2011年4月26日火曜日

この小説に新時代の息吹を感じた・IT社会における父と息子の壮絶な起業奮戦記

書評「起業の砦」江波戸哲夫著・講談社

書評を度々ブログに載せるつもりはなかったのだが、この本だけは許していただきたい。

これほど今の時代を見事に捉えた経済小説は稀であるという思い込みからあえてここに紹介させていただくことにする。

読み終えるのが惜しいと思うほどの充実感を味わいながら卓越したストーリー展開に引っぱられて一気に読み通した。

第二の産業革命とも言われて久しい現在のIT社会下でリーマンショックの余波で職を失った不動産会社エリートであった父と、一度挫折を経験したコンピューターの申し子とも言える息子の壮絶な起業奮戦ドラマである。

49歳の父と24歳の息子は世代は違うが一度仕事を失ったという点でおかれた立場は同じである。

その二人がそれぞれの方向で起業を目指して悪戦苦闘しながら道を切り開いていく様子が業界の克明な描写をもとにリアルに描かれている。

父親と息子の日常が同時進行で語られており、それが臨場感と共に緊迫感を一層盛り上げている。

特に父親の大手不動産会社での長期間にわたる勤務のヒストリーなども良く書き込まれており、それ故に業界動向が手にとるようにわかる。

それと同時に仕事を通じた主人公の人間像がはっきり浮かび上がっているのも大きな魅力である。

元エリートの身でありながら、今はハローワークに通いを続けるというその身の哀れさなども人間臭くリアルに描かれている。

息子の方も一時は親に反抗しながらも、社会の荒波にもまれその厳しさに直面することにより次第に成長していく姿がよくあらわれている。

また全編を通しての著者の卓越したレトリックと会話文におけるセンスあるセリフが光彩をはなっている。

また時おり出てくる不動産営業活動現場でのセールストークはまさにトップセールスマンの見本とも思えるような洗練されたものである。

これなど不動産営業担当者には大いに参考になるのではないだろうか。

この本は先端のIT社会の現在の様子を見事に取り込んだ新時代にふさわしい経済小説である。

読んでいてぐんぐん引きこまれていくお世辞抜きの第一級経済小説である。

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