このブログでこれまで何度か取り上げてきましたが、「ベストエッセイ」は毎年8月に光村図書出版によって出版されています。
ベストエッセイの名の通り、前年に発表されたものの中から優れた作品だけが選ばれたエッセイのアンソロジーです。収録作品の数は毎回同程度の75編前後です。
この書籍の注目すべき点は日本文芸家協会が編著となっているだけに、選者には林真理子、町田康。角田光代、藤沢周、堀江敏幸、三浦しをんなど、実力派作家がそろっていることです。
これほど豪華なメンバーによって選ばれた作品が素晴らしくないはずがありません。でも・・・。
収録作品について、これまでいろいろ苦言を呈してきたが
6名の実力派作家によって選ばれ、ベストエッセイと名づけられているだけあって、収録されているエッセイはさぞかし素晴らしい作品ばかりであるに違いない、と誰もが思うのは当然なことでしょう。
ところがそうはいかないのが世の中の不条理なところです。読者の期待に反して、ベストエッセイの収録作品はすべてが優れているとは言えないのです。
すべてが優れているどころか、本当に良いと思われる作品は収録作品の僅か2割程度でしかありません。
こういうと、今回(2022年度)に限ったことで、他年度の作品はそんなことがないのでは、と思う方もいるかもしれませんが、ここ10年間かかさず、すべての作品を読んできた筆者としては、評価結果は毎回ほぼ同じだと断言できるのです(個人的偏向がなければいいのですが)。
10年間の作品についての5段階評価で、その比率は次のようになります。
・特に優れた作品(約2割)
・まあまあ良い作品(約2割)
・良いとも悪いとも言えないない作品(約2割)
・どちらかといえば良くない作品(約2割)
・良くない(下手な)作品(約2割)
なぜこういう結果になるのか、その原因は
ベストエッセイと銘打って、一流作家揃いの選者によって選ばれた作品が、なぜこうした情けない評価になるのか、個人的にも不思議で仕方がありません。
で、微力ながらその原因を探ってみることにしました。
まず選者の面々を眺めてみますと6人全員が小説家です。
ここで一つ疑問がわくのですが、こうした小説家の皆さんが果たしてエッセイの分野でも名手であるかどうかという点です。
というのは同じ文学作品でも小説とエッセイはまったく異質のものであって、小説の名手だからといってエッセイの優れた書き手であるとは限らないのです。
その証拠に選者の皆さんは小説分野で優れた作品の贈られる芥川賞、直木賞の受賞者がほとんどですが、エッセイの賞を受賞した方はいません。
選者に優れたエッセイストを加えるべきでは
エッセイで有名な賞は講談社のエッセイ賞がありますが、選者の誰もこれを受賞していないのです。
ここで第二の疑問ですが、ベストエッセイでは、なぜ選者に優れたエッセイストを加えないかということです。
優れたエッセイストとして思い浮かぶのは、例えばエッセイの名手として名高い阿川佐和子(講談社エッセイ賞受賞)、同じくエッセイ賞を受賞した酒井順子、穂村弘などです。
要は作家を3名外して新たに3人のエッセイストを加えるのです。こうすれば質的バランスが取れ、少なくともこれまで以上に読者がベストエッセイとして納得できる作品が揃うのではないでしょうか。
今回特に良かった作品(作家)は
ベストエッセイは6名の実力派作家によって選ばれた、いわば珠玉のエッセイ集だと思っています。
しかも年に1冊だけ発行されるということで、いつも出るのを心待ちにして、いざ手にして読み始めるときは期待で胸がときめきます。
ところが期待とは裏腹に、収録作品すべてが良いとは限らないのです。
これは毎回のことですが、今回も特に良かったと思われるのは下の12名の作家による作品のみです。
毎回約2割前後あるこうした作品ですが、今回は2割から3件ほど少なくなっています。多分2番目評価の「まあまあ良い作品」がいつもより多かったからでしょう。
12作品の中で注目すべきはお笑いタレントアンガールズ田中卓志の作品です。
(ベストエッセイ2022で特に良かった12作品)
・李琴峰 「ロクな恋」
・二宮敦人「特に、秘密ありません」
・志茂田景樹「父と兄の書棚が招いた変な読書」
・岸田奈美 「ガラスのこころ」
・田中卓志 「最高の食事」
・村井理子 「翻訳とは」
・海猫沢めろん 「そんな時代」
・ほしよりこ 「やめた後の達成感」
・青木耕平 「息子よ安心しなさい、あなたの親指は天国で花となり咲いている」
・みうらじゅん 「学園の平和を取り戻せ」
・沢木鋼太郎 「愚かさが導いてくれた道」
・角田光代 「それは私の夢だった」
ベストエッセイから見つけたエッセイの上手な作家や芸人(文化人)たち
これも個人的なことですが、ベストエッセイシリーズを読むのは優れたエッセイ作品に出会うのが第一の目的ですが、もう一つあります。
それはこれまで知らなかった面白い作品を書く作家の発見です。
良いエッセイを書く作家は、きっと小説も面白い作品を書くと思っています。それ故にベストエッセイの作品が良かったら、図書館でその作家の作品を探すのです。
こうして見つけた作家は次の方々(一例)です。
(作家)西村賢太、穂村弘、酒井順子、伊藤荒野、
(歌手・芸能人)加藤シゲアキ、田中卓志、劇団ひとり、
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