(その1) Bad air coming.
これは20年ほど前、今ではあまりない洋酒パブと呼ばれる形態の店へ行ったときのことであった。
会社の同僚と二人で仕事帰りに寄ったのだが、カウンター席に腰掛けてスコッチウォーターか何かを飲みながら二人で談笑していた。
その夜の話も佳境に入った頃、ふと気がついて横を振り向くと、隣に座っていた中南米系の外国人が少し前からしきりに私の方を見ているのである。
気になったので、何か用かという意味で、May I help you? と聞いてみた。
すると相手が答えた。 Bad air coming from you. と、そう言うではないか。
一瞬考えたがすぐ意味が分かった。実は前の夜大量の餃子を食べており、その日の夜になってもその臭いが完全に消えておらず
大声で話していたために空中に大量の息がばら撒かれ、それが隣の外国人男性に達していたのである。
つまり彼は「そちらから変な臭いがしてきますよ」といったのである。しかしisというbe動詞は抜けているがなかなかうまい表現ではないか。
臭いにまつわる忘れられない思い出である。
(その2) How is your sexlife?
これは若い頃働いていたニューヨークのホテルで同僚の女性から聞かれたことである。
勤務につく前の朝のことであった。従業員スペースの廊下を歩いていると、同僚のまだ20代の若い黒人女性Kがすれ違いざまに私に言った。
Hi 、good morning Tomy (その頃私はトミーと呼ばれていた) By the way How is your sexlife?
朝っぱらからこんなセリフを若い女性の口から聞いた私はたまげてしまった。
よく堂々と「セックスライフはどうなの?」などと聞けるものだ。と思いながらも
なんとかNo good. とは答えたのだが、あまりにも大きなカルチャーショックを受けた気がして、その後しばらくは大きく気持ちが動揺していた。
(その3) You still here.
これは私の最初の勤務先であった大阪のホテルで常連客のアメリカ人バイヤーに言われたことである。
年に何度か訪れては1週間ぐらいづつ宿泊していたベンソンという名のその客が、久しぶりの訪問でフロントにいる私に向かって言うではないか。You still hire? と。
正確には Are you still hera? だろうが、最初のAre は省略しているのだ。
つまり、「君はまだここで働いているのか?」という意味である。
ご存知のようにアメリカ人は転職をするのが普通であり、彼等の感覚では長い間同じ職場にいることを不思議に思うのである。
それゆえにこうした質問を発するのである。でもそう聞かれた私としてはいい気はしなかった。
何故ならその言葉には「ほかにいくところがないの?」という意味も含まれているからである。
そのときに質問には悪意はなかったのだろうけど、一般的にアメリカ人は同じところに長くいる人のことを無能な人と見る傾向があるのだ。
(その4) Take it easy.
これもアメリカでの話である。ニューヨークのホテルで職場研修生として働いていた私は、その職務のほかに短時間だが一時期日本レストランでフロアーマネージャーとしても勤めていた。
6番街44丁目にあったそのレストランの客はほとんどが米国人ビジネスマンであった。
そこへ勤め始めてまだ1週間ぐらいしかたたないある日のランチタイムのこと、ドア先で挨拶しながら客を迎えていた私に向かって一人の若いアメリカ人男性客が笑い顔で言った。 Take it eady と。
「Take it easy」 この言葉は何かにつけてアメリカ人がよく使う言葉だ。
つまり「気楽にやれよ」というような意味なのだが、多分そのときその客は、不慣れなせいでぎこちない対応の私が不自然に見えたのに違いない。
それに対して「なにをそんなにきばっているんだい?もっと楽にやれよ」という意味で Take it easy. といったに違いないと私は思ったのである。
この Take it easy.は別れの挨拶としても使われるので、その後も様々なシーンでこの言葉に出会ったが、あの日本レストランでのものだけは、なぜかくっきりと記憶に残っている。
(その5) How about going to the pool ?
これもアメリカの職場、ホテルでの話し。フロントオフィスで働いていた私だが、そこのチーフにフレディという30歳ぐらいのアメリカ人がいて
ある日仕事が同じ時間に終わったこともあってか、ロッカールームで帰り仕度をしている私に向かって彼が How about going to pool with me? と言ってきた。
暑い夏の日であったので pool というから、てっきり「プールに泳ぎに行かないか」と言ったのだと思って、「水泳パンツがないから駄目だ」と応えた。
すると彼は笑って言った。「なに言ってるんだお前、玉突きに行こうと言ってんだよと。
poolには玉突きという意味があることをそのときの私は知らなかったのだ。
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