2024年10月10日木曜日

メイドカフェでアルバイトする女子高生 書評「いとみち」生涯現役日記《プレイバック再掲載シリーズ》



メイドカフェでアルバイトする女子高生「いと」の一途さが魅力的だ・書評「いとみち」越谷オサム著 新潮社


初出:2012年7月1日


登場人物がイキイキしてキラキラ輝いている、珠玉の青春小説

 感動の一冊である。何が感動かと言えば、登場人物の素朴だが豊かな人間性である。

 舞台は青森、本州端っこの地方都市とはいえ、メイドカフェという言わばサブカル最先端とも言える場所を舞台にしていながら、

そこに登場してくる人物は決して先端を走っているとはいえず、カフェの客をはじめその多くはどちらかと言えば人より一歩遅れた少しドジな人たちなのである。

 中でも代表的なのが主人公の女子高生「いと」である。

  祖母譲りの今時では珍しいほどの訛りのきつい東北弁から抜け出せない彼女は、内気な性格もあって人前で喋るのが大の苦手だ。

 その苦手を克服するためにと、以前からその衣装に憧れてたこともあって、電車に乗って家からずいぶん遠い青森市内のメイドカフェに土日のアルバイトとして勤め始めることにした。

 だが彼女を悩ませたのはメイドカフェの決まり文句である「お帰りなさいませ、ご主人様」と言う挨拶だ。

 いくら注意して言っても 「ごすずんさま、おがえりなせーませ」 というふうな訛りの入ったおかしな言い回しになってしまい、いつも回りから失笑を買っていた。

 進歩の遅さに我ながら嫌気のさした「いと」は入社早々辞めることを考える。

 しかしそんな彼女をかばって温かく指導してくれる先輩メイドたちの応援もあってなんとか辞めずに仕事を続ける。

 先輩メイドだけでなく、店長もオーナーも何かと気にかけてくれる。

 それだけではなく、店に通ってくる客たちもいつしか温かく「いと」を励まし応援してくれるようになる。

 オタク系で世間からは少し遅れている客としての彼らだが、中には高校教師とか銀行員とかの、社会的なステータスとしては申し分のない堅い仕事についている人たちも混じっていたのだ。

 「いと」はアルバイト先のことについて父親にはっきり伝えておらず、ただ「カフェ」とだけ言っていた。

  ある日、高校の友達からの家族共有パソコンへのメールで勤務先がメイドカフェと知った父親は激怒する。

 だか「いと」はそんな父親に負けておらず激しく反論する。普段はおとなしく口下手な彼女だが、いざというときは一本筋の通ったところがあり、職場のことをかばって必死に反論する様子は実に感動的である。

 「いと」はおとなしくて口下手ではあるが、県内屈指の進学校に通う、本来はまじめで勉強好きな頭のいい子なのである。

 学校でもアルバイトでも何かにつけて人前で自信のもてない「いと」にも自慢できることがひとつある。それは祖母に仕込まれた津軽三味線の腕前である。


 だが、アルバイトのせいもあってその練習もすっかり遠ざかっていたのだが・・・

 さて著者の越谷オサム氏だが、まだ40代に入ったばかりの若手作家である。

 だが若手とはいえ「ファンタジーノベル大賞優秀賞」というメジャーな賞も受賞している実力派の作家である。

 人物描写は特に優れており、「いと」をはじめ、すべての登場人物が生き生きとしてキラキラと輝いている。

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著者、越谷オサム(こしがやおさむ)

1971年、東京生まれ。学習院大学を4年で中退。以後マクドナルドでフリーターとして29歳まで働く。

2004年、第16回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作『ボーナス・トラック』でデビュー。他の著書に『陽だまりの彼女』(新潮社)、『階段途中のビッグ・ノイズ』(幻冬舎)、『空色メモリ』(東京創元社)、『金曜のバカ』(角川書店)、『せきれい荘のタマル』(小学館)などがある。


