その男の子は死体を見てはいない
ある朝の7時30分ごろ、人通りの少ない場末のストリップ劇場の前に、年老いた男の死体が横たわっていた。
その劇場の入口近くには、およそ場末には似つかわしくないような、裸の女性を描いたけばけばしいポスターが何枚も貼ってあった。
死体を発見したのは丁度その時刻に、劇場辺りを徘徊していた痴呆症の老婆であった。
その老婆は携帯で自宅に電話して「ストリップ劇場の前に死んだ人がいる」と家人に伝え、すぐその場を離れその後行方不明になった。
ちょうど同時刻に、劇場のすぐ前にある家から出てきた小学3年生の男の子が学校へ向かっていた。
痴呆症の老婆宅の家人から連絡を受けた刑事が、何か情報が得られないかと、ストリップ劇場のすぐ前にある家を訪れた。
そして小学生の男の子がいて、毎朝7時30分ごろ家を出て学校へ向かうことを知った。
午後になって、家を出たときの様子を聞くために小学生に会いに行った。
でもその男の子は何度聞いても、「何も見てない」と言うばかりであった。
道幅が10メートルほどしかない狭い道路なのに、なぜだろう? と刑事は不審に思ったが、とりあえず母親にもいろいろ聞いてみることにした。
そしてその結果、意外な事実に気づいたのであった。
母親は日ごろから男の子に強く言っていたのだという。
「家を出るときは、絶対に前を見てはいけません」
作 : T.Ohhira
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