旅の本だがタイトルがなかなか良く、それに惹かれて読むことにした。
361ページもある分厚い本である。でも文章が軽快で読みやすいのでページを繰る手も軽やかに、先へ先へとどんどん読み進めていけた。
平易だが味のある文章にも惹き付けられた。
この本のテーマは旅だが、でも全編が旅の話ばかりということでもない。
旅の話が半分で、後の半分は旅の本の出版人として生きてきた著者の仕事の記録である。
旅の話もおもしろいが、むしろこちらのでの悪戦苦闘ぶりが読む人をひきつけるのではあるまいか。
全編平易な文章で貫かれているが、中に一ヶ所だけ含蓄のある文章で綴られた強く印象に残った部分があるので、その箇所をご紹介することにする。
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「体験はすべて時間とともに成熟していくものである。とりわけそれが重要で劇的な体験であればあるほど、それを体験している正にその瞬間においては
体験の流れの中に身をゆだねる以外に時間的な余裕も意識的余裕もないから、その体験の内的合意をつかむことができるのは、事後の半生と反芻を経てからになる。
世の中にはいかなる体験についても手軽な解釈に便利な常套句が沢山用意されている。たいていの人は、そこで満足する。
それに満足できない人は、自己認識を求めて内省の旅に出る。そして一杯のお茶を飲んだときにふとよみがえった記憶からはじまって、残りの一生をかけて『失われた時を求めて』を書いたマルセル、ブルーストのような人物も出る」
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書名 「あの日僕は旅に出た」
著者 蔵前 仁一
出版社 幻冬舎
発売日 2013年7月10日
定価 1500円+税
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著者について
蔵前仁一
1956年、鹿児島県生まれ。実家は鹿児島霧島温泉にある1917年(大正6年)創業の老舗旅館。現在は旅行人山荘として営業している。県立鶴丸高校卒業後、慶應義塾大学法学部政治学科卒業。
インド旅行の体験を楽しいイラスト入りでまとめた『ゴーゴー・インド』(凱風社)でデビュー。バックパッカーを対象とした月刊誌『旅行人』(のちに季刊、さらに年2回刊に)を主宰したが、2011年12月発売号をもって休刊。
これまでの著書
ゴーゴー・インド
ゴーゴー・アジア
ゴーゴー・アフリカ
旅で眠りたい(新潮社)
旅ときどき沈没
ホテルアジアの眠れない夜(講談社文庫)
沈没日記(旅行人)
旅人たちのPコート
「ウィキペディア」より
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