登場人物がイキイキしてキラキラ輝いている、珠玉の青春小説
感動の一冊である。何が感動かと言えば、登場人物の素朴だが豊かな人間性である。
舞台は青森、本州端っこの地方都市とはいえ、メイドカフェという言わばサブカル最先端とも言える場所を舞台にしていながら、
そこに登場してくる人物は決して先端を走っているとはいえず、カフェの客をはじめその多くはどちらかと言えば人より一歩遅れた少しドジな人たちなのである。
中でも代表的なのが主人公の女子高生「いと」である。
祖母譲りの今時では珍しいほどの訛りのきつい東北弁から抜け出せない彼女は、内気な性格もあって人前で喋るのが大の苦手だ。
その苦手を克服するためにと、以前からその衣装に憧れてたこともあって、電車に乗って家からずいぶん遠い青森市内のメイドカフェに土日のアルバイトとして勤め始めることにした。
だが彼女を悩ませたのはメイドカフェの決まり文句である「お帰りなさいませ、ご主人様」と言う挨拶だ。
いくら注意して言っても 「ごすずんさま、おがえりなせーませ」 というふうな訛りの入ったおかしな言い回しになってしまい、いつも回りから失笑を買っていた。
進歩の遅さに我ながら嫌気のさした「いと」は入社早々辞めることを考える。
しかしそんな彼女をかばって温かく指導してくれる先輩メイドたちの応援もあってなんとか辞めずに仕事を続ける。
先輩メイドだけでなく、店長もオーナーも何かと気にかけてくれる。
それだけではなく、店に通ってくる客たちもいつしか温かく「いと」を励まし応援してくれるようになる。
オタク系で世間からは少し遅れている客としての彼らだが、中には高校教師とか銀行員とかの、社会的なステータスとしては申し分のない堅い仕事についている人たちも混じっていたのだ。
「いと」はアルバイト先のことについて父親にはっきり伝えておらず、ただ「カフェ」とだけ言っていた。
ある日、高校の友達からの家族共有パソコンへのメールで勤務先がメイドカフェと知った父親は激怒する。
だか「いと」はそんな父親に負けておらず激しく反論する。普段はおとなしく口下手な彼女だが、いざというときは一本筋の通ったところがあり、職場のことをかばって必死に反論する様子は実に感動的である。
「いと」はおとなしくて口下手ではあるが、県内屈指の進学校に通う、本来はまじめで勉強好きな頭のいい子なのである。
学校でもアルバイトでも何かにつけて人前で自信のもてない「いと」にも自慢できることがひとつある。それは祖母に仕込まれた津軽三味線の腕前である。
だが、アルバイトのせいもあってその練習もすっかり遠ざかっていたのだが・・・
さて著者の越谷オサム氏だが、まだ40代に入ったばかりの若手作家である。
だが若手とはいえ「ファンタジーノベル大賞優秀賞」というメジャーな賞も受賞している実力派の作家である。
人物描写は特に優れており、「いと」をはじめ、すべての登場人物が生き生きとしてキラキラと輝いている。
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著者、越谷オサム(こしがやおさむ)
1971年、東京生まれ。学習院大学を4年で中退。以後マクドナルドでフリーターとして29歳まで働く。
1971年、東京生まれ。学習院大学を4年で中退。以後マクドナルドでフリーターとして29歳まで働く。
2004年、第16回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作『ボーナス・トラック』でデビュー。他の著書に『陽だまりの彼女』(新潮社)、『階段途中のビッグ・ノイズ』(幻冬舎)、『空色メモリ』(東京創元社)、『金曜のバカ』(角川書店)、『せきれい荘のタマル』(小学館)などがある。
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