2011年6月12日日曜日

なぜ日本の大学の学費は高いのか

昨日のブログで世界の大学の学費の比較について書いた。

本日はその中で、際立って高い(アメリカの一部の私学は別にして)日本の大学の学費についてその理由を探ってみることにする。

日本の高等教育に対する財政予算は先進国で最も少ない

日本の国立大学の学費が世界に比べて非常に高い理由を一言で言えば、それは日本の高等教育に対する財政支出が少ないからである。

具体的に言うと、高等教育費の対GDP比率の国際比較では日本はわずか0.48%にしか過ぎず、OECD諸国の平均の約1%の半分以下でしかない。

フランスやドイツの1.0%、アメリカの1.1%、イギリスの0.8%と比べると極端にに少ないのだ。

ちなみに、これらの国々の高等教育(大学・短大)の在学率はいずれも50%前後で日本とほぼ同一である。

またアメリカとカナダの教育政策研究所の調査によれば、先進諸国・地域16カ国の学費・生活費・奨学金をもとにした国際比較でも総合で日本は最下位となっている。

日本では私学が多く(75%)、私学への公費支出が少ない状況を考えると、私学の学生の私費負担がさらに高いのは明らかである。

参考のために、わが国の大学入学者の初年度納付金を見てみることにする。

私立大学平均(2004年)では、授業料、入学金、施設設備費の合計で、文系114万円、理工系140万円、薬学系224万円、医歯系506万円、である。

国立大学は、2005年の授業料値上げによって、入学金と併せて817,800円となった。

私が大学に入学した1963年では13,000円であったから、それと比べるとなんと、63倍である。

当時、1万円あれば一ヶ月楽にやってゆけたことを考えると、学費の異常な高騰ぶりがはっきりとわかる。

 諸外国と比べ低い奨学金の割合

ではわが国と比較するため、簡単に諸外国の学費・奨学金事情を見てみよう。

イギリスでは、受益者負担原則が導入されて約20万円(2006年から最高60万円)の授業料が徴収されるようになったが、卒業後後払い制度と授業料免除(4割の学生)が認められている。

また、貸与奨学金の返済も年収が300万円を超えた時点からという粋な制度となっている。

ドイツは無償であったが、大学教育行政が州政府権限となって有償化(5年以上の在学者から徴収)される見込みである。

一般にアメリカの学費は高いと言われているが、連邦政府の給与・貸与の奨学金は744億ドル(8兆5千億円、2000年)で、学生全体の7割が奨学生となっている。

日本の6820億円(2004年)と比べ実に10倍以上の差がある。

スカンジナビア諸国、デンマーク、フランスの授業料は無料である。

いかに日本の学生が高学費を強いられ、少ない奨学金しか提供されていないことがわかるであろう。

 受益者負担の原則とは

こうした高い学費が許されている背景にあるのは、高等教育を受ける学生は「受益者」であるとみなしていることにある。

そして「受益者負担が原則」などという方針が政府や財政当局者から出され、それに従わされているのが現状だろう。

法律用語では「受益者」とは、「特定の公共事業の施行により特別の利益を受ける者」と定義されている。

従って、「受益者負担」は「特定の公益事業に必要な経費に充てるため、その事業により特別の利益を受ける者に負わせる負担」となる。

教育は特別な利益を個人にもたらすから、教育に関する経費は自己負担せよ、というわけだ。
 
しかし、教育は特別な個人の利益のみなのだろうか。本来教育は、人権の一部であり発達保障のためにされるものである。

また、未来の社会、経済を担う人間を養成する公共的な性格も持っている。

すべての人に能力に応じて必要かつ適切な教育を平等に保障するのが国家の義務であり、家庭の経済的な格差による教育上の差別がないように措置されるべきなのである。

百歩譲って、高等教育を受けた者が受けていない者より生涯賃金が多いから受益者であるとしよう。

しかし、高等教育を受けたいと望む人間は、未来の受益者であって、その段階ではまだ利益は発生していない。

「特別の利益」を得るようになってから負わせるのが本来の受益者負担ではないだろうか。


インターネット
「なぜ、日本の大学の学費が高いのか?−2006年問題を前にして」池内 了(総合研究大学院大学)より抜粋
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