マンハッタンに初雪が降った11月下旬のある朝、洗面に立った私を見てエセルが「一緒に食事をしない」と言った。
このアパートへ来て最初に二週間ぐらいは、彼女はほぼ三日に一度の割合で朝食に誘ってくれていた。
でも、このところ私の朝が遅いこともあってか、久しぶりの誘いである。
食卓についた私に向かってエセルは思わぬ初雪に多少興奮した様子で「この雪はいつもの年より二週間も早いのよ」と言った。
例年だとここニューヨークでは、12月初旬から中旬にかけて初雪を見ることが多いそうだ。
今日が11月21日だから、いつもの年が12月初旬としても、そうだ、きっちり二週間早いのだ。
「この雪も日が照ってうまく溶けてくれるといいんだけど、気温が上がらずそのまま道路に凍りついてしまったら歩くのが大変なのよ」
エセルは今度は心配そうな表情をして、そう話し続けた。
私もその後何度も経験したが、実際ここニューヨいークの雪は降っているときはともかく、降り止んだその後が大変なのだ。
気温は東京あたりよりはるかに低く、積もった雪はよほど速く取り除かないと、たちまちカチンカチンにそのまま道路に凍りついてしまうのだ。
そうしたときは私のような若者でさえ歩くのがオッカナビックリなのに、足腰の強くないエセルのような老人にとっては外出する際の大きなな悩みの種になるに違いない。
でもこの朝の私にはまだそうした事情がよく飲み込めておらず、エセルの話には適当に相づちを打つだけであった。
さあそろそろ出勤だ。
初雪のマンハッタンの街を歩くのも風情はありそうだが、せいぜい滑ってこけないように気をつけなければいけない。
そう思いながら、私はエセルに食事のお礼言って席を立った。
to be continued
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