2020年12月1日火曜日

2020の年末にお薦めする一冊はこの本・「小説をめぐって(井上ひさし発掘エッセイセレクション)」 岩波書店


 没後10年だが、こんな秀逸な作品がこれ迄の著書から漏れていた


井上ひさしは作品があまりにも多く、高評価を受けたものでもこれまでの著書に残されていない作品が数多くあります。

今回の「小説をめぐっては」そうした作品の中からエッセイだけを選りすぐって編集されたものです。

 

井上ひさしは「知の巨人」と呼ぶのがふさわしい 

井上ひさしのことを考えていると、ふと「知の巨人」という言葉が頭に浮かんできた。まさに井上ひさしこそ知の巨人と呼ぶのにふさわしい人なのでは、と。 

過去のわたしのブログ記事に作家の蔵書に関しての次のような文章があります。 

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小説家の中で最も蔵書が多いと言われているのが、今は故人となった井上ひさしで、その蔵書は驚くなかれ20万冊にも及びます。 

これがどれほどの量かと言えば、町の本屋さんは到底及ばず、地方都市の図書館の書棚と同じくらい、と思っていただければ良いのではないでしょうか。 

つまり、氏の自宅には人口数十万人を擁する都市の図書館並みの書庫が備えられているのです。 

井上ひさしの蔵書の量には及びませんが、評論家・立花隆の蔵書も相当なもので、仕事場としているビル3階の書庫には7万冊の蔵書が並んでいるといいます。 

これは7~8年前のことですから、おそらく今では10万冊を越しているのではないでしょうか。 

これほど多くの本を揃えるとなれば、費用の方もまた大変な額になるはずですが、その額たるや毎月の本代はコンスタントに15万円ぐらいと言いますから驚きです。 

立花隆だけではありません。女性では珍しい経済評論家の勝間和代も同様に毎月15万円ぐらいを本代に充てていると言います。

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井上ひさしは言葉の達人

この本はまさに名言の宝庫、至るところにハッとさせられる行がある

ここでは本書に出てくる数々の名文の中から5行だけご紹介することにします。

・時間には記憶を美しく飾る働きがある。それ故に過去はできるだけ控えめに注意深く語らねばならぬ。 

・自分が一種の根無し草であるということを自覚することから良質のセンチメンタリズムが生まれる。はてしなくさまよわなくてはいけないという哀しみ、その感傷の述懐。 

・面白い本が早く終わってほしくないと思う気持ちは、幼い頃アメ玉が溶けてなくなるのを惜しんで、ときどき口の中から取り出して眺めたりしたときによく似ている。

 

抜群のユーモアセンスも兼ね備えている

この本の冒頭の部分(18頁)を読んでいて、ふと昔読んだ氏の著書「日本亭主図鑑」という作品を思い出しました。全編がユーモアが溢れたとても愉快な作品です。

なぜ思い出したかと言うと、往年の美人女優若尾文子との交流の場面がユーモア溢れていてとても面白かったからです。

昭和25年、筆者が宮城県立仙台第一高等学校へ入学したとき同じ仙台の宮城県立仙台第二女子高等学校に生徒としていたのが若尾文子です。

彼女は第一高校男子の垂涎の的で、その美しさを友だちに伝えるセリフをこう綴っています。

「その女の子のきれいさといったら、もう、一分見ていると頭がボーッとし、二分見ていると骨がとろけ、三分見ていると生命が危ないほどなんだぜ」。

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 書店による内容紹介

窗体底端

多彩な創作活動を繰り広げ、多くの著書を遺した井上ひさし。でも、新聞・雑誌等で好評を得ながら、まだ著書に収められていない作品が多数あるのです。

その中からエッセイを選び抜き、テーマ別の三冊に編みました。これぞ鉱脈から発掘された「お宝エッセイ」。

井上ひさしは小説を「書く」「読む」の両方に情熱を注ぎました。本書には、創作の原点である山形小松・仙台のこと、書評・文庫解説、同時代の作家との交友、自作に関する「作者のことば」などを収録。

稀代の作家は、どのように書き、どのように読んだのか。「小説」と向き合う、真摯な姿勢が明らかになります。

目次

1 来し方(故郷小松;仙台;仙台文学館館長として)

2 とことん本の虫
(解説(フィリップ・ロス著『素晴らしいアメリカ野球』)
柳田国男への挨拶(柳田国男著『不幸なる芸術・笑の本願』解説)
「FARCEに就て」について
つめくさの道しるべ(宮沢賢治著『注文の多い料理店』解説)
彼のやりたかったことのリスト
セントルイス・カレーライス・ブルース―解説にかえて(『新・ちくま文学の森11 ごちそう帳』)
文学的悪戯(『新・ちくま文学の森16 心にのこった話』解説)
ジェラール・ヴァルテル『レーニン伝』(達人が選んだ「もう一度読みたい」一冊)
「太鼓」の音が近づいてくる)

3 交友録(先達を仰いで;ライヴァルにして友人;後進へ)

4 自作を語る(作者のことば;自作をめぐって)

著者紹介

井上ひさし[イノウエヒサシ]
1934‐2010年。山形県東置賜郡小松町(現・川西町)に生れる。上智大学外国語学部フランス語科卒業。放送作家などを経て、作家・劇作家となる。1972年、『手鎖心中』で直木賞受賞。小説・戯曲・エッセイなど幅広い作品を発表する傍ら、「九条の会」呼びかけ人、日本ペンクラブ会長、仙台文学館館長などを務めた(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

出版社内容情報

長編から短編まで、たくさんの小説を著した井上ひさし。本を愛し、豊富な読書量で知られ、文学をめぐるエッセイ・批評も数多く遺しました。本書は小説をテーマに、創作の原点である山形小松・仙台の思い出、文庫解説、作家との幅広い交友、自作について綴る「作者のことば」など、著書未収録のエッセイを選び抜いて収めます。

出典:紀伊國屋書店

 

 

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