この原稿には親しみがわく 上手くはないがユニークで男性的な文字
下の写真の原稿のタイトルが「読者へ」となっているのが何故かというと、〆切直前に失踪してしまい原稿提出をすっぽかした作家・野坂昭如氏が
作品が間に合わなかったお詫びにと、読者に対して書いたものであり、これは小説新潮に載せられたそんな珍しい原稿なのだ。
パソコンとワープロの普及ですっかり姿を消ししてしまった手書き原稿だが、普通の人ならまだしもそれが有名作家のものとなるとその価値は絶大だ。
ましてや400字詰め原稿用紙に書かれたものとなればまさに垂涎もの。
野坂昭如とはこんな人
「火垂るの墓」や「アメリカひじき」などの小説、「四畳半襖の下張」裁判やヒット曲「黒の舟唄」などで知られる作家、野坂昭如。小説家、批評家、そして歌手、政治家など、様々な顔を持つが、その人生を貫く軸となったのは、少年時代に体験した戦争だった。「焼け跡闇市派」を名乗り、常に戦争反対の立場から活動を続けた。
野坂昭如は昭和5年生まれ。14歳の時、神戸の空襲で父を亡くし、幼い妹を連れて子どもだけで福井県に避難した。しかし、妹は栄養失調のために間もなく亡くなってしまう。この時の体験をもとに生まれたのが、アニメ映画にもなった直木賞受賞作「火垂るの墓」である。
自分が食べる分をもっと減らし、妹に分けることが出来なかったのか。消すことのできない罪の意識を背負った野坂は、戦争体験から目を背けることなく正面から向き合い作品を生み続けた。「戦争童話集」「一九四五・夏・神戸」「『終戦日記』を読む」など。「自分は戦争体験を伝える最後の世代」と位置づけ、平和に向けた情念は衰えることはなかった。激動の戦後史を反戦平和を原点として生き抜いた人生だった。
出典:NHK人物録 NHK
「手書き原稿」出典:〆切本2(左右社)
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