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映画 いとみち


解説

青森県・津軽を舞台に、メイドカフェで働く人見知りな津軽弁少女の奮闘と成長を描いた青春ドラマ。「ウルトラミラクルラブストーリー」の横浜聡子監督が越谷オサムの同名小説を実写映画化し、「名前」の駒井蓮が主演を務めた。弘前市の高校に通う16歳の相馬いと。三味線を弾く時に爪にできる溝「糸道(いとみち)」を名前の由来に持つ彼女は、祖母と亡き母から引き継いだ津軽三味線が特技だが、強い津軽弁と人見知りのせいで本当の自分を誰にも見せられずにいた。そんなある日、思い切って津軽メイド珈琲店でアルバイトを始めたことで、彼女の日常は大きく変わり始める。いとを心配しながらも見守る父を豊川悦司、津軽メイド珈琲店の怪しげなオーナーをお笑いタレントの古坂大魔王、シングルマザーの先輩メイドを「二十六夜待ち」の黒川芽以がそれぞれ演じる。

2021年製作/116分/G/日本
配給:アークエンタテインメント
劇場公開日:2021年6月25日


監督 横浜聡子

脚本 横浜聡子



キャスト

相馬いと

演 - 駒井蓮

青森県弘前市の高校に通う女子高生。特技は祖母と亡き母から受け継いだ津軽三味線。

葛西幸子

演 - 黒川芽以[7]

津軽メイド珈琲店のメイドでシングルマザー。本人曰く「永遠の22歳」。

福士智美

演 - 横田真悠[7]

津軽メイド珈琲店のメイド。漫画家を目指している。

工藤優一郎

演 - 中島歩[7]

津軽メイド珈琲店の店長。

成田太郎

演 - 古坂大魔王[7]

津軽メイド珈琲店のオーナー。

青木

演 - 宇野祥平[8]

津軽メイド珈琲店の常連客。

相馬ハツヱ

演 - 西川洋子[8]

いとの祖母。映画ではいとの母・小織の実母へと変更されている。

相馬耕一

演 - 豊川悦司[3][4]

いとの父。人見知りな性格の娘がアルバイトをすることを心配している。

映画では東京・多摩地区の出身で、ハツヱとは義理の親子へと変更されている。

伊丸岡早苗

演 - ジョナゴールド(りんご娘)[9]

いとの親友。

相馬小織

演 - 駒井蓮(二役)

いとの母。故人。

山本、八戸、藤沢、栗原、赤平、鳴海佳奈子

演 - 柴山大樹[10]、福士賢治[10]、熊谷衡[11]、石郷伸明[12]、佐々木史帆[13][注 1]、石田夕理[14]

津軽メイド珈琲店の常連客。

小野寺

演 - 山田百次[15]

津軽メイド珈琲店の客。いとの尻を触ったと騒ぎになる。

米田

演 - 長谷川等[16]

いとにリンゴ園のバイトを頼みに来た男性。

豊島、斎藤、他

演 - とき(りんご娘)[17]、美土里(ライスボール)[18]、山内凜、中嶋陽太

耕一のゼミの学生。

伊丸岡

演 - 樋川由佳子[19]

早苗の母親。

葛西樹里杏

演 - 櫻庭悠月[20]

幸子の一人娘。

蛯名正樹

演 - 平田成直[21]

青森県弘前高校 社会科教師。

三味線職人

演 - 工藤満次[22]

キャスター

演 - 猪股南(RABアナウンサー)[23]

成田オーナー逮捕のニュースを伝える。

対馬美咲、柿崎詩音、三上絵里

演 - 長内嘉凜[24]、山内小町[25]、太陽(ライスボール)[18]

いとの同級生。

その他同級生

演 - 須藤、相馬、安田、吉田(以上アルプスおとめ)[26]、水愛(ライスボール)[18]他

いとの同級生。

相馬、今村、平井

演 - 相馬信吉[27]、今村修[28]、平井潤治[29]

いとたちが社会科見学で話を聞いた青森空襲の語り部たち。


出典・ウィキペディア


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