最近の新書版でこれほど多くの書評が書かれている本も珍しいのではあるまいか。
グーグルで検索しても、このこの本に関する情報はすでに100万件以上も出ているから驚きだ。
実に反響の大きい本である。まだ発売から3ヶ月しかたっていないのに、すでに「岩波新書」歴代9位の売り上げを記録している。(hontoランキング)。
この本を読んでいると、書簡集ということもあってか同じ岩波書店発行の名著「聞け、わだつみの声」がすぐ思い出される。
太平洋戦争での戦没学生の遺稿集である同書は、読んでいて涙が止まらず、何度読んでも深い感銘を受ける一冊だが
この本もまた、それに似た思いを抱きながら一気に読み終えた。
書簡集という分野は、出版においては言わばメジャーなテーマであリ、それだけにこれまでにも多くの作品が出されてきており、ベストセラーになったものも少なくない。
でもこの作品ほど解説が優れているものも少ないのではないだろうか。
これまでの作品でもエピソードなどはそれなりに挿入されてはいるが、手紙が書かれた背景とか、書いた人の心情がここまで克明に語られている作品も珍しい。
これは著者の丁寧で念入りな取材と卓越した観察力の賜ではあるまいか。
書簡集という分野の本はいつ読んでも興味深く、感銘を受ける作品も多い。
でもこの本は単なる書簡集ではない。書簡をめぐってのエッセイではあるが、著者の卓越した観察力によって綴られた感想文こそが一つ一つの書簡の価値を一段と高めているのである。
この本でとりあげた書簡の発信者はいろいろと多岐の分野に及んでいる。
その中でもっとも多いのが文学者だが、この本を読んでいると、その人たちが愛する人たちに書いた書簡の熱い思いが伝わってきて
なぜだか彼らの残した文学作品をもう今一度読み返してみたくなってくるのである。
その人たちとは横光利一、堀辰雄、島尾敏雄などである。
心の琴線に触れるというか、これほど人の心を揺さぶる作品も最近では珍しい。
間違いなく稀に見る名著である。
「いい本ですよ」と、人に薦めたい感動の一冊でもある。
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【著者情報】
梯久美子(カケハシクミコ)1961年、熊本市生まれ。ノンフィクション作家。北海道大学文学部卒業後、編集者を経て文筆業に。
2006年、『散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道』(新潮文庫)で第37回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・発売日:2013年01月
・著者/編集:梯久美子
・出版社:岩波書店
・サイズ:新書
・ページ数:246p
・価格 840円
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「目 次 」
まえがき
I 時代の証言者たち
1 権力にあらがって
田中正造 天皇への直訴/田中正造から支援者へ/幸徳秋水から堺利彦へ/管野すがから杉村縦横へ/伊藤野枝から大杉栄の妹、菊子へ/小林多喜二から志賀直哉へ/宮本百合子から顕治へ/宮本顕治から百合子へ
2 かれらが見た日本
日露戦争の兵士から母校へ/宮沢賢治から大木実へ/寺田寅彦から小宮豊隆へ/大日向村の小学生の満洲からの手紙/西脇安からアメリカ原子力委員会へ/久保山愛吉から子どもたちへ/井伏鱒二から松本直治へ/坂口新八郎の遺書/小原保から短歌の主宰者へ/由比忠之進の抗議書/大河内清輝くんの遺書
II 戦争と日本人
3 戦場の手紙
火野葦平から長男へ/山中貞雄の遺書/宮柊二から妻英子へ/竹内浩三から野村一雄に/和田稔から妹へ/佐々木清美から母へ/藤井春洋から折口信夫へ/市丸利之助少将からルーズベルト大統領へ/父から北原亞以子へ
4 女たちの戦争
諏訪としから夫へ/大平ミホから島尾敏雄へ/石田まさ子から夫光治へ/中野ミエ子から岩井伍長の父へ/宮城巳知子の嘆願書/端野新二から母いせさんへ
5 敗戦のあとさき
