下は井上ひさしが紹介する(エッセイ集「この世の真実が見えてくる」岩波書店 「 写真上」)での古典的な詐欺の手口ですが、実によくできていて、これだと引っかかる人は多いのではないでしょうか。でも時には高尚で難解な文章を書くあの井上ひさしが、こうしたいかにも庶民的で親しみやすいテーマを取り上げているのがとても面白く思えます。
このようなくだけた作品が書けるのも、氏の大きな魅力ではないでしょうか。
先物取引サギの手口
最初は投資に関心がある四百人のカモから始める。 一回目の電話で、その四百人の半分の二百人に 「Aという商品は上がる」 のこり二百人に 「Aという商品は下がる」 と伝える。もちろん手紙を使ってもいい。 どちらかが必ず当たりますから、当たった方の二百人に、また予告する。すなわち、百人ずつに分けて、一方に「上がる」、他方に「下がる」。やっぱりどちらかが当たる。そこで当たった方の百人を二つに分けて、五十人に「上がる」、残りに「下がる」。今度もどちらかが当たる。もう一度、当たった五十人を二つに分けて、二十五人に「上がる」、のこりに「下がる」。ぜったいにどちらかが当たる。 最後まで当たり続けた二十五人にとっては、田派の主は「相場の神様」のように思えてくる。一回や二回なら偶然で済ませることができるが、三回、四回とあたりが続くと、もう必然になり、信仰に近いものになる。ここまで信用させておいて、最後に、「どうですか、わたしに資金の運用を任せてくれませんか」 そう持ちかけて、お金を預かってドロン。
出典:エッセイ集「この世の真実が見えてくる」井上ひさし 岩波書店 |
いかがですか、このエッセイが書かれたのはずいぶん前のことで、人々の投資への関心はそれほど高かったとは思えません。
でもこれが今であるとどうでしょう。
新NISAに見るように国が積極的に国民に投資を薦めているような時代にあっては、人々がこうした手口による詐欺に関与することは少なくないでしょう。
「世に盗人の種は尽きまじ」というように、今の時代も詐欺に手を染める人は一向に減っていないようです。
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