女性の地位向上とともに増える専業主夫 社会的受容の壁崩れるか
ウォールストリートジャーナル日本版が伝える米国の現状
専業主夫 毎日の役目は子育てや家事
. アダム・シュレーダーさん(31)の1日は子供に朝食を食べさせることから始まる。それが終わると、食後の片付け、もうすぐ9カ月になるエリオットくんのオムツ替え、2歳のアイザックくんの遊び相手、外遊びや買い物、昼食の準備、昼寝の寝かし付けと、看護麻酔師として働く妻のエリンさん(30)が帰宅するまで目まぐるしく入れ替わるタスクをこなしていく。
専業主婦として幼い子供を育てる母親にとっては特に変哲のない日常だが、唯一違うのはシュレーダーさんが父親だということだ。
シュレーダーさんが専業主夫の道を選んだのは2010年。長男の誕生を控えて仕事を辞めようかと考えていた矢先、勤めていたラジオ局が倒産して職を失った。
再就職する代わりに子育てに専念することを決めたのは、「夫婦で以前から子供を毎日保育園に預けるのは嫌だという話をしていた。それに妻の稼ぎの方がかなり多かったから」だという。
夫より妻の稼ぎが多い家庭が40%にも達している
米世論調査機関ピュー・リサーチ・センターが先日発表した調査結果によると、18歳以下の子供がいる家庭で母親が大黒柱として唯一の働き手となっている、または、夫以上の稼ぎを得ている家庭は2011年に過去最高の40%に達したという。
米国の女性の社会的地位が向上しつつあることに伴い、シュレーダーさんのように子育てを主に担う父親も着実に増えている。米国勢調査局の統計では、15歳以下の子供を育てる専業主夫の数は2007年の16万5000人から2012年には18万9000人へと5年間で14.5%増加したことが示されている。
. シュレーダーさんも子育ての傍らフリーランスでラジオやウェブサイト向けのオーディオ制作を手掛けているが、同様に自宅で仕事をしながら育児をする主夫を含めるとその数は何倍にも増加すると言われる。
ボストン・カレッジのワーク・アンド・ファミリー・センター(BCCWF)のフレッド・ヴァン・ドゥーセン上席研究員は、「父親が育児で果たす役割はますます大きくなっており、彼ら自身がそれを望んでいる」と語る。専業主夫が特に注目され始めたのはここ数年のことで、ドゥーセン氏は今後もその数は増えるとみている。
本コラムの取材のために公園でシュレーダーさんと落ち合ったところ、シュレーダーさんは次男のエリオットくんをおんぶひもで背負いながら、長男アイザックくんを慣れた様子で遊ばせていた。
他の子が使っている遊具を横取りしないように注意したり、危険な箇所は避けるように指示したり、途中でアイザックくんが駄々をこねるようなことがあっても要求に折れたりせず毅然とした態度でルールを守らせたりと、子育てに真剣に取り組んでいる様子が短い時間でも伝わってきた。
シュレーダーさんは、専業主夫として子供と過ごす時間を有意義に感じていると話す。特に、「子供達が成長する過程を見られる」こと、そして、毎日の生活から「息子をよく知り、個性を理解できる」ことを役得と感じており、社会から孤立したような孤独感を覚えることもないという。
筆者の周りでも、専業主夫はもはやあまり珍しくない。ワーキングマザーの集まりに参加すると、数人は子育てのために仕事を離れた夫を持つ人がいる。
BCCWFが専業主夫として子育てに専念する父親を対象に行った調査では、回答者の約30%が仕事を解雇されたことがきっかけで家庭に入ったと答えている。
残りは、キャリアに満足していたものの、長時間労働で子供との時間が十分持てない、高い保育料を支払うと収入を得る意味があまりない、などの理由で仕事を辞めることを選んだ。
しかし、専業主夫が依然として少数派であることは確かだ。国勢調査局のデータに基づいて算出すると、仕事を1年以上持たずに子育てに専念する親のうち、父親の割合は2012年時点で3.6%と依然として小さい。5年前の2.9%からは上昇しているものの、専業主婦の比率には遠く及ばない。
ウォールストリートジャーナル日本版(抜粋) 2013年6月23日
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ジェンキンス沙智(さち) フリージャーナリスト・翻訳家
愛知県豊田市出身。テキサス大学オースティン校でジャーナリズム学士号を取得。在学中に英紙インディペンデント、米CBSニュース/マーケットウォッチ、 米紙オースティン・アメリカン・ステーツマンでインターンシップを経験。
卒業後はロイター通信(現トムソン・ロイター)に入社。東京支局でテクノロジー、通信、航空、食品、小売業界などを中心に企業ニュースを担当した。2010年に退職し、アメリカ人の夫と2人の子供とともに渡米。現在はテキサス州オースティン近郊でフリージャーナリスト兼翻訳家として活動している。
0 件のコメント:
コメントを投稿