池波正太郎のエッセイ集を読むとき、決まって頭に持ち上がるのはテレビの時代劇「鬼平犯科帳」や「剣客商売」それに「必殺仕事人」であり、ロングセラーのエンタメ時代劇は彼の独壇場と言っていいのだ。
要するに彼はおもしろい時代小説の書き手の第一人者であるという点がまず頭に浮かぶのである。
でもここで言いたいのはそれだけではない。彼には時代劇を描くことの他に別の大きな得意技があるのだ。それは食(料理)と映画の知識が卓越していることだ。
これら二つのうち、料理については他でいろいろ紹介されているので、ここでは割愛することにして、もう一つの映画の方に焦点を当ててみることにしよう。
小説家でこれほど外国映画に詳しい人は他にいない
この本の166ページ「回想のジャン・ギャバン フランス映画の旅」から188ページまでの
22ページぐらいは、映画についての回想で占められているのだが
中でもすごいのはジャーナリスト・古谷剛正、映画評論家・白井佳夫との対談である。
ここでは戦前の外国映画について、この道の大家二人との対談が繰り広げられているのだが、専門家の二人を差し置いて
話す内容も彼らより詳しく、完全にこの対談のリーダーシップを握っているではないか。
これを読むだけで彼の外国映画に関する知識が、いかに卓越したものであるかが良くわかる。
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内容紹介(出版社より)
1
江戸を想い、昭和を生きた男が遺した、雑誌や新聞で語った言葉。全集にも未収録だったその志が初めて本に。
ぼくの書く鬼平で、平蔵が部下にねぎらいの言葉をかけるのがいいということになってるが、それが普通なんですよ。今ね、女が気がつかないっていうのは、しょうがないよね。男の気が回らないこと、実にこれはおびただしいもんだ、ああ……。(本文より)
証券会社から、保健所、都税事務所へと移った十七年間のサラリーマン時代
手製のパン焼器
体操をつづけて痔の苦しみから救われる 私の闘病記
締め切りさえ守っていれば
男の常識をたくわえるということは、結局、自分の得になるんだ
人生の滋味を堪能したいきみに
おしゃれは、まず自分を知ってから 私の一流品考
亭主関白の愛情作法
感激の東富士打倒 一年がかり、けたぐりで
2
私と平蔵の出合い
自分の命を賭ける生き方最近の時代小説
むずかしい新聞小説 流行作家は楽でない
人斬り半次郎について 新連載時代小説 序にかえて
新国劇の「風林火山」井上靖あて書簡
構想はあまり練らず
蝶の戦記』を終えて 歴史的背景に重み 骨が折れる“忍者小説” 裏の裏かく描写で
人間近藤勇 歴史夜咄
九年の歳月 大河小説「真田太平記」の連載を終えて
3
三波伸介 ホンモノの芸人
田中冬二の世界
こころの平和の源泉
闘う城
田舎に限るよ、旅は
『回想のジャン・ギャバン フランス映画の旅』付言
もう一度見たい映画は?
弁士の名調子に酔う
『ブルグ劇場』封切のころ
一枚の“手札写真”に捺された我らがヰタ・セクスアリス プロマイド座談会〈戦前編〉 -古谷綱正、白井佳夫と
ベニス紀行 座談会 -吉行淳之介、小田島雄志と
4
受賞のことば
直木三十五賞/小説現代読者賞/吉川英治文学賞
最後 追悼・藤島一虎さん
なつかしい人 浜田右二郎さん
八白土星の風貌 追悼・野間省一氏
素人が売れる時代は心配だな 紫綬褒章受章
初出一覧 宮澤則雄編
目次(「BOOK」データベースより)
1(大川の水/いまに残る江戸八百八町ー大川端の昔といま ほか)/2(私と平蔵の出合い/自分の命を賭ける生き方 ほか)/3(三波伸介 ホンモノの芸人/田中冬二の世界 ほか)/4(受賞のことばー直木三十五賞/小説現代読者賞/吉川英治文学賞/最後ー追悼・藤島一虎さん ほか)
著者情報(「BOOK」データベースより)
池波正太郎(イケナミショウタロウ)
大正12(1923)年1月25日、東京市浅草区聖天町生まれ。昭和10(1935)年、下谷区西町小学校卒業、株式仲買店勤務。昭和14年より三年ほど証券取引所にあった剣道場へ通い、初段を得る。旋盤機械工を経て昭和19年、横須賀海兵団入団。敗戦の翌年、東京都職員として下谷区役所の衛生課に勤務。昭和23年、長谷川伸門下に入る。昭和25年、片岡豊子と結婚。昭和26年、戯曲「鈍牛」を発表し上演。新国劇の脚本と演出を担当する一方、小説も執筆。昭和30年、転勤先の目黒税務事務所で都庁職員を辞し、作家業に専念。昭和35年、『錯乱』で直木三十五賞受賞。受賞歴はほか吉川英治文学賞、大谷竹次郎賞、菊池寛賞等。平成2(1990)年5月3日、入院していた東京都千代田区神田和泉町の三井記念病院で死去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
出典:RAKUTENブックス