タイトルはハウツーもののようだが、れっきとした自伝ものの小説である。
著者のペンネームが鯨(クジラ)統一郎、そして本名(主人公)が伊留香(イルカ)総一郎。
このあたりからもう笑いが始まり、この後に続く作者が所長として勤めていた家庭教師派遣会社の体験談などはすこぶる愉快で、まさに抱腹絶倒モノである。
作者自身が面白い読み物を求めてやまない性向らしく、それだけに自作にも徹底して面白さを追求しているふしがあり、とにかく読者をあきさせない。
タイトルに努力しないで・・・とあるが、その点については決してそうも思えずむしろその反対で、作家になる過程では20年近くの間、壮絶とも言えるような悪戦苦闘を繰り返している。
したがってこのタイトルは、作者の願望であって、正確にいえば"努力しないで作家になる方法はないだろうか"という期待感であるに違いない。
ストーリーはプロの作家を目指す作者が実に18年間の長きにわたって、新人作家登竜門である小説の公募への挑戦記であるが、投稿する作品が予選で幾度となく振り落とされるが、それにめげずにひたすら応募を続ける根性は見上げたものだ。
その過程において何度も挫折を繰り返しながら、一度は作家への夢をあきらめかけたが、再び奮起して再挑戦を決意する。
そのくだりは涙なくしては読めるものではない。まさに苦節18年、汗と涙の奮闘期なのである。
特にこの苦しみの連続の中で、作者を支える奥さんのサポートは並々ならぬものがあり読者に大きな感動を与える。
この協力あってこそ、最終的に勝利をつかむことが出来たのではないだろうか。まさにあの山内一豊の妻をも上回るような良妻ぶりなのである。
この本の内容がどれぐらい事実に近いのかは別にして、最後まで読者をひきつけるのは著者の小説手法の技術の巧みさではないだろうか。つまり、何度も何度も主人公を絶望のどん底へ突き落として、読者の憐憫の情を誘っている点である。
著者は読者がそのようなストーリー展開を好むのを良く知っているようであり、あえて何度も主人公を不幸のどん底へと容赦なく突き落としているのである。
とにかく面白い作品で、久しぶりに”一気読み”できた本である。
・鯨 統一郎について
鯨 統一郎(くじら とういちろう)は日本の小説家。推理作家、SF作家。覆面作家。國學院大學文学部国文学科卒。
デビュー作である「邪馬台国はどこですか?」は、1996年の第3回創元推理短編賞の最終選考に残ったものの受賞されず、1998年に文庫での書き下ろしという変則的な形のデビュー作となった。
同書は1999年の『このミステリーがすごい!』(宝島社)で第8位に選ばれている。
史実や伝説、物語等の大胆な新説や新解釈を中心とし、論理性より意外性や規則性を重視した独特の作風が特徴。
それぞれの作品がどこかで繋がっていたり、同じ人物が別作品に登場するなど、ハイパーリンクの手法が取り入れられている。
また『邪馬台国はどこですか?』は、書籍自体が作中に登場する場合がある他、その内容の一部が引用されることも多く、共通のガジェットとして積極的に用いられている。
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