丸山定夫から太宰治へ/仲みどりから母へ/昭和天皇から皇太子へ/香淳皇后から皇太子へ/吉田茂から来栖三郎へ/児玉誉士夫からマッカーサーへ/戦犯の妻からマッカーサーへ/BC級戦犯田口泰正の死亡通知/中島茂から家族へ
III 愛する者へ
6 恋人へ
鳩山一郎から妻となる寺田薫へ、芦田均から妻となる長谷寿美/中島敦から橋本たかへ/堀辰雄から妻となる加藤多恵子へ/立原道造から水戸部アサイへ/大宅壮一から妻となる奥田昌へ
7 妻・夫へ
森鴎外から妻しげ子へ/山口多聞から妻孝子へ/八木重吉から妻登美子へ/横光利一から妻キミへ/中野重治から妻政野へ/植村直己から妻公子へ/永井八重から夫荷風へ/加藤シヅエから夫石本恵吉へ/小泉セツから夫八雲へ/素木しづから夫上野山清貢へ/谷川多喜子から夫徹三へ
8 親から子へ
石川啄木から妹光子へ/寺田寅彦から娘貞子へ/夏目漱石から娘たちへ/尾崎秀実から娘楊子へ/原浅から長男貢へ/小泉信三から長男信吉へ/中島敦から息子たちへ/吉野せいから娘梨花へ/岡本一平から息子太郎へ/母から息子浜田廣介へ/父から息子木山捷平へ
9 友情のことば
正岡子規から夏目漱石へ/平塚らいてうから小林郁へ/吉川英治から升田幸三の妻静尾へ/白洲正子から田島隆夫へ/新藤兼人から杉村春子へ/川端康成から北条民雄へ/山田五十鈴から山本周五郎へ/川口松太郎から山本周五郎へ/牧野富太郎から佐藤清明へ/岸田劉生から椿貞雄へ/宮沢賢治から岩波茂雄へ/倉田百三から岩波茂雄へ/太宰治から佐藤春夫へ
IV 死者からのメッセージ
10 夭折者たち
知里幸恵から金田一京助へ/田村勝則から両親へ/愛新覚羅慧生から周恩来へ/松濤明の遺書/新美南吉から巽聖歌へ/上温湯隆から支援者へ
11 遺書と弔辞
佐久間勉の公遺言/塚本太郎の遺書/中村徳郎の遺書/前田啓の遺書/原民喜の遺書/近衛文麿の遺書/満淵正明の遺書/山本幡男の遺書/前川正より三浦綾子へ/島秋人の遺書/久米正雄の高田保への弔辞/横光利一の片岡鉄兵への弔辞/室生犀星の堀辰雄への弔辞
あとがき
グーグルで検索しても、このこの本に関する情報はすでに100万件以上も出ているから驚きだ。
実に反響の大きい本である。まだ発売から3ヶ月しかたっていないのに、すでに「岩波新書」歴代9位の売り上げを記録している。(hontoランキング)。
この本を読んでいると、書簡集ということもあってか同じ岩波書店発行の名著「聞け、わだつみの声」がすぐ思い出される。
太平洋戦争での戦没学生の遺稿集である同書は、読んでいて涙が止まらず、何度読んでも深い感銘を受ける一冊だが
この本もまた、それに似た思いを抱きながら一気に読み終えた。
書簡集という分野は、出版においては言わばメジャーなテーマであリ、それだけにこれまでにも多くの作品が出されてきており、ベストセラーになったものも少なくない。
でもこの作品ほど解説が優れているものも少ないのではないだろうか。
これまでの作品でもエピソードなどはそれなりに挿入されてはいるが、手紙が書かれた背景とか、書いた人の心情がここまで克明に語られている作品も珍しい。
これは著者の丁寧で念入りな取材と卓越した観察力の賜ではあるまいか。
書簡集という分野の本はいつ読んでも興味深く、感銘を受ける作品も多い。
でもこの本は単なる書簡集ではない。書簡をめぐってのエッセイではあるが、著者の卓越した観察力によって綴られた感想文こそが一つ一つの書簡の価値を一段と高めているのである。
この本でとりあげた書簡の発信者はいろいろと多岐の分野に及んでいる。
その中でもっとも多いのが文学者だが、この本を読んでいると、その人たちが愛する人たちに書いた書簡の熱い思いが伝わってきて
なぜだか彼らの残した文学作品をもう今一度読み返してみたくなってくるのである。
その人たちとは横光利一、堀辰雄、島尾敏雄などである。
心の琴線に触れるというか、これほど人の心を揺さぶる作品も最近では珍しい。
間違いなく稀に見る名著である。
「いい本ですよ」と、人に薦めたい感動の一冊でもある。
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【著者情報】
