書評 「青べか物語」 山本周五郎 新潮文庫
山本周五郎は日本の小説家の中では最も作品を多く出している多作作家の一人です。
それをよく示すのは、新潮社だけでも文庫を主として作品数が約200点に及ぶというから驚きです。
これだけ多ければ読者の作品選びも大変で、いったい何から読めばいいか迷ってしまいます。
そこでおすすめするのですが、最初はぜひこの作品から始めてください。
この作品を読めば山本周五郎が小説家としていかに素晴らしいかが良くわかります。
素晴らしいとは、読者を楽しませるおもしろくて、味わい深い作品が書けることです。
作品レビュー auブックパス
2020/4/16
これはなかなか味わい深い物語である。 しかし、著者の他の作品と同様な「小説」を期待すると肩すかしを食らうかもしれない。 大正末期~昭和初期が時代背景と思われるが浦安近辺の漁師町に数年滞在した「私」の日記のような物語で、当初その「私」は当然、山本周五郎その人であろうと読み進めるのだが、そうではないらしい事が少しずつわかってくる。 この変の微妙な読者の心理変化が独特な感覚を味あわせてくれる。 昭和初期なんて、もちろん私自身は知らない。 しかし、その頃の郷愁やノスタルジーはなんとなくわかる。 今、三丁目のなんとかとか昭和三十年代がもてはやされているけど、いつの時代でも昔を懐かしむ事は繰り返されていたんじゃないだろうか。 この「青べか物語」も、「私」が感じた当時の町の住人たちの生活ぶりを書き綴ることによって、読者それぞれが持つ郷愁を味あわせてくれるという独自の小説に仕立てられている。 ちょっと難しいのですが、私のような年寄りには凄く楽しめる本でした。
・・・・・・・・・・・・・・・
出版社内容情報
騙し、騙されるのに、なぜか幸せだったりする。根戸川の下流にある浦粕という漁師町を訪れた私は、沖の百万坪と呼ばれる風景が気に入り、このうらぶれた町に住み着く。言葉巧みにボロ舟「青べか」を買わされ、やがて“蒸気河岸の先生”と呼ばれ、親しまれる。貧しく素朴だが、常識外れの狡猾さと愉快さを併せ持つ人々。その豊かな日々を、巧妙な筆致で描く自伝的小説の傑作。
内容説明
根戸川の下流にある浦粕という漁師町を訪れた私は、沖の百万坪と呼ばれる風景が気に入り、このうらぶれた町に住み着く。言葉巧みにボロ舟「青べか」を買わされ、やがて“蒸気河岸の先生”と呼ばれ、親しまれる。貧しく素朴だが、常識外れの狡猾さと愉快さを併せ持つ人々。その豊かな日々を、巧妙な筆致で描く自伝的小説の傑作。
著者等紹介
山本周五郎[ヤマモトシュウゴロウ]
1903‐1967。山梨県生れ。横浜市の西前小学校卒業後、東京木挽町の山本周五郎商店に徒弟として住み込む。1926(大正15)年4月『須磨寺附近』が「文藝春秋」に掲載され、文壇出世作となった。『日本婦道記』が’43(昭和18)年上期の直木賞に推されたが、受賞を固辞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
出典:紀伊国屋ウェブ