2012年7月13日金曜日

混迷する現代社会を学ぶための最適の本 ・ 書評 「キーワードで読む現代日本社会」 旬報社



まずこの本の一部に取りあげられている下の四つのテーマを見てほしい。

正規雇用も安泰ではない-周辺的正規雇用の増大(労働)
 ●貧困問題は個人の努力だけでは解決しない(貧困)
 ●大人になる」ことの困難化(大人になる)
 ●くらしに必要なモノやサービスが確保できなくなっている(生活)

これら4つはいずれも今日的なテーマであり、従来の現代社会の教科書には見られなかったものばかりであり、それだけに新時代の社会科を学ぶにはふさわしい内容である。

  まず最初に取り上げられている「正規雇用も安泰ではない-周辺的正規雇用の
増大(労働)であるが、

 近年、わが国では急速に非正規労働者が増えており、それは単に雇用や労働の問題にとどまらず、さまざまな社会問題を生んでいる。

 また問題は非正規社員だけにとどまらず正規社員にも及んでおり、正規とは名ばかりで実態は非正規と変わらない劣悪な待遇に甘んじているいわゆる周辺的正規雇用と呼ばれる雇用形態が出現してきているのである。

 このように円高などで利益を圧迫されている企業は雇用の形を歪めてまでも利益確保に懸命なのである。

 次にあげられているのは「貧困問題は個人の努力だけでは解決しない(貧困)」であるが、
今のわが国ではこの「貧困」問題は決して軽視できないほどの大きな社会問題になりつつある。
 高度急性長期のような給料が右肩上がりの時代はとっくに過ぎ去り、サラリーマンの給料はもう長い間上がっていないばかりか個人所得は10年前に比べて60万円も減っているのである。

 それに加え、雇用の面では待遇の悪い非正規社員が増え、それが貧困の大きな原因になっているのである。
 それだけではない。極端なほどに進んだ核家族化は多くの一人住まい家庭をつくり、それが孤独化に生み、高齢者を中心とした貧困層の下地になっているのである。

 3番目の「大人になることの困難化」というのは、今の若者には学校を卒業して社会へ出ても、そこには安定した職場が待っていてくれてはない。
 昔だと、たとえ高卒だろうと正規社員として大企業の製造職として就職することは珍しくなった。

 したがって辞めずにがんばりさえすれば、やがて生活は安定し、家庭を持ちマイホームを作ることも可能であった。
 だが今は違う、高卒はおろか、大卒でさえ大企業に正社員として就職することは至難のわざとなったのである。「大人になる」とは、ちゃんと就職して家庭を持つことである。
 でもそれが容易にできなくなったのが今の社会なのである。ゆえに「大人になることが困難」な時代なのである。

 最後の「暮らしに必要なモノやサービスの確保ができなくなっている」であるが、それはこういうことである。
 いま電気メーカで作る白物家電といわれる電化製品や衣食住の衣にあたる衣料品はすべてと言っていいほど国内以外で生産されている。

 つまり中国をはじめ、韓国やその他のアジア発展途上国で作られているのである。
 それは日本で作るとコストが高くつくからである。かつてはMede in Japanといえば高品質で世界に知られており、世界中から憧れの商品とされているものが多かった。
 だがコスト高で今はもう作ることができないのである。

 モノばかりでなくサービスにおいても同様なことがおきている。
 たとえば高齢化社会真っ只中の今の日本では、病気の老人が安心して病院に入院していられなくなっているのである。
 それは膨れ続ける医療費削減のため国が早期退院を奨励しているからである。

 そのため、例え老人といえども、一定の治療が終わると病院を追い出されるのである。
 このように今の日本では医療の分野でも安心したサービスが受けられなくなっているのである。
 このことについては最近NHKの「クローズアップ現代」という番組でも大きく取り上げられ国民の間に波紋を呼んだばかりである。
 以上4点のテーマをはじめ、現代日本の新しい問題を大きくクローズアップしたこの本だが、これから社会に出る多くの若者たちに是非とも読んでもらいたいものである。

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キーワードで読む現代日本社会
 
中西新太郎+蓑輪明子 編 
A5判並製/208
定価1,365
発行日 20125月 7
旬報社

労働、貧困、資本主義、福祉国家、新自由主義、グローバリゼーション、ナショナリズム……知っているようで知らない現代日本社会を仕事や生活にかかわるキーワードから読み解く、
社会を知る手がかりと、考えるためのヒント! 新入学生、新社会人に最適です!

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1 労 働 
労働をめぐる新しい造語の登場/非正規雇用の増大と基幹化/正規雇用も安泰ではない-周辺的正規雇用の増大と仕事の過密化/失業の増大/労働の不安定化の背景
2 貧 困 
広がる貧困/貧困の背景/日本型雇用のもとでの社会保障の未発達/貧困問題は個人の努力だけでは解決しない/
《コラム1》 実感なき景気回復 「景気」と私たちのくらし
3 大人になる 
「大人になる」ことと「青年」/「大人になる」ことの指標と青年期の課題/「大人になる」ことのモデル/「大人になる」ことの困難化/いま、必要な視座とは
《コラム2》 大学で学ぶ意味
4 資本主義 
資本主義社会における“生産“/資本とは何か?-資本主義社会の主役/資本主義と貧困
《コラム3》 階級とは何か
5 福祉国家
福祉国家はどうしてつくられたか/福祉国家はどんな役割を果たしているのか/新自由主義改革のなかの福祉国家
《コラム4》 福祉国家をつくった力 労働組合と労働者政党
6 新自由主義
新自由主義とは何か-資本の論理を社会の隅々まで徹底させる/新自由主義が世界的に広がった背景/新自由主義政策の特徴/現代社会の課題-新自由主義にかわる社会経済システムとは何か
《コラム5》 資本主義と福祉国家のせめぎあい
7 生 活
生活を支えるさまざまな条件/くらしに必要なモノやサービスが確保できなくなっている/モノやサービスを市場で得ることが基本の社会/必要な人に必要で適切なモノやサービスを/くらしに必要なモノやサービスについての原則が崩れた
《コラム6》 統計の見方
8 家 族 
多様化する家族のかたち/だれが家庭のなかで家事や育児を担うのか/家庭をだれが担うのか
《コラム7》 多様な性のあり方とそれをめぐる問題
9 女性の労働
差別されてきた女性たち/女性差別は企業のメリット/男性とは違う女性のライフコース/これっておかしくない?-女性たちの異議申し立て/「男女平等」は達成されたか?/女性の労働はどうして変わらないのか
10 グローバリゼーション 
経済のグローバリゼーションとは何か/日本企業の海外生産の実態/海外生産をおこなう理由/経済のグルーバル化による国内経済への影響/一致しない多国籍企業と国内経済の利益
《コラム8》 グローバル化するニッポン
11 ナショナリズム 
ナショナリズムとは?/ネイションとナショナリズムの近代性/ナショナリズムとどう向き合うか
《コラム9》 メディアの読み方・付き合い方
おわりに 読者へのメッセージに代えて

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