明治時代の作家としては鴎外より10年ぐらい後に出て、自然主義を標榜した島崎藤村や田山花袋などに比べると作風はかなり異なる。
この作品も途中までは叙情的な文章で、お玉、末造、岡田などの登場人物が魅力的に描かれているが
一転して最後の方になって唐突に「サバの味噌煮」の夕食、「池の雁を殺して」食べるなどという脈略の乏しい場面が出現し読者を惑わしたりする。
もしかして鴎外はこの作品で一種の実験(小説)を試みたのであろうか。
あらすじ
誰からも美貌を認められたお玉だが、高利貸という職業がら世間から疎んじられる末造の妾になってしまう。
そんな自分の身を卑下しながら、いつも散歩で家の前を通る大学生岡田に密かに思いを寄せる。
ある日、末造が出張で遠出するのを幸いに、岡田に逢って切ない心の内を打ち明ける決意を固める。
ところが、その日岡田は一人ではなく、この小説の語り手である僕と一緒に散歩に出たため、お玉は話しかけることができなかった。
そもそも岡田が語り手と二人で散歩に出るはめになったのは、語り手の夕食に出たサバの味噌煮が原因である。
語り手はサバの味噌煮が苦手で、それに手を付けることなく、隣部屋にいた岡田を外出に誘ったのである。
その外出で池の傍にやってきて、池で遊ぶ雁に石を投げつけて殺してしまう。それを下宿に持って帰り料理して食べる。
一方、お玉に逢っても話も出来なかった岡田は、まもなく留学でドイツに旅立つ決心を固めている。
けっきょく岡田とお玉は親密な会話を交わすことことなく終わってしまう。
語り手の夕食に出てきた味噌煮がきっかけで岡田とお玉が別離し、おまけに雁を殺して食べるという奇妙な結末で終わっている。
映像作品
映画
1953年版 - 監督:豊田四郎、脚本:成沢昌茂、音楽:團伊玖磨、出演:高峰秀子(お玉役)、芥川比呂志(岡田役)、宇野重吉(木村役)、東野英治郎(末造役)、浦辺粂子(お常役)、飯田蝶子(おさん役)、小田切みき(女中・お梅役)、三宅邦子(お貞役)、田中栄三(お玉の父・善吉役)
テレビドラマ
· 1959年版
· 1993年版 - テレビ東京系、脚本:金子成人、演出:久世光彦、出演:田中裕子、長谷川和彦、石橋保、吉行和子、中野英雄、木田三千雄、櫻井淳子、でんでん、柴田理恵、ナレーション:加藤治子。月曜21:00ドラマ『日本名作ドラマ』(第1期)で放送(第1作目)。
※第31回ギャラクシー賞奨励賞受賞
映画・映像の項 :出典・ウィキペディア
0 件のコメント:
コメントを投稿