梯久美子(カケハシクミコ)1961年、熊本市生まれ。ノンフィクション作家。北海道大学文学部卒業後、編集者を経て文筆業に。
2006年、『散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道』(新潮文庫)で第37回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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・発売日:2013年01月
・著者/編集:梯久美子
・出版社:岩波書店
・サイズ:新書
・ページ数:246p
・価格 840円
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「目 次 」
まえがき
I 時代の証言者たち
1 権力にあらがって
田中正造 天皇への直訴/田中正造から支援者へ/幸徳秋水から堺利彦へ/管野すがから杉村縦横へ/伊藤野枝から大杉栄の妹、菊子へ/小林多喜二から志賀直哉へ/宮本百合子から顕治へ/宮本顕治から百合子へ
2 かれらが見た日本
日露戦争の兵士から母校へ/宮沢賢治から大木実へ/寺田寅彦から小宮豊隆へ/大日向村の小学生の満洲からの手紙/西脇安からアメリカ原子力委員会へ/久保山愛吉から子どもたちへ/井伏鱒二から松本直治へ/坂口新八郎の遺書/小原保から短歌の主宰者へ/由比忠之進の抗議書/大河内清輝くんの遺書
II 戦争と日本人
3 戦場の手紙
火野葦平から長男へ/山中貞雄の遺書/宮柊二から妻英子へ/竹内浩三から野村一雄に/和田稔から妹へ/佐々木清美から母へ/藤井春洋から折口信夫へ/市丸利之助少将からルーズベルト大統領へ/父から北原亞以子へ
4 女たちの戦争
諏訪としから夫へ/大平ミホから島尾敏雄へ/石田まさ子から夫光治へ/中野ミエ子から岩井伍長の父へ/宮城巳知子の嘆願書/端野新二から母いせさんへ
5 敗戦のあとさき
丸山定夫から太宰治へ/仲みどりから母へ/昭和天皇から皇太子へ/香淳皇后から皇太子へ/吉田茂から来栖三郎へ/児玉誉士夫からマッカーサーへ/戦犯の妻からマッカーサーへ/BC級戦犯田口泰正の死亡通知/中島茂から家族へ
III 愛する者へ
6 恋人へ
鳩山一郎から妻となる寺田薫へ、芦田均から妻となる長谷寿美/中島敦から橋本たかへ/堀辰雄から妻となる加藤多恵子へ/立原道造から水戸部アサイへ/大宅壮一から妻となる奥田昌へ
7 妻・夫へ
森鴎外から妻しげ子へ/山口多聞から妻孝子へ/八木重吉から妻登美子へ/横光利一から妻キミへ/中野重治から妻政野へ/植村直己から妻公子へ/永井八重から夫荷風へ/加藤シヅエから夫石本恵吉へ/小泉セツから夫八雲へ/素木しづから夫上野山清貢へ/谷川多喜子から夫徹三へ
8 親から子へ
石川啄木から妹光子へ/寺田寅彦から娘貞子へ/夏目漱石から娘たちへ/尾崎秀実から娘楊子へ/原浅から長男貢へ/小泉信三から長男信吉へ/中島敦から息子たちへ/吉野せいから娘梨花へ/岡本一平から息子太郎へ/母から息子浜田廣介へ/父から息子木山捷平へ
9 友情のことば
正岡子規から夏目漱石へ/平塚らいてうから小林郁へ/吉川英治から升田幸三の妻静尾へ/白洲正子から田島隆夫へ/新藤兼人から杉村春子へ/川端康成から北条民雄へ/山田五十鈴から山本周五郎へ/川口松太郎から山本周五郎へ/牧野富太郎から佐藤清明へ/岸田劉生から椿貞雄へ/宮沢賢治から岩波茂雄へ/倉田百三から岩波茂雄へ/太宰治から佐藤春夫へ
IV 死者からのメッセージ
10 夭折者たち
知里幸恵から金田一京助へ/田村勝則から両親へ/愛新覚羅慧生から周恩来へ/松濤明の遺書/新美南吉から巽聖歌へ/上温湯隆から支援者へ
11 遺書と弔辞
佐久間勉の公遺言/塚本太郎の遺書/中村徳郎の遺書/前田啓の遺書/原民喜の遺書/近衛文麿の遺書/満淵正明の遺書/山本幡男の遺書/前川正より三浦綾子へ/島秋人の遺書/久米正雄の高田保への弔辞/横光利一の片岡鉄兵への弔辞/室生犀星の堀辰雄への弔辞
あとがき
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