2019年6月1日土曜日

お悩み相談 この回答者はピカイチだ!・ 書評 「人生是途中なり」 松尾スズキ著 朝日新聞出版

 
人の悩みは誰にでも興味があることですが、その悩みをカミングアアウトするのがお悩み相談(人生相談)です。
 
これを聞くと、いながらにして人の悩みを知ることができるのです。
 
それゆえに新聞や雑誌、それにウェブサイトなどのお悩み相談はどれも人気があります。
 
人生相談とも言われ、古くからあるお悩み相談ですが、よく知られているものには読売新聞の「人生案内」があります。
 
非常に歴史が古く、始まったのは大正3年(1914年)で、実に105年も続いていることになり、その人気ぶりがよくわかります。
 
また同じ読売新聞系として、女性の悩みを解決してくれる人生相談で人気がある「発言小町」があります。
 
こちらもなかなかの盛況で、相談件数が多さからも人気ぶりがよくわかります。
 

 

「人生是途中なり」は万人向けお悩み相談集と言っていい本

 
こうしたお悩み相談の中にあって、今回ご紹介する松尾スズキ氏著による「人生是途中なり」という本は、全編がお悩み相談からなっています。
 
著者の松尾スズキ氏が人々のいろいろな悩みに回答する言わばお悩み相談集と言ってもいい本なのです。
 
冒頭でも書いたようにお悩み相談は人々にとって非常に興味あるものに違いありません。
 
とはいえ、回答者の質によって興味度は大きく異なります。言うまでもなく回答者が上手なほど、興味は増し、そうでなければ半減します。
 
この本の著者松尾スズキ氏は、まさにお悩み回答者としては一級品と言っていいでしょう。
 
あらゆるお悩み相談に対して、実に当意即妙で的を得た回答をしているのです。それだけに読む人にとっては非常に興味ある面白い読み物になっています。
 
要するに回答にハズレがないのです。
 
次々と繰り出される名回答に対し、共鳴と感嘆のあまり、いったい何度「ウーン」という、うなり声を発したことでしょう。
 
本を読んでこれほど感嘆の声をあげたのは稀なことです。
 
 
数多くの名回答の中から、ここでは1編だけご紹介します。 
 
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(Q)私は話ベタなのですが、人の話を聞くのがもっと苦手です。ビジネス書や人付き合いの本を読むと、「話すのが苦手な人は、まず聞こう」みたいなことが書かれているのですが、どちらも苦手な私はどうすればいいのか分かりません。   (21歳、男性、学生) 
 

(A)人と会わなければすべて問題が解決されます。それでも人と会わなければならない局面があれば、それは修業の期間と思って、空笑いや、空相槌の「正しい打ち方」を会得していってください。 
人生は暇つぶしです。人と空虚な話をするのも、「正しい空虚」を会得するためと思えば、なんらか、おのれの役に立ちそうです。しかし、本当に辛すぎると思うのなら人付き合いなど、そこまでの価値はないものです。

自分一人で暇をつぶすツールは、昔と違っていくらでもあります。

学生時代は、一人ぼっちでもなんら問題はありません。孤独のあり方は、人それぞれ自由です。人付き合いの本質は、仕事を始めてから姿を現します。

それまでは修業するか、あるいは逃避するか。21歳なら、自分で決められるはずです。

ちなみに私は、学生時代の後半、完全に付き合いから逃避して、家で絵ばかり描いてました。少なくとも、そのとき培った画力で、今、絵の仕事もし、大学卒業までの学費は取り戻せています。 

 
出典・「人生是途中なり」朝日新聞出版 
 
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いかがですか、「空相槌の正しいうち方」や「正しい空虚」を会得するというのは実にユニークな発想ではありませんか。
 
お悩み相談のアンサーとしてこれだけのことが言える人は稀だと思います。 
 
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人生是途中なり
松尾 スズキ  
ISBN:9784022515858
定価:1404円(税込)
発売日:2018年12月7日
四六判並製   232ページ 
 

著者紹介

松尾スズキ[マツオスズキ]

1962年福岡県生まれ。作家、演出家、俳優、脚本家、映画監督。88年に「大人計画」を旗揚げし、97年『ファンキー!~宇宙は見える所までしかない~』で第41回岸田國士戯曲賞を、2001年にミュージカル『キレイ~神様と待ち合わせした女~』で第38回ゴールデン・アロー賞・演劇賞を受賞。また、04年には初の長編映画監督作『恋の門』がヴェネツィア国際映画祭に正式出品。06年に小説『クワイエットルームにようこそ』が第134回芥川賞候補作となり、翌年には自身が監督し映画化。08年には、映画『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』で第31回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞、10年に小説『老人賭博』が第142回芥川賞候補に、18年『もう「はい」としか言えない』が第159回芥川賞候補となる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

 
 
 
 
 

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