2023年9月21日木曜日

高峰秀子 世紀の大女優がエッセイに書いた「びろうな話」とは

 



高峰秀子がどれほどの大女優であったかをよくご存じでない方は、まずネット検索をしてみてください。


子役時代からの出演歴、出演映画本数、豪華な共演者、名監督など、いずれをとっても、その圧倒されるような凄さに、誰もが驚くことでしょう。


これほどすごい経歴の、しかも美貌の持ち主である大女優となれば、まさに庶民にとっては憧れの的そのものです。


子供の頃、高峰秀子に限らず雑誌のグラビアなどに載っていた美人女優の写真を見てよく思ったものです。


「こんなきれいな女の人なら汚いことは何もしないのではないだろうか」 もちろん便所でオシッコやウンコなどしないに違いない」と。


要するにきれいな映画女優とオシッコやウンコをする姿はどうしても結びつけることはできなかったのです。


そんなふうに思っていた大女優の高峰秀子が、まさかこんな「びろうな話》をエッセイで書くとは思いもよらなかったのです。



ダイヤモンとド(抜粋) 高峰秀子


私は、夫の歴史が刻まれた結婚指輪を大切にしていた。いたというのはへんだが、私はその指輪を、ある時、ある場所の、とんでもないところへ落っことしてしまったのである。ある時というのは昭和四十七年の四月で、ある場所というのは空の上で、とんでもないところというのは飛行機の洗面所のウンコ溜め、である。

 そのとき私は、大切な婚約指輪と結婚指輪のふたつを洗面台の奥のほうに置いて手を洗っていた。

「オ、ゆれたな」と思ったとたん、二個の指輪はピョンピョコピョンとジャンプした、アレ!という間にポチャンとウンコ溜めの中へ消えてしまったのである。私は唖然となったが、なんせ「夫の執念のかたまり」の指輪である。私はションボリとしてパーサーに打明けた。パーサーは「ウーン」と唸って天井を睨み、なぜかバケツと大量のオシボリとビニールを持って洗面所に消えた。

 二十分も経った頃、洗面所の扉が開いた。ニッコリと顔を出したパーサーの指先に、二個の指輪が入ったビニールの袋がゆれていた。ウンコ溜めをくぐってきた二個の指輪は、今の私の指輪に光っている。いよいよ夫と私は臭い仲になった、というわけである。


出典:精選女性随筆集 文藝春秋


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