2021年2月10日水曜日

翻訳の仕事はAIに奪われてしまうのだろうか?



AI翻訳はこのところ長足の進歩を遂げたが

文学作品などではまだまだ人の力には及ばない

 

AIの進歩は様々なジャンルで画期的な変化をもたらしており、人々は「仕事を奪われるのでは」と危惧していますが、翻訳の業界も例外ではありません。

AI翻訳といえば、まずトップに上げるべきはグーグルでしょうが、このところの進歩のめざましさは万人が認めるところです。

巷では、「もはやプロの翻訳家に負けないぐらい力をつけている」という声さえ聴こえてくるぐらいです。

とはいえ、そう言えるのはあくまでビジネス文書、学会の論文系文書などの分野であり、こと文学作品となれば決して人の力に及ぶところまで進歩しているとは言えません。

それを示すためにここではあるミステリー作品の序文の部分をを土台にして、その訳文を比較してみることにします。

 

文学作品でAI翻訳(エキサイト翻訳)と人(プロの翻訳家)の訳文を比較

出典・通訳翻訳Web

 

Considering that Mr.Harold Carobleat had been in his time a town councilor of Flaxborough, a justice of the peace, a committeeman of the Unionist Club, and, reputedly, the owner of the town’s first television aerial, his funeral was an uninspiring affair.
 And considering the undoubted prosperity of Mr.Carobleat’s business establishment, the ship brokerage firm of Carobleat and Spades,its closing almost simultaneously with the descent of its owner’s coffin into a hole in Heston Lane Cemetery was but another sign that gloria mundi transits as hastily in Flaxborough as anywhere else.

Coffin, Scarcely Used(Colin Watson著)より

 

 翻訳訓練生(優秀者)の訳文

人生で最も羽振りの良かった頃のハロルド・キャルブリート氏は、フラクスボローの町議会議員、治安判事、社交クラブの委員を務めていた。噂では、この町のテレビアンテナ所有者第一号だったという。その割には、彼の葬儀は侘しいものだった。
 そのキャルブリート氏が設立した船舶仲介会社〈キャルブリート・アンド・スペイズ〉は大成功を収めたのだが、ヘストン・レーン共同墓地の一画に氏の棺が埋葬されるのとほぼ同時に、会社は閉鎖された。フラクスボローであれどこであれ、栄光はあっという間に過ぎ去るものだ、という証でもあった。

プロ翻訳家 宮脇孝雄の訳

 考えてみれば、わが世の春を謳歌していたころのハロルド・キャロブリート氏は、フラクスバラの町議会議員や、治安判事、ユニオニスト・クラブの理事などを務めていて、町で最初にテレビのアンテナを家に設置した人物であるともいわれているが、その葬儀はなんともぱっとしないものだった。
 また考えてみれば、キャロブリート氏の会社、船舶仲立業の〈キャロブリート&スペーズ〉社は間違いなく繁盛していたのに、オーナーの棺がヘストン・レーン墓地の穴に下ろされるのとほぼ同時に店をたたんでおり、そのことからまたしてもわかるように、余所と同じくフラクスバラでも現世の栄華はたちまち過ぎてゆくのである。


エキサイト翻訳の訳文

ハロルドCarobleatさんが彼で間に合ったこと Flaxboroughの町会議員、治安判事、ユニオニストクラブの委員 、および評判によれば 町の最初のテレビアンテナのオーナー を考慮して、彼の葬式は感銘を与えない事柄であった。

 そして、Carobleatさんの事業所の確かな繁栄、Carobleatの船証券会社と踏みすき、それがヘストンレーン墓地の穴にそのオーナーの棺の下降に同時にほとんど接近することを考慮することがであったけれども、 別の合図 that グロリアmundiは、Flaxboroughにおいて、他にどこでもあるのにも劣らずあわただしく移行する。


(翻訳のポイント)

原文の形からすると、しれっとした顔で長文を二つ続けているところがなかなかおもしろいのですが、このように途中で切って訳すのも一つの見識です。

ミステリの書き出しにはいろいろ仕掛けがあるもので、この場合も例外ではありません。最初の in his time(「若いころには/盛りには/これまで/存命中には」などの意味があります)は、この文脈では「生前の」と訳すのが普通ですが、ここでは「盛りには」の意味に取らないと、あとの展開と矛盾をきたします。ただ、それは最後まで読まないとわからないことなので、このコンテスト的には「生前の」でもOKです。

(参考サイト)出典:通訳翻訳WEB

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翻訳者として生き残るには広い分野で対応できる力をつけること

上で示したように、人による翻訳(2例)とAI翻訳(エキサイト翻訳)では訳文の質にかなりの差が見られます。

言うまでもなく、ここで上げた文学作品に於いては人による翻訳のほうが優れているのは明らかです。とはいえ文学以外の分野、例えばビジネス文書、学会論文系などになると、優劣はそれほど顕著には現れません。

ということは、これからの翻訳者は機械翻訳が苦手分とする分野も含め、なるべく幅広いジャンルに対応できる力をつけることが生き残るための必須条件になります。

 

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