2022年6月22日水曜日

プーチン氏の藁人形事件が人々の関心を集めたが、作家・車谷長吉は芥川賞を落選させた9人の選考委員を藁人形の呪いにかけた ?

最近ニュースを賑わせたプーチン氏関する事件に見るように藁人形をめぐってはいろいろな興味深くてユニークな話があようだ

なかでもぜひともご紹介しておきたいのは直木賞作家車谷長吉のことである


この作家は赤目四十八瀧心中未遂という作品で直木賞受賞したがそれ以前の作品で芥川賞候補になったことがある


しかしこのときは反対する委員もいて残念ながら落選してしまった


氏はこの選考結果に不満を持ち、それが高じて選考に関わった9人の委員たちに恨みを抱いたのだそしてついには藁人形を使った呪いの行為に移ったのだ


とはいえこれを発表したのが作品上のことで私小説は虚実取りぜてストーリーを展開させることを良しとしている氏のことゆえ書かれたことの信ぴょう性は明らかではなく


ひょっとして審査員全員の名前をを上げることでフォーカスをぼかしてまるで笑い話のように面白おかしく書こうとしたのかもしれない


なにはともあれ以下で短編集に載せられたその作品をご紹介することにしよう

 

       車谷長吉作より

 

夕方また歩いて帰って来ると私は道灌山下の金物屋で五寸釘を九本求めた夜になった私は二階で白紙を鋏で切り抜いて九枚の人形を作ったその人形にそれぞれ日野啓三河野多恵子黒江千治三浦哲郎大江健三郎丸谷才一大庭みな子古井由吉田久保英夫と九人の選考委員の名前を書いた描き了えると嫁はんが寝静まるのを待った

私は金槌と五寸釘と人形を持って深夜の道を歩いていた旧駒込村の鎮守の森・天祖神社へ丑の刻参りに行くのである私は私の執念で九人の選考委員を呪い殺してやる積りだった人を呪わば穴二つと言うが併したとえ自分が呪い殺されることになろうともどうあってもそうしないではいられない呪詛がふつふつと滾っていた水のないプルの底の私の屍体がそれを狂的に渇望した

天祖神社は鬱蒼とした樫や公孫樹いちょうの奥に静まっていたあたりは深い闇である私は公孫樹の巨木に人形を当てるとその心臓に五寸釘を突き立て金槌で打ち込んだ金槌が釘の頭を打つ音が深夜の森に木霊こだました一枚終わるとまた次と、「死ねッ」「天誅ッ。」と心に念じながら打ち込んで行った打ち終わると全身にじっとり冷たい汗をかいていた全身に憎悪の血が逆流した

 

         車谷長吉 「より抜粋 中公文庫漂流物・武蔵丸

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