最近ニュースを賑わせたプーチン氏の関する事件に見るように、藁人形をめぐっては、いろいろな興味深くてユニークな話があようだ。
なかでもぜひともご紹介しておきたいのは、直木賞作家「車谷長吉」のことである。
この作家は「赤目四十八瀧心中未遂」という作品で直木賞受賞したが、それ以前の作品で芥川賞候補になったことがある。
しかしこのときは反対する委員もいて残念ながら落選してしまった。
氏はこの選考結果に不満を持ち、それが高じて選考に関わった9人の委員たちに恨みを抱いたのだ。そしてついには藁人形を使った呪いの行為に移ったのだ。
とはいえ、これを発表したのが作品上のことで、私小説は虚実取りまぜてストーリーを展開させることを良しとしている氏のことゆえ、書かれたことの信ぴょう性は明らかではなく、
ひょっとして、審査員全員の名前をを上げることでフォーカスをぼかして、まるで笑い話のように、面白おかしく書こうとしたのかもしれない。
なにはともあれ、以下で短編集に載せられたその作品をご紹介することにしよう。
車谷長吉作「変」より
夕方、また歩いて帰って来ると、私は道灌山下の金物屋で五寸釘を九本求めた。夜になった。私は二階で白紙を鋏で切り抜いて、九枚の人形を作った。その人形にそれぞれ、日野啓三、河野多恵子、黒江千治、三浦哲郎、大江健三郎、丸谷才一、大庭みな子、古井由吉、田久保英夫、と九人の選考委員の名前を書いた。描き了えると、嫁はんが寝静まるのを待った。
私は金槌と五寸釘と人形を持って、深夜の道を歩いていた。旧駒込村の鎮守の森・天祖神社へ丑の刻参りに行くのである。私は私の執念で九人の選考委員を呪い殺してやる積りだった。人を呪わば穴二つと言うが、併したとえ自分が呪い殺されることになろうとも、どうあってもそうしないではいられない呪詛が、ふつふつと滾っていた。水のないプ‐ルの底の私の屍体が、それを狂的に渇望した。
天祖神社は鬱蒼とした樫や公孫樹(いちょう)の奥に静まっていた。あたりは深い闇である。私は公孫樹の巨木に人形を当てると、その心臓に五寸釘を突き立て、金槌で打ち込んだ。金槌が釘の頭を打つ音が、深夜の森に木霊(こだま)した。一枚終わると、また次と、「死ねッ」「天誅ッ。」と心に念じながら、打ち込んで行った。打ち終わると、全身にじっとり冷たい汗をかいていた。全身に憎悪の血が逆流した。
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