413ページの ボリュームに圧倒されそう
ページ数413、まさに圧巻のボリュームである。世に小説家のエッセイ集は多いが、ページ数がこれほどのものは少ない。
作家生活40年ということで、出版社の力の入れようがよくわかる。
ソフトカバーだからそうでもないが、これがハードカバーだとすごい重量感にちがいない。
質も量に負けず読み応えのあるエッセイぞろい
読んでる最中も読み終えてからも何度も思ったのは「これほど読み応えのあるエッセイ集が他にあるだろうか」ということである。
下の目次を見ていただければお分かりのようにテーマが1〜6とバリエーション豊かで読者を退屈させない。
ひとつだけ難を言えば目次1のエッセイ集が1000文字程度の比較的短い作品ばかりである点に物足りなさを感じた。
山田詠美は今も手書きを押し通している珍しい小説家
分厚い本で最後まで読み通す根気を失いそうになる時もあったが、でも今でもコツコツと手書き(下の見本)を続ける山田詠美の作家魂のこもった作品に失礼だと、思い直して再び読み始めたら、今度は「なかなかいいじゃないか」という気がしてきて、そのまま継続することが出来た。
前回読んだのは「吉祥寺ドリーミン」という作品で、こちらは楽勝で読み終えたのだが、今回はボリュームがすごいこともあって、そうはいかなかった。
でも若干苦労したとはいえ、もともと彼女のエッセイ作品は好きな方で、それにいくつかの書評サイトを見直してみても、いずれも高評価を付けていて、これも読み終えることが出来た理由である。
山田詠美の手書き原手書き原稿
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出版社内容情報
もう会えない人の記憶、夫との愛しい日常、そして文学。
2000年代に各紙誌で発表されたエッセイ、文庫解説、芥川賞選評を一冊に。
作家生活40周年記念のエッセイ集。
内容説明
もう会えない人の記憶、夫とのかけがえのない日常、そして文学。2000年以降、各紙誌に発表されたエッセイに加え、文庫解説、芥川賞選評など、すべて初収録。作家が愛するものたちを言の葉にのせた、贅沢な散文集。
目次
1(作家の口福;ブックマーク ほか)
2(追悼 水上勉 グッドラックホテルにて;追悼 河野多惠子 河野先生との記憶のあれこれ ほか)
3(二十年目のほんとのこと 谷崎潤一郎賞受賞によせて;小説家以前の自分に 野間文芸賞受賞の言葉 ほか)
4(芥川賞選評―第129回~第171回)
5(私的関係―荒木経惟『私写真』;夫婦は不思議―小池真理子・藤田宜永『夫婦公論』 ほか)
6(無銭優雅に出会う街―ライナーノートにかえて;大切な、大切な ほか)
著者等紹介
山田詠美[ヤマダエイミ]
1959年東京都生まれ。85年「ベッドタイムアイズ」で作家デビュー。『ソウル・ミュージック ラバーズ・オンリー』で直木賞、『トラッシュ』で女流文学賞、『A2Z』で読売文学賞、『風味絶佳』で谷崎潤一郎賞、『ジェントルマン』で野間文芸賞、「生鮮てるてる坊主」で川端康成文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
出典;紀伊国屋書店ウェブストアー
感想・レビュー (読書メーター)
読み応えたっぷしのエッセイ&書評集。デビュー当時から(厳密には山田双葉時代のマンガから)90年代後半くらいまでほぼ全作品をリアルタイムで読んでたので、今は亡き大切な人たちとの時間や景色が他人事ながら切なくも愛おしい。幅広で真っ赤なスピンも素敵。ただ残念だったのは、時々「え?いつの話だよ、それ?」と戸惑うほど古いエピソードが唐突に挟まれてること。違和感もさることながら、この際だから未収録分は全部寄せ集めちまおう的な編集サイドのセコさがちょっとやな感じ。タイトルで2000年以降って言ってるくせにさ。
路地の提灯の餃子 ほとばしる旨味 おなかに染みる汁物 暖まる家と煮込み 肉なし痩せた体 贅沢な体重 排水口の「オバケ」 成長の植物「オオタニサン」 生きる前の「玉子」 集合体恐怖症の「卵」 伝統、文化、郷土愛 「不倫叩き」と『緋文字』 ひっくり返す「言いよう」 「ミシマファイル」 泣ける「送り迎えSF」 幼い頃の「憧れ」 知られる「歯車」 命懸けのあとの食事 「世界一」ブランドの番人 苦手な「ク〇イバ」 政治家に必要な「品格 dignity」 「道草の原点」鹿沼 「第二の故郷」金沢
森瑤子、安部譲二、野坂昭如等、私が好きでもう亡くなった人たちと豪快に交友した最後の作家さんではないかしら。ちょくちょく笑わせてくれるのに、時々、悲しみではない涙がでてくる。詠美さんは私の中でいまだにお転婆なイメージだし、長いキャリアがあることを忘れてしまう。でも、時々、凄みのある言葉がでてきてドキッとする。清濁すべてを血肉にして生き延びてきた。他人の思想、誰かの言葉、いつのまにか押し付けられた倫理観とは無縁で、大好きだわ。
いろんな媒体に書いたものをまとめているのだけど、芥川賞選評が面白かった。当時けちょんけちょんすぎて話題になった某古市社会学者コメンテーターの選評なんてぜんぜんマシだった。辛辣なコメントは面白いと思う一方で、こういうふわっとした所感だけだと業界は先細るだけかもなあとも。論理的な指摘をしない伝統みたいなのありそう。
出典:読書メーター