人は誰でも歳をとると昔のことをよく思い出しますが
私にとってもっとも多いのは家族の思い出です。
中でもことさら愛おしく蘇るのは在りし日の母の姿です。
ここでは壮年期に私が母からもらった数十通の手紙から十点余をご紹介しながら
当時を振り返ってみることにします。
シリーズ4
母の手紙(その9)
(文面)
土曜日は来て下さってありがとうございました。長い時間いろいろ話しまして、私は充分満足しましたが、あなたには不満のようでしたね。それが私のあなたの年齢の差と思って御了承下さい。何しろ長時間あなたと話し合えて嬉しかったですよ。中に入れている切り抜きですが日曜日の分でしたよ。後で新聞を広げてみましたら丁度この記事がありまして、この間野さんはあなたと同じく批判精神の方だなあと思い切り抜いて置きました。この方はあなたにもなじみ深い高梁市にお住まいですから読んでみて同調しましたらお便りでもだしてみたら如何ですか。お年は取って居られますが中々の方と思われます。健康に気をつけて毎日をお過ごし下さい。
起きよとも、寝よとも側(そば)の声のなく 一人の自由 寒々と生く
(山陽歌壇 一席)
道ゆずり声かけくれし少年は 老の一日を楽しくさせぬ
(同 二席)
庸夫様 雪野
この手紙を受け取ったころ
深酒をすると時々相手に議論を吹っ掛けるような、あまり良くない癖のある私ですが、この時の相手は母であったのです。
酒の上だとは言え、30以上も歳の違う高齢の母に議論を吹っ掛けるとはなんと不届きなことでしょう。未熟だったことを深く恥じ入ります。
文面の高梁市とは、高校時代に電車で通っていた学校のある所で、今は備中松山城で広く知られています。
この手紙で印象的なのは、なんといっても文末の2首の句です。
母の手紙(その10)
(文面)
中秋らしく少し肌寒さも覚える朝夕になりました。
写真を送ります。一寸したことでも昔のようにこまめに事が運びません。
新聞の切り抜きのこの方のように生きていたら労をかこつこともないでしょうね。
この方の精神の半分でも真似したいと思います。
人間 何が幸福かと云うと、自由であることと そして心も体も健全であることでしょうね。心と体が健全ならば自分自身生き抜くことが出来ると思います。
風邪をひかない様 気をつけてお過ごしください。
庸夫様 雪野
この手紙を受け取ったころ
いつものことですが、この手紙でも新聞の切り抜きで得た情報について書いています。
こんなふうに書くと、母の趣味は切り抜きだけか、と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。
高齢になってあまりやらなくなったとはいえ、中年期ごろまで趣味のひとつとして最も精を出していたのは編み物です。
私をはじめ、5人の子供たちへと編んだ衣服を1年に何枚も次々と送っていたようです。
私には数点送ってくれました。それらは古くなってほとんどは処分しましましたが、グレイの分厚いカーディガンだけは今も残っています。
最終回掲載予定 2月20日