2018年8月9日木曜日

ある女性作家のエッセイ集を読んで疑問に思ったこと


小説は上手と評判の作家なのにエッセイには難点が多い


 直木賞受賞のある女性作家のエッセイ集を読みました。人気のある作家ですが、わたしは小説を含めこの方の作品を読むのは初めてです。読むきっかけになったのは何かの本に、この作家の作品は韓国で人気があり、多くの作品が韓国語に翻訳されていると書いてあったからです。

 韓国で人気があるというのを知って、なぜだろう、どんな作風なのだろう、と興味が湧いたのです。

 著者はいわゆる二世作家で父親も作家として有名な方です。人気が親の七光りでなければいいが、と思いながら読んでみたのですが、文章の上手さは垣間見えるものの、何かと欠点が目に付く作品でした。

 以下で書くことは決して悪口や、あら捜しが目的ではありません。そうでなく、いかに直木賞受賞作家とはいえ、小説はともかくエッセイも上手とは限らず、それゆえにこれほどの作家でも一冊のエッセイ集をスマートにまとめるのは簡単なことではない、ということを理解していだけたら、思って書いたものです。

 なお今回は作家名、作品名とも、あえて出さないことにします。



疑問点1・文中に括弧書きがやたら多い


 小説やエッセイなどで、文中に説明のために、カッコ書きを入れている例を時々見ます。しかしこれを多用すると邪魔になるだけでなく、文章の美観を阻害します。にもかかわらず、この作家の文章にはやたら括弧書きが目立つのはなぜでしょう。括弧内の部分を文中にうまく収めることはできないのでしょうか。作家ならそれぐらいの技術はあるはずです。

疑問点2・発音によるカタカナ表記に違和感 ・ボリューム ⇒ ヴォリウム


 カタカナ文字を使うのは仕方がないにしても、例えばヴォリウムという表記がありますが、これは一般的にはボリュームと表記するのが普通です。著者にすれば発音による正しい表記のつもりでしょうが、読者としては見慣れないこともあって、不自然に感じるのは否めません。スマートさを出そうとする意図があるのかもしれませんが、逆にダサいととられかねません。

疑問点3・単なる勘違いにしつこくこだわるのはおかしい


 著者は何かの本に「押し込む」という表現があったのを見て、この表現はおかしいのではないかと、気になって仕方がありませんでした。あまり気になるので知り合いの編集者に訊いてみると、やはりおかしいという返事が返ってきました。

 しかし著者と編集者の両方ががおかしいと思い自著のエッセイのテーマにまでとりあげた「押し込む」という表現は、一般的にもよく使われており、何らおかしいことはないのです。これをおかしいと思うのは、明らかに著者や編集者の勘違いなのです。

 あんのじょう後になって「押し込む」が正しかったと認めています。ここで不思議に思うのは、それほど気になるのなら、なぜ疑問を感じた時点で、ネットや辞書で詳しく調べてみなかったのでしょうか。そうすればエッセイに取り上げるまでもなく、疑問はたちどころに解消したはずです。

疑問点4・バターミルクの意味、なぜネット検索で調べないのか


 著者が小説を読んでいて、その中に出てきたバターミルクというものが出てきましたが、それを単にバターを入れたミルク系の飲料だと思っていました。ところが後日、別の小説を読んでいて分かったのですが、それは誤解で、まったく別のものであることに気づきました。

 これについてもはっきりしない時点でインターネットで調べれば疑問は即解決できたはずです。なぜ疑問解消までにそれほど時間を要したのかまったく理解できません。これでは作家としての情報収集能力が疑われます。

疑問点5・「偶に」「十全に」のようなあまり馴染みのない言葉をなぜ使う


文中で使われている「偶に」と「十全に」という二つの単語が気になりました。どちらも一般的にあまり使われていないのに、著者はなぜ気軽に使っているのでしょうか。

「偶に」は「たまに」と書くのが一般的ですし、「十全に」は今では古くさい感じがします。

疑問点6・日常的なテーマは切り口が悪いとつまらない作品になる


 はっきり言ってこのエッセイ集はよい作品とは言えません。その最大の理由はテーマに日常的なことが多すぎることです。

 日常的な事柄をエッセイのテーマにするのなら、よほど切り口に気を付けないと、読者にとってはつまらない退屈な作品になりかねません。どうでもいいようなことを書いている、と思うからです。


疑問点7・編集者はなぜ修正しないのか


 それにしても素人が読んでもこれだけ多くの疑問点が見つかるものを、いったい編集者は何を見ているのでしょうか。

 一般的に考えて、出版物は著者と編集者が共同で作り上げるのが普通です。したがって著者にミスがあっても、編集者の手によって修正されますから読者の目につくことはほとんどないのが普通です。

 しかし、今回のように、数多くの欠点が読者の目につくようなことがあれば、校正に携わった編集者の資質を問わざるを得ません。


0 件のコメント: