2012年1月14日土曜日

読むだけで強烈なカルチャーショックを受ける本 ・ 「中国でお尻を手術」 近藤雄生著 ミシマ社 2011年11月発行


ゆきずりの観光客には決してわからない現代中国の真の姿  ・ しかしこのライターは只者ではない

「中国でお尻の手術」というずいぶんユニークなタイトルの本であるが、これは著者がポリープ摘出で中国滞在中に現地の病院に入院した時のことから採っている。

著者はライターであるが、この本を書いたときは20代後半のまだほんの駆け出しで、決して売れっ子というわけではない。

したがって、執筆で稼ぎ出す収入もまだわずかで、これを書いている頃の年収は50万円にも達していなかったという。

だがこのライターのルポを書くための行動力は一級品だ。現地での長期滞在を通して"何でも見てやろう、経験してやろう"という精神で、まさに体当たりで対象に接している。

このブログのタイトルに「強烈なカルチャーショックを受ける」と書いたが、何がそれほどショックなのかといえば、それは第一に中国の衛生状態のすさまじさである。

まず最初に165ページにある次のようなくだりをご紹介することにする。

「昆明に来て以来、デフォルトが下痢というぐらい日々腹を下していた。麺にしろ炒め物にしろ、辛さがハンパでなかったためだろうと思っていたが、衛生的な問題もあったかもしれない。

例えば驚かされたのはこんなニュースだーーー家庭から廃棄された油をなんらかの方法で集め、それを食堂に売っていた業者がいた、というのだ。

また、家の前の餃子屋では、店員の若い女の子が餃子を作りながら途中で手鼻をかみ、それを壁になすりつけて、手も洗わずにまた餃子の皮に具を詰めていたこともあった・・・」

どうですかこんな様子、想像しただけでも吐き気をもようしませんか?

これに類した話はまだまだある。

そもそも著者が病院に入院したのは度重なる下痢が原因だったのだが、病院に行く前のある日、激しい下痢に見舞われてトイレでゆくと、便のの中に回虫が2匹混じっていた、というのだ。

日本でも何十年も前の戦後間もない頃にはこういうこともあったようだが、いまだに中国ではこうしたことが日常的だとすると、その衛生状態の悪さははかりしれないものがある。

また、著者は農村部のトイレの不潔さにも度々触れているが、そうした光景を赤裸々に綴った箇所を気の弱い読者が読むと、まさに卒倒ものだ、といっても決しておおげさな表現ではない。

冒頭から衛生状態のことばかりにふれたが、そうしたことばかりでなく、著者は中国と中国人の良いところもよく観察しており、それについてもも丹念に綴っている。

このライターははじめにもご紹介したように、これを書いたときの年齢はまだ30歳にも満たないのだが、ボキャブラリーの豊富さと文章のうまさには脱帽する。

たぶん無類の読書家なのであろう。

はっきり言って今回のこの作品はルポとしては"珠玉の名作"であると言っても過言ではない。

おそらく、この作者は近い将来何らかの大きな賞を獲るに違いない。

将来を期待できる大物の雰囲気を漂わせている楽しみなライターである。


作者紹介

近藤 雄生(こんどう・ゆうき)
1976年、東京都生まれ。
1996年、東京大学教養学部理科�類入学。
在学中、立花隆、沢木耕太郎らノンフィクション作家の作品に感銘を受ける。大学4年生の時に旅したインド、バングラデシュでの経験を機にルポライターを志し、同大学院修了後の2003年6月、妻とともにオーストラリア・シドニーへと旅立つ。
その後、世界各地で取材・執筆活動をしながら、5年の海外放浪生活を経て、2008年10月に帰国。現在、ミシマ社のHPにて、旅での生活をつづった紀行文「遊牧夫婦」連載中(2010年7月、第一弾が書籍化)。
著書に「旅に出よう」(岩波ジュニア新書)ほか。
http://www.yukikondo.jp/

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