この本の何がすごいのか?
まれにみる迫真のルポルタージュです。
ルポルタージュとは著者自らが現地に赴いて綿密に取材した内容を読者に正確に伝えるもので、この作品がまさにそれに当たります。
この本のなにが凄いかと言えば、第一には徹底した取材に裏打ちされた綿密な構成です。
組織の設立経緯にはじまり、金主、番頭格、店長、プレイヤーなどからなる組織構成。
営業ツールとしての足のつかない携帯電話、精度の高い高齢者名簿、事務所用の仕事場などの準備。
さらにメンバー集めから、その後の厳しい教育訓練など、業務の細部まで余すことなく語り尽くされています。
こうした詐欺グループの行動の一連の流れがこのルポルタージュ全編を貫いており、その結果迫力ある読み物に仕上げられています。
具体的な内容の一部をご紹介すると次のようになります。
詐欺師たちの規律ある朝礼風景
午前8時まえ、まだ通勤時間帯の早い時間だというのに、繁華街から少し離れた古いビルの一室では既に詐欺グループの朝礼が始まっていました。
そこでメンバー一同が声を張り上げて唱和するのは「御法度九か条」というもので、酒、くすり、女、ばくち、けんか、他業、服装、家族、銀行など九つからなる禁止及び注意事項です。
この九つのお題目を赤のマジックで大きく書いた紙がホワイトボードに貼られています。
これを最初にリーダーが読み上げ、そのあとでメンバー全員がが大声で唱和していくのです。
その風景には一流会社における営業部員の朝礼にも負けないぐらい規律正しく統制のとれた雰囲気が漂っています。
グループのメンバーの日常生活は常に監視されている
警察に足がつかないようにグループメンバーは徹底的に管理されているだけでなく、プライベートの時間さえ厳しく監視されています。
またメンバー各々の身元は細かなところまで調べ上げられており、万一秘密を外部に漏らした場合は家族に害が及ぶと暗に匂わせ、裏切り行為に備えているのです。
しかし厳しいだけでなく、プレイヤーは架電の任務に当たるだけの単なるテレフォンアポインターの身分でも、30万円の給与が保証されています。
その上に毎日の仕事の成果によっては5000円の報奨金が支給されます。
このように飴と鞭を上手に使い分けることによって高齢者から金をだまし取るためのモチベーションの高い詐欺集団が形成されているのです。
劇場型詐欺のトークはこうして生まれる
最近の振り込め詐欺は劇場型とも言われていますが、それがどのような形かと言えば、一組3名のメンバーがチームになり、各々が異なった役を演じて被害者に接する手法です。
3人の内訳は、一人が最初に電話をかける被害者の息子役、あとの二人はシチュエーションに応じて、警察官であったり、弁護士であったり、あるいは最寄駅の駅員など、いろいろな役になります。
このように三人が別々の役割を演じることでストリーに真実性を持たせ、相手を騙すための質の高いドラマを演出するのです。
具体的な例をあげてみますと、電車で息子が痴漢を働いたという設定では、息子役と被害女性の父親役、それに現場を目撃したという駅員役の男、という3名の役柄になります。
この3人が賠償金をせしめるために電話口で迫真の演技で被害者に迫っていくのです。
書 名 老人喰い
著 者 鈴木大介
出版社 ちくま新書
価 格 800円+税
発行年 2015年
著者鈴木大介氏について
著書に『家のない少女たち』『援デリの少女たち』『振り込め犯罪結社』(いずれも宝島社)、『家のない少年たち』(太田出版)、『最貧困女子』(幻冬舎新書)など。
現在、「週刊モーニング」(講談社)で連載中の『ギャングース』(原案『家のない少年たち』)でストーリー共同制作を担当。
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