これまで10作の小説を書いてきた。そのうち1作だけが長編で、あとはすべて100枚前後の中編小説である。
それら10の作品の中から最初に書いた3作を小説新人賞に応募した。
応募対象は講談社、集英社、文芸春秋社でいずれもメジャーな出版社が主催する新人賞である。
そして結果は3作すべてが厳しいと言われている予選を通過した。われながらこれは快挙だと思っている。
初めての応募で、しかも最初から3回連続で予選を通過するということは稀なことだとも言われている。
このことは生涯を通しての、私が胸を張って自慢できることのひとつである。
さて、小説を書くということに関して、まだその経験のない人にとっては、「それはとてつもなく困難なことだ」と思っている方が多いのではないかと思う。
たとえ文章を書くことが好きな人でも、こと小説となると別問題で、実行に移すとなれば少なからず躊躇して、簡単には行動に踏み切れないのではなかろうか。
実はこの私も最初はそうだった。
したがって、それを克服するために、これでもか、これでもかというぐらい、いろいろな小説の書き方に関する指南書を読んだ。
ここで今も手元にあるそれらの本の書名を挙げてみることにする。
・ベストセラー小説の書き方 「ディーン・R.・クンツ著・大出 健訳」 朝日文庫
・ロマンス小説の書き方 「ヘレン・B・バーンハート著・池田志都雄訳」 講談社・ミステリーの書き方 「ローレンス・トリート編・大出 健訳」 講談社
・推理作家製造学 「姉小路 祐著」 講談社
・対談 小説作法 「中野孝次編」 文芸春秋社
・小説の書き方 「野間 宏編」 明治書院
・小説の書き方 「井上光晴著」 新潮選書
・物書きになる方法 「山本祥一朗著」 三一書房
・まだ見ぬ書き手へ 「丸山健二著」 朝日新聞社
・小説読本 「吉行淳之介著」 集英社文庫
これらはすべて小説を書くための指南書であるが、小説に限らず、例えばノンフィクションであるとかの他の分野のものを入れると私の書棚にあるものだけで、おそらくこれの2倍には達するであろう。
さて、これら多くの指南書であるが、説明の順番やプロセスには若干の違いはあるが、小説の書き方について、これらの本のすべての著者が共通して力説していることが一点ある。
それはこういうことである。
テーマであるとかストーリーやプロットについて考えることは当然必要だが、あまり考えすぎず、
大まかな構成が決まったら細部にまで考えをめぐらすことなく、まずは書き始めること。
そうして書き始めると最初の一文が次の一文を呼び、知らぬうちに次へ次へとどんどん書き進んでいけるものだ。そして、ある程度まで進んだら、不思議なことに、書き手の不安な気持ちをよそに、主人公が勝手に動き始めて、勝手にスートリーを展開させていくことがよくあるのだという。
言うならば、主人公をはじめ、登場人物が勝手に動いてストーリーを展開してくれるのだ。
このことについては文章で説明しても、理解してもらうのが難しいと思うのだが、要は机の前で、ああでもない、こうでもない、と考えてばかりしていないで、思いついたことをどんどん書き進めていくことの重要性を説いていることと、それによって起こる思いがけない相乗作用について述べているのである。
そしてさらに著者たちは口をそろえてこう言う。
「完成した作品は考えていたストーリーとは少し違ったものになったりすることもあるが、結果としては満足できるものになった」と。
要するに小説は樹木が枝葉をつけていくように、しっかりとした幹さえあれば、その後は枝が枝を呼んで葉をつけて、最後には自然に立派な木に成長するということなのではなかろうか。
こうしたことは、私自身も小説を書いていて実感として味わったことが幾度もある。
かく言う私も、こうした机上の空論ばかりでなく、できたら一冊でもベストセラー小説を世に出してみたいものだ。
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