ニューヨーク七番街の朝 |
その規模の大きさゆえか、日本人団体客も多かった。
満員になると3000名を越える宿泊客であるが、その客のうち5%ぐらいは日本人が占めていた。
つまり常時150名前後の日本人客が訪れていたのである。
国籍別では本国のアメリカ人の次に多ったようである。
そううした多い日本人客だが、犯罪の多いニューヨークだけに、何がしの事件に巻き込まれることも少なからずあったようだ。
そうしたものについて記憶によく残っている事件についてご紹介することにする。
事件(その2)
ある日、副支配人のマッコイさんが急ぎ足で私のところへやってくるなり言った。
「1572号室のヤマムラという男性客が、コールガールらしい女との間で何かトラブルがあったらしい。部屋に行って相談にのってあげて欲しい」
私はまたしてもかという思いで、その部屋へとおもむいた。日本人客のトラブルの相談にのるのはここ半年ぐらいで5度目であった。
部屋の中では男性が打ちひしがれた様子でソファーに腰掛けていた。
その人は名古屋地方からやってきた農業関係者のお偉方50名ほどの団体の一員であった。
事情を聞いてみると、昨日の深夜誰かがドアをノックするので、ドアスコープを覗いてみるとドアの前には胸の大きく広がったドレス姿の魅力的な白人女性が立っていた。
その時男性はかなり酔っていて警戒心というものがまるで働かず、躊躇なくドアを開けて女性を招きいれた。
酔っていたせいもあって女性の言うことがまるでわからないままに、すすめられるまま部屋においてあったブランデーを何杯も飲んだ。
酔いが益々まわってきて、そのうち意識が朦朧としてきて座ったまま眠ってしまったらしい。
女性との記憶はそこで途切れていた。
気がついたのは次の日の朝9時過ぎであったが、女性はすでにいなかった。
なにがなんだかわからないまま、ふとクローゼットの方を見ると、そこからトランクがはみ出ていて、なにやら荒らされているような気配があった。
急いで側へ行きトランクを見た。半開きになっていたトランクからは衣類などが出されて、クロゼットの中あちこちに散乱していた。
男性は不安から急に胸の高鳴りを覚えすぐトランクの中を探ってみた。
「ない、確かこの中へ入れたいたはずの4千ドル入りの財布とビデオカメラが」
さらに入念に探ってみたが、いくら探してもやはりそれら両方とも出てはこなかった。
ここで初めてあの昨夜の女に持ち逃げされたことがわかった。
そう言えばブランデーを3〜4杯飲んだ後、急に眠たくなった。いったいあれはどうしてなのだろうか。
男性はそうした疑問を抱きながら副支配人のマッコイさんへ電話したのである。
私は男性に事情を聞くなり、この人が睡眠薬を飲まされて眠らされ、その隙に持ち物を盗まれたことが分かった」
「コールガールに睡眠薬を飲まされたのですよ。昨夜その女といるとき席を外しませんでしたか?」
「はい、ブランデーを3杯ぐらい飲んだ後トイレに行きました」
「そうですか。その時女に睡眠薬を入れられたのですよ。今年になってこれで3度目です。よくあるんですよこの種の事件は。被害者は日本人ばかり。でもあなた。なぜドアを開けたんですか。見ず知らずの女性の訪問に」
「はあ、すこし酔っ払っていたものですから」
「男性は力なくこたえていた」
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この男性も予定を切り上げて、団体から離れて翌日早々と日本に帰って行った。
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