直木賞受賞実力派作家36人による名文集
分厚い読み応えのある本でした。
それもそうでしょう。36人の作家が一人20枚もの原稿を書いているのです。
単純に計算しても20×36=720ですから、400字原稿用紙720枚の量になるのです。
これは普通の本の2冊分に当たります。
量だけではありません。質の方も負けてはおらず、下の収録内容が示す通り、まさに滅多にないほどの珠玉の名編揃いなのです。
量だけではありません。質の方も負けてはおらず、下の収録内容が示す通り、まさに滅多にないほどの珠玉の名編揃いなのです。
収録作品はこれ
- 愛憎のイナズマ / 山本文緒 [著]
- 「早稲田文学」のこと / 重松清 [著]
- 母親の顔 / 藤田宜永 [著]
- 今までも、これからも / 唯川恵 [著]
- もうひとつの『あかね空』 / 山本一力 [著]
- 残したい情景、残したくない自分 / 乙川優三郎 [著]
- 人には〈幸福とは呼べぬ幸せ〉を選ぶ自由がある / 村山由佳 [著]
- 一九九六年四月、牡羊座の運勢は / 石田衣良 [著]
- 恋愛は無敵だと書きたい私としては / 江國香織 [著]
- やっぱり、日本的なものが好きなんです / 京極夏彦 [著]
- 十年経って言うのもなんだが / 奥田英朗 [著]
- わがままであまのじゃく / 熊谷達也 [著]
- 書くこと、旅すること / 角田光代 [著]
- あのカバンの意味を探して / 朱川湊人 [著]
- 楽しいゲームでした。みなさんに感謝! / 東野圭吾 [著]
- 父に捧ぐ / 森絵都 [著]
- 生きるとは、本を読むこと / 三浦しをん [著]
- 「受付の人」が引っ込んでから / 松井今朝子 [著]
- 絶望が花よ / 桜庭一樹 [著]
- ずっといる / 井上荒野 [著]
- 思い起こすままに / 天童荒太 [著]
- 本のある家 / 山本兼一 [著]
- どこ行くの / 北村薫 [著]
- 卵の殻のむけるまで / 佐々木譲 [著]
- 何もかも全部、小説のせい / 白石一文 [著]
- いつでもどこでも書いていた / 中島京子 [著]
- いい気になるな / 木内昇 [著]
- 小さなノートといっしょに失くしたもの / 道尾秀介 [著]
- 田舎育ちの乱歩好き少年 / 池井戸潤 [著]
- 青春という闇の匂い / 葉室麟 [著]
- 十七歳のサイン会 / 辻村深月 [著]
- ルーレットの目 / 朝井リョウ [著]
- 道中四景 / 安部龍太郎 [著]
- 愚かで愛しい時間 / 桜木紫乃 [著]
- 毛玉たちへ / 朝井まかて [著]
- 原稿用紙に書く前 / 姫野カオルコ [著]
36人の作家・渾身のエッセイ
作家は小説だけでなくエッセイもよく書きます。でも上手な小説が書ける人がエッセイも上手かと言えば、それは少し違うようです。
こちらが期待して読んだ作品がつまらなくて失望することも時にはあります。
作家と言えどもいつでも読者を満足させる作品を書くことはできないのです。
その原因はテーマの選択ミスであったり、書くタイミングの問題などいろいろあるでしょう。
とは言え、稀ではありますが、アンソロジーとして1冊にまとめられたエッセイ集のすべての作品が素晴らしい本も中にはあります。この本がまさにそれに当たります。
ここには上に挙げたリストのとおり36人の作家のエッセイが1篇づつ収められていますが、そのすべてが優れた作品なのです。
これほどの作品が一堂に会すると、中には、不出来な作品が混じっていても不思議はないのですが、それがないのです。
すべての作品が作者が精魂を込めて書いた名エッセイなのです。
まさに稀に見る珠玉のエッセイ集と言っても過言ではありません。
なぜこれだけすばらしい作品が書けたのか
このエッセイ集を読んでいて強く思うことは、よくもこれだけすばらしいエッセイばかり36篇もそろったものだ、ということです。
それにしてもなぜこれほど素晴らしい作品ばかりが書けたのでしょうか。それはこの本のタイトルを見ればわかります。
あらためて眺めてみますと、この本のタイトルは「直木賞受賞エッセイ集成」となっています。
これで分かるように、ここに収録された作品はすべてが直木賞受賞者が執筆したものです。
しかも受賞記念エッセイとして文芸春秋発行の「オール読物」誌上に掲載されたものばかりなのです。
直木賞を受賞するような作家ですから、言うまでもなく実力派ぞろいです。
その実力派作家が直木賞受賞を記念して書いたエッセイですから良い作品でないはずがありません。
どの作家も受賞の感激もあって、執筆意欲は最高潮に達していたはずですから、おのずと良い作品が生まれるのです。
つまり、モノを書くタイミングが良く、それに旺盛な意欲が重なり、それが相乗効果となって、その結果良い作品が生まれたのです。
作家と言えども、いつも良い作品が書けるわけではない
上でも書きましたが小説の上手な著者が書いたエッセイが必ずしも良い作品とは言えません。
時には、こんなつまらない作品があの作者が書いたものだろうか?と、読んで落胆することもあります。
でも文章のプロである作家がなぜつまらないエッセイを書くのでしょうか。
思うに、その原因は二つあります。一つは作品を多く書き過ぎてネタ切れになっているのです。
エッセイのネタは何でもいいわけではありません。読者を惹きつける面白いエッセイを書くためには、材料であるネタが良くなくてはいけません。
もう一つの理由は原稿に締め切りにあります。人気作家はいつもたくさんの仕事を抱えています。
週刊誌や月刊誌の小説やエッセイの連載物、書下ろし小説、などいつも大量の仕事を抱え締め切りの追われています。
そのため締め切り間際になった時など、時間に追われ、つい不本意な内容の作品を書いてしまうのです。
エッセイで20枚を書くのは難しい
エッセイはよく読む方ですが、これまで読んだものに原稿用紙20枚にも及ぶ長いものはいそれほどありませんでした。
たいていは4~5枚、長いものでも8~10枚が良いとこです。
でも今回は36人の作品すべてが400字詰め20枚の長い作品ばかりなのです。
この作品を後に読んだ「ベストエッセイ2015」と比較してみた
直木賞受賞エッセイ集成がいかに優れた本であるかを証明するために、同じようなアンソロジー型の他のエッセイ集と比較してみることにしました。
比較の対象に挙げたのは最近読んだ「ベストエッセイ2015」です。
この本の概要は以下になります。
・収録作品 76
・1篇 2000~8000文字
・日本文藝家協会編
・編集委員 門田光代、林真理子、藤沢周、町田康、三浦しをん
・光村図書
この本は作家に限らず、2014年度にあらゆる新聞、雑誌に取り上げられたエッセイから上記選考委員によって選ばれた作品が掲載されています。
読む前は「直木賞受賞エッセイ集成」同様に面白い作品ばかり載っているのだろうと、期待していました。しかしその期待は外れました。
全76編のうち、良かったと思われるものはわずか10作品程度で、まあまあ、が30作品ぐらい、残りはどうでもいいような、いわば駄作とも言える作品でした。
要するに「直木賞受賞エッセイ集成」に比べて、大きく見劣りがしたのです。
この比較の結果からも、「直木賞受賞エッセイ集成」がいかに優れているかがよく分かります。
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