2019年5月3日金曜日

エッセイには人柄が出る

  
ごはん食べたか? 星野博美 (写真家、作家) 
 
エッセイ集を読んでいると時としてすばらしい作品に出会うことがありますが

中でも心が温まりとても幸せな気持ちになる作品に出会ったときの嬉しさは格別です。
 
最近そんな気持ちにさせてくれたのは「ベストエッセイ2017(日本文芸家協会編・光村図書)」に掲載の作家・星野博美さんが書いた「ごはんたべたか?」という作品です。
 
原稿用紙3枚程度の短いエッセイですが深い感銘を受けた作品でした。
 
内容は次のようなものです。著者が若いころ中国を旅行したときの話です。まだ若くて元気が良い頃で、大きなリュックを背負った一見バックパッカーのようないでたちでした。
 
そのせいか行く先々で現地の人に声をかけられるのですが、そのセリフはいつも「ごはん食べたか?」というものでした。
 
身なりがバックパッカー風でお金がなくお腹が減っているように見えたのでそう聞かれたのかと思いながらも、「まだたべていません」と正直に応えたのです。
 
それを聞いた現地の人は、かわいそうで放っておけないと思ったのか「それなら一緒に食べるか」といって食堂へ連れて行きごちそうしてくれのです。
 
 
「ごはん食べたか?」は現地では「元気にしているか?」のような意味
 
中国人にたびたび「ごはん食べたか?」と聞かれた著者ですが、そのときはこの言葉の本当の意味を知らなかったのです。
 
実は、中国人が「ごはん食べたか?」というのは「元気でやっているのか?」のような意味があるのです。ですから必ずしもごはんを食べたかどうかを聞いているのではないのです。

でも著者はそれを知らず、そのとき食べていなかったので「まだ食べていません」と応えたのです。

このやりとりは、読者のような聞く側には二重の温かさを感じさせます。

つまり「ごはん食べたか?」という相手の健康を思いやる中国の人たちの優しい気持ち、それに対して素直な心で「まだ食べていません」と著者が正直に応える気持ち良さです。

中国人が食事に誘ってご馳走してくれたのは、その気持ち良さを意気に感じたからなのではないでしょうか。そう感じさせたのは、著者の素直な人柄なのです。
 
 


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