顎ひげのある腕っ節の太い男が、手の平に化粧水を取って両の頬をたたく。「男たちよ、自分だけの強烈な個性を見出そう」。俳優のシン・イルリョンが出演した1980年代の男性化粧品のCMだ。
米国の俳優、 チャールズ・ブロンソンも韓国の化粧品CMに登場し、男性美を演出した。大学を卒業するまで化粧などというものに興味がなかったため、珍しい気持ちでCMに見入ったのを今でも覚えている。
子どものころ、冬になるとかさついた手に「アンティプラミン」(打撲の際に塗る軟膏)や「メンソレータム」を塗るのがせいぜいだったため、「男性が化粧」をするなど夢にも思っていなかった。
20年前は、男性化粧品といえばカミソリやシャワーの後に塗るスキンローションやミルクローションがすべてだった。化粧品メーカーもシン・イルリョンとチャールズ・ブロンソンを巧みに起用し、「男らしさ」をアピールした。今では男性化粧品の目標は「きれいな男性」となっている。
肌を白くする美白クリーム、目元と口元のしわをなくすクリーム、寝ている間に肌に張りを与えるナイトクリームやオイルが、男性用として登場したのだ。顔の角質や油、飲酒翌日のむくみを抑えるローションもある。
ファッションと美容に金をかける男性を「グルーミング族」と呼ぶ。馬引きが馬のたてがみをくしでといたり、猿が毛をむしったりするのを意味する「グルーム」から来た言葉だ。グルーミング族は「容姿も競争力」と信じている。
「相手にもっと深い印象を与えるために化粧する」という。そして何を隠そう世界でトップを行くグルーミング族が、何と韓国人男性なのだ。昨年1年間で化粧品の購入に5600億ウォン(約540億円)を費やし、世界市場の21%を占めた。
その証拠に空港の免税店に入ってみると、化粧品コーナーでは女性に負けず劣らず男性の姿をよく見掛ける。海外の化粧品メーカーが韓国人男性をターゲットに高麗人参の成分が入った化粧品を開発するほどだ。
軍隊の内務班(宿舎)のロッカーには、もはや日焼け止めは常識で、顔パックや鼻パック、かかとに付けて角質を落とすパッチなども入っているという。ある化粧品メーカーは、待ち伏せ訓練の際に塗る偽装クリームを開発、これが人気商品となった。男性化粧品を買う年齢も年々上昇し、20代、30代、40代の割合がほぼ等しくなってきた。
米国のCNNが「韓国が世界で最もうまくこなすことベスト10」を発表した。韓流、インターネット、女子ゴルフ、働き虫、爆弾酒(焼酎とビールなどを混ぜた酒)、美容整形手術、そして「韓国人男性の化粧品文化」だった。特に韓国に「化粧する男性」が多いのは、容姿を優先する風潮のせいだろう。
ハンサムであってこそ大企業に就職でき、最高の伴侶に出会え、仕事も事業もうまく行くと思っている。激しい競争社会で生き残るための必死の「あがき」であるわけだ。最近テレビを見ていると、アイラインを濃くした男性芸能人をよく見掛ける。このままでは、色とりどりに化粧してアイシャドーを決め込んだ男性が町中にあふれる日も、そう遠くはないだろう。
池海範(チ・ヘボム)論説委員
朝鮮日報日本語版 2013年12月8日
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