輸出大国と呼ばれて、これまで長い間貿易黒字を積み重ねてきた日本だが、それももう過去の話。
このところ数年間は逆に輸出より輸入が大幅に増えて赤字が増加し、黒字どころか今では毎月のように赤字を積み重ねるようになっている。
その理由について、大方の人は昨年まで長い間続いた円高の影響と思っているとだろうが、円高が終息して大幅な円安に転じてからも自動車など一部を除いては輸出はそれほど回復していない。
それが証拠に、今年3月になってもまだ赤字は続いており、まだ黒字には転換してはいないのである。
これはただ事ではない。このままずるずると赤字を続けていると大変なことになる。
そうでなくても日本は世界一の財政赤字を抱えているのだから、それに貿易赤字が加わると、まさにダブルパンチであり、国の経済は破綻してしまうのではないだろうか。
こうした危機的状況にある今の日本を踏まえて書かれたのが今回ご紹介する「クォリティ国家という戦略」という本である。
大前研一といえば、日本を代表する論客の一人であり、これまでにも話題になった著書は数え切れないぐらいある。
橋下徹大阪市長も政策作りに大前氏の著書を参考にしている
最近では大阪市の橋下市長が「大阪都構想」や「道州制」に関する政策づくりで、この大前氏の著書を参考にしていることはよく知られている。
橋下市長の本棚には大前氏の著書がすべて揃っているといわれるが、それほど貴重なブレーンにもなっている人なのだ。
この本の骨子になっているのは日本という国の構造の改革である。つまりこれまで続いた単なる加工貿易の国から、今後はあらゆる面において競争力の強い国家への改造を提唱していることである。
まず著者はこのところの日本の電機企業の経営不振について、その理由を分析しているが、例えば韓国のサムスンがパナソニックなどの日本のすべての企業を抜いて世界トップに躍り出たのは、
かつて日本が世界ナンバーワンのシェアを誇っていた半導体の生産の一部をサムスンに任せたため、その技術が盗まれ、サムスンに世界の王座を奪われたのだと述べている。
つまり「ひさしを貸して母屋を盗まれた」のである。
では再び立場を逆転できるかといえば、それは困難だと述べている。パナソニックやソニー、あるいやシャープなどが経営で隆盛を見ることは2度とないだろう、とも書いている。
日本が生き残れる道は加工貿易の継続ではなく、クォリティ国家への変身
ではどうすればいいかというのが、氏がこの本に書いている「クォリティ国家」へと構造を変化させることなのである。
いま日本は大くの分野で国際競争を失っている。氏が挙げる現在競争力が強い国はスイス、シンガポール、フィンランド、スウェーデンの4国である。
例えば高度急性長期にもてはやされたセイコーやシチズンなど日本製の時計にしても、いまやかつての勢いはまったくなく、精密機械王国といわれるスイスに完全にシェアを奪い返されてしまっている。
そのスイスがどのようにして日本からトップの座を奪い返したかについても、多くの事例をもとに詳しく書いている。
また、いま競争力でアジアナンバーワンのシンガポールの発展はどのようにして為されたかについても克明に綴られている。
そしてシンガポールに続くフィンランドやスウェーデンについても、競争力が強い理由について詳しく書かれている。
これからの日本は、単に加工貿易を目指すのではなく、こうした先進の国々をモデルにして付加価値の高いクォリティを備えた国に転進しない限り、将来はないと強調しているのである。
そのためのノウハウを説明しているのがこの本なのである。
また、この本を読めばいま橋下大阪市長が実現へと取り組んでいる”道州制”がなぜ日本に大切なのかがよく理解できる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
著者について
「大前研一」
大前 研一(おおまえ けんいち、1943年2月21日 - )は、日本の経営コンサルタント、起業家。「ボーダレス経済学と地域国家論」提唱者。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院公共政策学部総長教授。韓國梨花女子大学国際大学院名誉教授。高麗大学名誉客員教授。(株)大前・アンド・アソシエーツ創業者兼取締役。(株)ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。
・・・・・・・・・・・・・・
価格 ¥1,575(税込)
小学館(2013/01発売)
サイズ B6判/ページ数 213p
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
目次
序章 「中途半端な国」になってしまった日本;
世界の変化―世界で台頭する新たな国家モデル;
第2章 実例研究1―クオリティ国家の代表格、スイスを現地視察;
第3章 実例研究2―「事業戦略型国家」シンガポールの工夫;
第4章 実例研究3―日本が学ぶべきクオリティ国家のしたたかさ;
第5章 進むべき道―日本新生への新たなビジョン「クオリティ国家」戦略
0 件のコメント:
コメントを投稿