2022年7月12日火曜日

小説にも書いた これが我が身に迫ったクライシスだ(シリーズ・その4) 小説名《マンハッタン 西97丁目の青春》

  


        

 

                    

ニューヨーク夜の地下鉄車内で巨漢のゲイに目をつけられて

                      

 

 夕方16時からのエールトン(勤務先のホテルの仕事はその日も24時ジャストに終わった


いつものように隣のブロックにあるペンステーションまで歩いて行きそこからアップタウンに向かう地下鉄に乗った下宿のある97丁目まで20分ほどかかる


 ここマンハッタンには不夜城と呼ばれるタイムズスクエアーをはじめ多くの歓楽街があちこちにあるためかすでに12時を過ぎているというのに地下鉄の乗客数は昼間とさして変わらない


 でも数こそそうであれその客層はというとさすがに昼間とは趣を異にしており白人は数えるほどでそのほとんどを黒人とペルトリコ人が占めていた


 もちろん昼間のように上品ぶったおとなしい客ばかりではなく飲んだくれてわめき散らす黒人男とか獲物を探して卑猥さを含んだ鋭い目を車内のあちこちに向けてるスペイン人だとかが混じっていたことは言うまでもない


 そうした乗客も72丁目ぐらいからのアッパーウエストと呼ばれるエリアでまずペルトリコ人がそして125丁目のハーレム近辺で黒人のほとんどが降りて行きその先はガラガラになるに違いない


 空席がなかったので修一はドアのそばに立っていた

 ちょうど修一と反対側のドアの側に黒人の太った男が立っていた


 その男は修一と目が合ったとき人なつっこそうにニコッとしたつられて修一も笑顔を返した

 でもそれがいけなかったらしい男はその後ずっと修一から視線を離さないのだ


ハハーンこの男なにか勘違いしているな修一はそう思ってなるべく男の方を見ないようにした


 ニューヨークは世界中の都市の中で一番と言われるほどホモのメッカなのである

 かの有名なグリニッッチビレッジの一角にはゲイボーイたちの集まる通称ゲイストリートと呼ばれる地域もあるくらいなのだ


 普段はそこでたむろしているゲイたちも時には地下鉄などに乗って移動し新しい獲物を求めているのであるいま目の前に立っている男も多分その種の奴に違いない修一はそう確信した


 こちらへ来てまで一週間ぐらいしかたたない頃同じように地下鉄構内でこの手の男につけ回されて苦労したことがあった




男につかまえられ暗闇に連れていかれるかも


 でもそのときは昼間であったので雑踏へ紛れこんでうまく相手をかわすことができたしかし今回は夜であるつけて来られて暗闇で腕でも掴まれたらやばい


 なにしろ相手は百キロ以上もあろうかというほどの大男である

 そうなれば62キロしかない修一の力では容易に振りほどくことはできないだろう


男に追っかけられてつかまり暗闇に連れて行かれ好きなように弄ばれる光景が目に浮かび修一は思わず身震いした


 そんなことを考えていて次第に不安な気持ちが募ってきた

なんとかして早くこの男の前から逃れなくてはでも下手に動けば付いてくるだろう


 そこで修一は一策を弄した電車が72丁目の駅に止まったら一旦そこで降りようそしてそこでこの男を巻こうそう決めて電車がホームへ入る前からタイミングを計っていた


電車が止まりドアが開き数人が降り数人が乗り込んできた

 そこで降りるはずの修一はそれでもまだ動かなかった発車を告げる五秒ほどの短いブザー鳴り止んでドアがガタッと閉まりかけたとき修一はサッと身をかわしてホームへ下りた背中をかするようにしてドアが閉まった


やった成功!」とつぶやき危機から脱出できホッとして振り返ってドアのガラス越しに男を見た

 その男の表情からはもはや先ほどの笑みは消えいかにも忌しげにこちらを見ていた。  


 

 小説マンハッタン西97丁目の青春より危機の部分抜粋

 

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