2026年10月29日木曜日

T.Ohhira エンタメワールド〈7〉進次と和子の青春グラフィティ(16)

 

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 進次と和子が三度目に会ったのは、結局一月最終週の土曜日になってしまった。毎日でも会いたいと思っていた進次としては、二度目に会ってから三度目までが二週間も開くとは考えてもみなかった。


アルバイトの給料前だったので、二十日までは仕方ないにしても、その先さらに一週間待つことになるとはまったく予想外のことだった。


過去二回とも、それなりに意義あるデートであったが、欲を言えば今ひとつ物足りなさが残っており、三度目の今度こそと意気込んでいたこともあって、この二週間のブランクは進次にとっては永久に続くかと思えるほどの長い日々で,まさに一日千秋の思いで、この日がくるのを待っていたのだ。


 会う日が遅れたのは和子がひいた風邪のせいだった。

 塩崎にピーピングショーに誘われ、それを断って下宿に帰り、2週間ぶりに部屋の掃除をした日から二日後の学校からの帰り道、進次はバス停前の公衆電話から和子に電話した。

 5回ぐらい発信音が続き、そのあと大家さんだったのか、しわがれ声の男の人が出てきて「はい野口です」と答えた。

野口って言うのか、大家さん。そう思いながら和子の部屋への取次ぎを頼むと「和子さんねえ、今朝会ったとき、何か風邪気味なので学校休んで病院に薬もらいに行くとか言っていましたよ。さてもう帰っているかな。とにかく繋いで見ましょう」


 和子さんが風邪、意外なことを聞き進次は少し動揺した。

 それからカチカチと親子電話の接続音らしき音が聞こえて、三~四秒の空白の後、「もしもし」と、これまでの和子の声とは違うずいぶん弱々しい声が受話器の奥から響いてきた。


 「もしもし、和ちゃん。ぼく進次。どうしたの? いま大家さんに聞いたんだけど、風邪引いて学校休んでいるんだって?」

そう言った後、和子のことをはじめて和ちゃんと呼んだことに気がついて、いいんだろうか。もうこんなに親しそうに呼んだりしてと、進次は一瞬戸惑いを感じていた。


「わあ、進次さんなの。わざわざ電話してくれたのね。嬉しいわ、声が聴けて、わたしねえ、今朝起きたら頭痛がして、のりちゃんがオデコに手を当てて熱があるって言うもんだから、体温計で測ってみたら熱が三十八度もあって、それで学校休むことにして、朝一番に病院に行ってきたの。帰ってから薬飲んで、それからずっと寝ていたの」


 その冬はインフルエンザが猛威を振るっていて、あちこちの小学校や中学校が臨時休校になっているのは新聞で読んでいて進次も知っていたのだが、なんと言って和子を慰めようかとしきりに考えていた。


 「それで大丈夫なの、一人で寝ていて。心細いだろう」

 「大丈夫よ。のりちゃんが学校から帰ったらバイト休んでそばへついていてくれるって言ってたから。

心配しないで、すぐよくなるから。でも進次さん今どこからかけてあるの?」

 「梅田だよ。学校帰りで、バス停の前の公衆電話から」

 「じゃあこれから下宿へ帰って寝るんでしょう? 今日は金曜で夜のお仕事あるんでしょうし、私のことは心配しないで、早く帰って休んで」

 「うん、そうするけど、明日は土曜日だろう。夜はバイト休みだし、また和ちゃんと会いたいな、と思って電話したんだ。でも無理だな、その調子だと」


 懐具合からして、次の土曜日は絶対無理だと前々から思っていたはずなのに、弾みでなのか、進次はそう言っていた。


 「私もよ。明日会えると思っていたの。もし進次さんから連絡がなければ、私のほうから誘いの電話しようと思ってたの。それなのに風邪なんかひいてしまって。ごめんなさいね進次さん」 

「仕方ないよ病気なんだから、きっとすぐ治るよ」


 「あのねえ進次さん。わたし今思ったんだけど、進次さんのバイトの休みは水曜と土曜でしょう?」 

「うん、そうだけど」 

「それでね、次の水曜日にまたこちらへこない? その日のりちゃんと一緒にお食事する日なんだけど、彼女にたのんで食事三人前作ってもらって、ここで三人で一緒に食べない?

のりちゃんも進次さんに一度会ってみたいって言ってたし、どう、このアイデア?


 時々ゴホン、ゴホンとッ咳き込みながら、進次を喜ばそうと思ったのか、和子は優しさをこめた声で言った。


 でも、せっかくの和子のその提案も、進次にはすんなり飲むことはできなかった。

二人だけの食事なら別だけど、三度目でいきなり紀子という友達を交えての三人での食事というのは、いかにも気が引けると思ったからだ。

何か自分が肴にされそうな、そんな気もした。

もっとも過去二回のデートが進次の思惑通りに運んでいたのなら話は別だろうが。


つづく

次回11月5日(木)