遠藤周作のエッセイ集「人生を抱きしめる」(写真下))に「病院生活」という作品があり、それになんとも不思議で驚くような話が載っている。
それは著者が入院していた病室の近くにいた老人のことを書いたものである。
この老人は想像を絶するような吝嗇家(ケチのこと)で、なんと自分の病気のために処方された薬をまったく服用せず、すべてを腹巻の中に隠していたというのだ。
下がその様子を書いた本文である。
老人はハラマキの中に大量の薬を溜めこんでいた
一人の爺さまが死んだ時は一寸、悲惨だった。この爺さまは、自分が病気なのにもかかわらず、ものすごい吝嗇のために医師からまわされる薬を飲むのが惜しく、外で売りさばこうとそのまま溜めているうちに死んでしまったのである。身寄りのないこの爺さまが死んだあと遺品を看護婦たちが整理してみると貯金帳のほかはハラマキの中まで彼が毎日、もらっていた薬が一つも服用されずにズッシリかくされていたのである。なんだかバルザックの小説にでも出てきそうな話である。
出典:遠藤周作初期エッセイ「人生を抱きしめる」河出書房新社 151ページ
おそらくこれを読んで驚かない人は少ないだろう。老人が薬を溜めこむ事もそうだが、今から何十年も前、こうしたもの買ってくれるところがあるというのも驚きだ。
でも生い先が長くない事を知っているはずの老人がなぜそれほどまでにケチを通さなければいけなかったのであろうか。その点も不思議だ。
ちなみに今は、飲み残した薬を買ってくれるところがあるのだろうか。興味のある方は一度ネット検索してみてはいかがですか。
私が検索してみたところ、一つだけ「飲み残し薬品買取サイト」が存在していました。