この本は企画が斬新でそのユニークさと相まって読者を惹きつける力になっているのですが魅力
はそれだけにとどまりません。
この本はエッセイ集とは謳っていませんが、実は締め切りをテーマにした作家たちのエッセイのアンソロジーなのです。
テーマが締め切りという狭い範囲に限定されていれば、内容が乏しいのでは、と一部の読者は心配するかもしれませんが、どっこい、そうではないのです。
テーマが限定されているとはいえ、作家にとって締め切りは逃れることができない非常に切実な問題であると同時に、両者は年から年中付き合っている密接な仲なのです。
それゆえに思い入れも大きく言いたいことは山ほどあるのです。
なぜ良いエッセイばかり揃っているのか
上でこの本は優れたエッセイのアンソロジーだ、と書きましたが、なぜ優れているのでしょうか。
エッセイについてはこれまでブログにもしばしば書いているように、名のある作家が書いたものでも必ずらずしも良いとは限らず、エッセイ集に載っている作品の7割ぐらいは魅力に乏しい作品です。
その第一の理由は、小説が上手に書ける作家でも、エッセイも上手とは限らないことです。なぜなら小説を書く才能とエッセイを書く才能は異なるからです。
第2は、これまで多くのエッセイ作品を書きすぎてテーマが枯渇していることです。
エッセイの多くは体験したことをもとに書かれますが、人によって体験の量は異なります。したがって体験のあまり多くない作家だと、未発表のテーマが次第に枯渇してきて、仕方なく過去に取り上げた事柄を再びテーマにして書くのです。
これだと当然新鮮味がなく、読者は、過去の読んだことがある、などと不満を感じます。
作家は締め切りをテーマにすると水を得た魚のように力がみなぎる
良いエッセイは良いテーマによって生み出されます。これは読み手ではなく、書き手に強く言えることです。
書き手にとって良いテーマとはどんなものをいうのでしょうか。それは思い入れが大きい事柄です。
思い入れが多い事柄は、それだけ考えることが多くなります。物事は多く考えればそれだけアイデアがたくさん出てきます。量だけでなく、質の方も高まります。
では作家にとって締め切りというテーマはどうなのでしょうか。果たして良いと言えるのでしょうか。
ズバリ、作家にとって締め切りはこの上ない良いテーマです。なぜなら作家は締め切りと年から年中つきあっており、これに対して考える量も時間も多いからです。
よく考える問題であるゆえにアイデアが豊富で書きたいこともたくさんあるのです。言い換えれば作家にとって締め切りほどエッセイのテーマとして魅力的なものは他にないのです。それゆえに良い作品が生み出されるのです。
これほど多くのメディアが取り上げた本も珍しい
この本が稀に見る優れた書物であることを証明するように、非常に多くのメディアが書評を掲載しています。この種の本でこれだけ評判になるも珍しいのではないでしょうか。
以下はそうした書評の一覧です。
SAランク第2位・「直木賞受賞エッセイ集成」
この本もまた素晴らしいエッセイ集です。このエッセイ集に収められた作品は全部で36編あります。
普通のエッセイ集(例えば光村図書が出しているベストエッセイなど)だと、収録作品をABCの3ランクで評価するとA(優れている)が20%、B(可もなし不可もなし)60%、C(劣っている)20%、というのが普通です。
これはこれまで読んできた多くのエッセイで検証したことで、ほぼ間違いないデータであると自負しています。
ところが、直木賞受賞エッセイ集成には、このデータは当てはまりません。それどころか収録された作品のうち、つまらないと思ったのは僅か5作品で、残り31作品がことごとくすばらしく優れているのです。
つまり、一般的なエッセイ集ではAの評価は20%ぐらいしかないのに、このエッセイ集に限っては実に80%がA評価なのです。これは普通では考えられないことです。
でもなぜこのエッセイ集にはこれほど良い作品が多く揃ったのでしょうか。
直木賞受賞という作家にとって一世一代のテーマの作品だから
作家にとって直木賞受賞というのは一世一代の記念すべき出来事です。最高に名誉であると同時に、この受賞によって作家として生きていくことが保証されたようなものですからこれ以上の喜びはありません。
このような、これ以上思い入れの大きい出来事は他にない、と言っていいほどの事柄をテーマにしてにしてエッセイを書くのですから言葉にして発表したいことは山ほどあるはずです。
それ故にほとばしり出るような喜びがペン先に伝わり、おのずと読者の胸を打つ良い作品が生み出されるのです。
まさにこのエッセイ集こそ、直木賞受賞作家にとっての一世一代の作品集なのです。
だからこそ収められた作品の80%が優れていることが素直にうなずけるのです。
エッセイファンなら絶対見逃してはいけない一冊です。
SAランク第3位・「教養脳を磨く」
教養をつけたい、と思っている人は少なくないはずです。でも教養というものがどういうものかもう一つよくわかりません。
何が教養で、それはどうしたら身につくのかを書いているのがこの本です。
著者は茂木健一郎と林望という二人の学者です。対談という形になっており、非常に読みやすいのもおすすめです。
お二人とも、教養人が多いといわれているイギリスへの留学が長く、その点から教養を語る資格を十分備えています。
以前のブログでもご紹介しましたが、教養をつけるために読むべき本としてお二人が推奨するのは以下のリストです。![]()
『教養脳を磨く! 30冊』 林望/茂木健一郎(著)の掲載書籍リスト
1.林望セレクション
1
潁原退蔵 俳句評釈 角川文庫
2
折口信夫 古代研究 中公クラシックス
3
紀貫之等 古今和歌集 岩波文庫
4
島津忠夫 新版百人一首 角川ソフィア文庫
5
シュリーマン 古代への情熱 新潮文庫
6
杉田玄白 蘭学事始 岩波文庫
7
薄田泣菫 茶話 全3巻
8
田中冬二 田中冬二全集 筑摩書房
9
永井荷風 断腸亭日乗 岩波文庫
10
夏目漱石 私の個人主義 講談社学術文庫
11
萩原朔太郎 萩原朔太郎詩集 岩波文庫
12
林望 往来の物語 集英社新書
13
福澤諭吉 日本婦人論 日本男子論 (著作集第10巻)
14
森鴎外 渋江抽斎 岩波文庫
15
与謝蕪村 蕪村全句集
2茂木健一郎セレクション
1
内田百間 阿房列車 全3巻 新潮文庫
2
小林秀雄 考えるヒント 新潮社
3
シュレーディンガー 生命とは何か 物理的にみた生細胞 岩波文庫
4
高木貞治 解析概論 岩波書店
5
チャールズ・ダーウィン 種の起源 岩波文庫
6
ディラック 量子力学 岩波書店
7
ドストエフスキー 罪と罰 新潮文庫
8
夏目漱石 三四郎 岩波文庫
9
ニーチェ 悲劇の誕生 新潮文庫
10
リチャード・P・ファインマン ご冗談でしょう、ファインマンさん 岩波現代文庫
11
福沢諭吉 新訂福翁自伝 岩波文庫
12
ロジャー・ペンローズ 皇帝の新しい心 コンピュータ・心・物理法則 みすず書房
13
ダグラス・R・ホフスタッター ゲーゲル・エッシャー・バッハ あるいは不思議の環 白楊社
14
マルクス 資本論 岩波文庫
15
クロード・レヴィ=ストロース 野生の思考 みすず書房