、最後の「あとがき」で終わっています。
手記とされているのは第一から第三までの手記の部分です。



あらすじ(内容)

(第一の手記)
[恥の多い生涯を送って来ました」という文章で始まります。自分の感覚は人とはまったく異なっており、いつも混乱していて発狂してもおかしくない。こんな状態ゆえに、人とはまともに会話を交わすことが出来ず、そのエクスキューズとしていつしか道化役を演じてしまう。

(第二の手記)
中学時代に自らの数少ない技術である「道化」を危うく見抜かれそうになり恐れおののく。その後進んだ旧制高校で堀木という悪友に出会い酒と煙草、それに淫売婦と左翼思想に染まっていく。

(第三の手記)
ある罪に問われて旧制高校を放校となり、引受人の男の家に逗留するが、男といさかいを起こし家出してしまう。それが酒と女に溺れるきっかけになり、やがて破壊的な女性関係にはまり、絶望の淵に立たされる。

ウィキペディア参照


自殺直前の精神的混沌状態にあり カオス感がにじみ出ている

太宰治の作品は純文学系にしては文章が比較的読みやすいのが特徴で、それが人気の理由の一つになっているとも言えます。代表作の「斜陽」「走れメロス」などを見てもそれがはっきりわかります。

しかし、「人間失格」に限っては決してそうは言えず、支離滅裂とまではいきませんが、理解困難な語句や文章が多く、しかもまるで夢でも見ているように脈略が乏しいシーンが次々展開し、読者には納得し難い場面が少なくないのです。

なぜこうなのか、と考えてみますと、これを書いたのは玉川上水での自殺のわずか1ヶ月前で、結核という病気による身体の衰えも相まって精神的には非常に混沌としていた時期であり、内面的にカオス状態にあったのではないかと推測されます。

人間失格におけるこのような文章や展開の乱れにについては、数ある書評ではほとんど取り上げられていないのは不思議です。太宰治に対する大作家(神様的)崇拝が強すぎて、悪い点には目を向けないようにしているかもしれません。


女性にモテた自慢話がたびたび出てくるが

太宰治が女性によくモテたということは、ファンならずとも誰もが認める有名な話です。しかし当人がそれについて自慢するようなことは、これまでの作品ではあまり見られませんでした。

でも自伝風の手記だからかもしれませんが、この作品では著者である本人自らが女性に持てた話(女性に貢がせた話)をたびたび書いているはいったいどうしたことなのでしょう。

人は他人の自慢話はあまり聴きたくないものです。読者のそうした心理はよく知っているはずの太宰が、あえてそれについて自慢気に書いたのは、おそらく精神耗弱のせいで理性を失っていたからに違いありません。


良家のお坊ちゃんなのにお金に苦労した話が意外に多い

太宰治は父親が政治家という、知る人ぞ知る名家のお坊ちゃんです。したがってお金の心配など無用というふうに読者は思ってきました。

しかしこの作品にはお金の話がよく出てきます。それもキンケツでお金に苦労した話が多いのです。

もちろん実家からの送金が途絶えたからではありません。一定の金額で仕送りは続いていたのですが、キンケツになったのは酒と女での桁外れの浪費が原因です。

それが日に日に激しくなりお金がいくらあっても足らなかったのです。そうなったのも自殺を考えるほどの精神荒廃のせいに違いありません。


死ぬ前だから懺悔のつもりですべてを暴露したのか

女性のもてる話やお金に苦労した話など、この作品には他の太宰作品ではあまり触れなかったような話がよく出てきます。

これはおそらく自殺したいような精神の錯乱状態にあって自制心がきかなくなったのと、それに懺悔の気持ちが加わって、これまで言えなかったことを吐露してしまったのではないでしょうか。

この作品での、たまたま偶然に見つけた睡眠薬を大量に飲んで自殺を図ることでも分かるように、日常生活そのものが生と決別する行動をいつ起こしてもおかしくないような錯乱した精神状態であったに違いありません。


映画・人間失格「太宰治と3人の女たち」

小栗旬が文豪・太宰治を演じ、小説「人間失格」の誕生秘話を、太宰を取り巻く3人の女性たちとの関係とともに描いたオリジナル作品。
「ヘルタースケルター」「Diner ダイナー」の蜷川実花がメガホンをとり、脚本を「紙の月」の早船歌江子が手がけた。
1964年、人気作家として活躍していた太宰治は、身重の妻・美知子と2人の子どもがいながら、自分の支持者である静子と関係を持ち、彼女がつけていた日記をもとに「斜陽」を生み出す。
「斜陽」はベストセラーとなり社会現象を巻き起こすが、文壇からは内容を批判され、太宰は“本当の傑作”を追求することに。そんなある日、未帰還の夫を待つ身の美容師・富栄と知り合った太宰は、彼女との関係にも溺れていく。
身体は結核に蝕まれ、酒と女に溺れる自堕落な生活を続ける太宰を、妻の美知子は忍耐強く支え、やがて彼女の言葉が太宰を「人間失格」執筆へと駆り立てていく。
太宰を取り巻く3人の女たちを演じるのは、正妻・美知子役の宮沢りえ、静子役の沢尻エリカ、富栄役の二階堂ふみ。そのほか坂口安吾役の藤原竜也、三島由紀夫役の高良健吾、成田凌、千葉雄大、瀬戸康史ら豪華キャストが集う。

2019年製作/120分/R15+/日本
配給:松竹、アスミック・エース
出典:映画.com

世界で活躍する写真家であり映画監督の蜷川実花が、構想に7年を費やし、天才作家・太宰治のスキャンダラスな恋と人生を大胆に映画化!
主人公の太宰治を演じるのは、『ゴジラVSコング(邦題未定、原題GODZILLA VS. KONG)』でハリウッド進出も果たす小栗旬。蜷川監督と初タッグを組み、大幅な減量も敢行しながら、究極のダメ男でモテ男、才気と色気にあふれた最高にセクシーでチャーミングな、かつてない太宰像を創りあげた。
太宰の正妻・美知子に宮沢りえ。作家志望の愛人・静子に沢尻エリカ。最後の女・富栄に二階堂ふみ。それぞれの世代を代表する女優たちが、一見太宰に振り回されているように見えて実は自分の意志で力強く生きている女性たちを、圧巻の演技力で魅せる。太宰と女たちを取り巻く男性陣にも、成田凌、千葉雄大、瀬戸康史、高良健吾、藤原竜也と超豪華キャストが集結。
太宰が死の直前に完成させた「人間失格」は、累計1200万部以上を売り上げ歴代ベストセラーのトップを争う、“世界で最も売れている日本の小説”。その小説よりもドラマチックだった<誕生秘話>を初映画化。蜷川組常連のスタッフに加え、脚本に『紙の月』の早船歌江子、撮影に『万引き家族』の近藤龍人、音楽には世界的巨匠・三宅純を迎え、日本映画界最高峰のチームが集結。ゴージャスでロマンティックな唯一無二の蜷川実花の世界観をさらに大きく進化させた。

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