2018年1月12日金曜日

売れっ子作家浅田次郎にも苦難の時代があった ・ 貧乏時代の「新年の誓い」とは


今を時めく人気作家の駆け出し時代とは


いつも思うことだが、この作家のエッセイはテーマが興味深く読みごたえがある。

作家の書いたエッセイは、たとえ人気作家と言えども、必ずしも内容が優れているとは限らない。

なぜなら作品を書きすぎてネタ不足に陥り、同じテーマを何度も書くことがあるからだ。

そのよい例は、少し前に取り上げたことがある美人女優を二人も妻にしたことで有名な作家IS氏の作品である。

この作家のエッセイ作品は、テーマに新鮮味が乏しく、つまらない内容の作品が多い。

なぜならエッセイ集だけで50冊以上出しているためネタ不足になっているからだ。

その結果過去に取り上げたことがあるテーマを切り口を変えただけで書いた作品が多い。

その点浅田氏の作品は取り上げたテーマがどれも新鮮で、それだけでも魅力がある。

また文章が美しいだけでなく、内容が示唆に富んでいるので読んで勉強になる。

今回の作品には特に印象に残った部分があったので、それを書き残しておくことにする。

著者には毎年正月にその年の目標を書き留める習慣があるが、33歳の時の昭和59年に新年の誓いとして、エッセイ集「かわいい自分には旅をさせよ」に次のように書いている。

なおこの時代はまだ駆け出しの頃で、年中貧乏生活に明け暮れていた。

作家浅田次郎 ・ 「昭和59年度の目標」


一つ、新人賞をとる
具体的にどこの新人賞をとるかは書いていないが、おそらく群像、すばる、文学界などを目指していたのであろう。
すべて応募したことは間違いないが、もちろん目標は達成されなかった。

一つ、金鵄のもとに(小説のタイトル)を脱稿する
この小説は東部ニューギニア戦を題材にした長編戦記で、真剣に取材もして、資料も集めたが、結局脱稿どころか今日にいたるまで起稿すらしていない。

一つ、毎月30万円ずつ家計に入れる
これは多分実行されたと思う。小説を書くことで家計を圧迫したためしがない。ただし年頭の誓いにこれがあえて付け加えられたのは、それなりにかなりの努力をしたということであろう。

一つ、歯を入れる
これは極めて具体的に当時の当時の暮らしぶりを思い起こさせるが、長いこと歯が欠けていたのである。そんな人相では運など好転しないと分かっていても歯医者に行く金がなかった。

一つ、〇〇に借金を返す
この項目が幾つか続く

一つ、住民票を移動する

一つ、健康保険をもらう

一つ、子どもを幼稚園に入れる

※買いたいもの

ジューサー、ホットプレート、本箱、整理ダンス、バイク、電子オルガン、電話、靴

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いかがでしょうか。このようなことをエッセイ集に書き残すこと自体がこの作家のあたたかい人間味のあらわれです。

特に「毎月30万円ずつ家計に入れる」「歯を入れる」「〇〇に借金を返す」などの記述には当時の貧乏生活がにじみ出ています。

また「買いたいもの」の内容を読むと、ほほえましくなり、思わず頬がゆるみます。

今をときめく人気作家の貧乏時代の人間味溢れるこうした記録は、読む人の心を和ませるだけでなく勇気と希望を与えてくれます。






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