2018年5月12日土曜日

これで売れる小説の書き方が分かった!・書評「エンタテインメントの作り方」 貴志祐介 角川新書



著者は人気ベストセラー作家

著者・貴志祐介は京都大学卒業後、保険会社のサラリーマンを経て作家になった異色ですが

発表した作品は日本ホラー小説大賞、日本推理作家協会賞、山田風太郎賞などを次々に受賞し、多くの作品がはベストセラーになり読者に愛されています。

エンターテインメント小説で数々の賞を受賞したベストセラー作家だけに、この本に書かれていることには信憑性に裏打ちされた強い説得力があります。

小説の書き方というジャンルでは、これまで数えきれないほどの作品が出ていますが、実用性、即効性という点で、この本は間違いなくおすすめできる一冊です。



タイトルが「書き方」ではなく、「作り方」になっている点に注目


前述のように小説の書き方を指南する本は、これまで数えきれないぐらい沢山出ています。ちなみに私の本箱にも10冊ぐらいはあります。

こうした本で注目すべきは、ほとんどがそのタイトルの末尾が「書き方」になっている点です。

ちなみに私の本棚に並んだものを見ると

ベストセラー小説の書き方(朝日新聞社)

・ミステリーの書き方(講談社)

・ノンフィクションの書き方(講談社)

・ロマンス小説の書き方(講談社)


など、すべてタイトルの終わりは書き方になっています。

これで分かるとうり、この手のハウツー本は、タイトルの末尾が書き方で終わるのが普通です。

ところが今回ご紹介する本はそうではなく「エンターテインメントの作り方」というふうに末尾が「作り方」になっているのです。これを小さな違いですましてしまうわけにはいきません。

なぜならこの違いには大きな意味があるからです。

その意味は、前提として「エンターテインメント小説は面白くなくてはいけない」という至上命題にあります。

だからこそ、単に小説を書けばいいのではなく、その先に、まず面白いプロットをつくらなければいけないのです。

何度も言いますが、エンターテインメントにおいてプロットは命です。これがうまく作れてこそ、読者の支持を得た売れる作品ができるのです。

タイトルを作り方としているのは、プロットをはじめとした作品の重要な要素をいかにクリエイトしていくかという創造のプロセスの重要性を表すためなのです。


これは凄い!120枚にも及ぶプロットの下書


上述したように小説が面白いかどうかはプロット次第と言っても過言ではありません。したがってどの作家もプロット作りには最も時間をかけて真剣に取り組みます。

著者はプロットづくりには特に時間をかけ綿密に行っており、ある作品ではプロットの下書きが原稿用紙120枚ににも及んでいます。これは中編小説一冊の原稿の量です。

その内容の一部が本文中に載っていますが、その書き方を知ることは、これから作家を目指す人にとっては願ってもない手本になります。

プロットこそ小説の命です。この書き方を学ぶことが小説家への大切な大切な道のりなのです。


着想法、プロット、登場人物、背景など、書き方を項目別に並べて詳しく解説


面白いエンターテインメントの決め手はプロットです。でもこの本で指南されるのはそれだけではありません。

プロットとともに、アイデアの着想法、登場人物のキャラクター設定、物語の背景の書き方、文章作法、遂行の方法、小説の技巧など、小説を取り巻くあらゆる要素についてが細かく述べられています。

上記の点について、いずれのテーマも解説が説得力に満ちているのは、すべてがベストセラーになった著者の作品を元にして書かれているからです。

たとえば前述のの120枚に及ぶプロットの下書きは、氏の代表作の一つである「悪の教典」を元にしたものです。

説得力があるのは、この作品がベストセラーになり、さらに映像化されたエンターテインメントだからなのです。

この作品がどれくらい売れたかと言いますと、映像化された2012年当時は、1週間で5万部近くの売上を記録しています。

今回の「エンターテインメントの作り方」はこうした作品の執筆を元にしたものですから、説得力がないはずがありません。


エンターテインメントの作り方(もくじ)


第一章 アイデア
アイデアは降ってこない/「もし○○が××だったら」という発想を持て/アイデアの“消費期限”/想像力の限界に挑む/防犯探偵・榎本のモデルとの出会い/アイデアの磨き方/物語に没入した原体験/初めての小説執筆体験/デビュー作『ISOLA』を書いたときのこと/『黒い家』の発想はこうして生まれた/職場は最高の情報源

第二章 プロット
/冒頭、クライマックス、結末の三点を決める/ストーリーには複数の“エンジン”が必要/「どんでん返し」という構成のリスク/すべての判断基準は“面白いかどうか”/ベストの舞台を選べ/実在の地名を使うか、架空の地名を作るか/『新世界より』の舞台が一〇〇〇年後の日本だった理由/「主題」にとらわれるな/小説の題材にタブーはあるか?/タイトルのつけ方/本格ミステリを書く際の独特のセオリー/一二〇枚に達した『天使の囀り』のプロット/プロットにこだわりすぎるな/フィクションにも“論理”が必要だ/プロットが完成したら検証せよ/現場の空気を感じとれ/情報は精度が命/トリックに著作権はないが…/集めた情報の使い方

第三章 キャラクター
/登場人物の命名には気をつけろ/キャラクターの「声」をイメージする/「引き算」の手法で設計された蓮実聖司/キャラクターの弱点は魅力となる/主人公は作中でどう呼ばれるべきか?/「悪役」だから許されること/男性が女性を描くことの難しさ/名作に見るキャラクター設計の妙/“ワトソン役”のルール

第四章 文章作法
/自分の筆の“癖”を知ること/“一行目”をどう書き始めるべきか/エンタテインメントは読みやすさが命/漢字の乱用に注意せよ/改行の適切なタイミングは?/基本は三人称一視点/リーダビリティの正体/“一気読み”を狙った『悪の教典』/メリハリを利かせる工夫/セリフに頼りすぎるな/ジャンルによって文体は変えるべきか?/カッコいい文章を目指すな/長編小説を書き上げるために必要なこと/そのネタは長編向きか、短編向きか/筆を止めさせないコツ

第五章 推敲
/小説の手法は「水墨画」ではなく「油絵」/推敲時のチェックポイント/文章の贅肉を削ぎ落とす快感を知ろう/“ご都合主義”に陥らないための注意点/生みの苦しみ、死の苦しみ

第六章 技巧
/読者の感情移入を促す仕掛け/効果的な場面転換とは/「作中作」の活用法/「会話」のなかで気をつけたいこと/リアリティを演出するために/テクノロジーや文化をどこまで追いかけるか/象徴的モチーフの効果/トリックに頼りすぎてはいけない/映画や漫画から手法を盗め 等

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