林公一著「サイコバブル社会」という本を読んだ。
ある意味で現代を象徴しているとも思える今の社会における「心の病蔓延現象」をテーマとした本である。
一時アメリカで一大ブームを起こしたのが、メンタルクリニックにおけるカウンセリングだったが、それに似た現象が約20年遅れで今日本にやってきているのだ。
なんとこの十年間でうつ病患者の数と、それに伴う抗うつ剤の販売高が倍増したという。
また、これまでには名前すら聞かなかった「アスベルガー障害」とか、「PTSD」であるとかの新しい名の心の病の定義づけも進んできている。
高度成長期を終え、低成長経済社会に入った今の日本が抱えるニートとかフリーターの増加にともない、社会的に不安定な状態に置かれた若者たちの苦しみや悩みが原因となる様々な心の病の急激な増加。
またそれに連動するように心療内科やメンタルクリニックの数が著しく増加してきて、それらの互いの要因が相乗効果となって、心の病の数を爆発的と言っていいほど増やしてきている。
その結果が、今のサイコバブルというような奇妙な社会現象を引き起こしているのではないだろうか。
本来心の病はいわゆる精神病と呼ばれる分野の病気で、過去においては決して人前で堂々と言えることではなく、むしろ恥ずべきものと思われ、その病名はずっと隠されてきていたのである。
それが新しい姿に生まれ変わった精神科医の元で、その病気は現代病という名のもとに美化され、若者たちの間でさえ、避けて通ろうというような風潮はもはや無く、例えば「トラウマ」という心的外傷を意味する言葉などは、病名とは言えむしろかっこいいカタカナ言葉として受け入れられ、何のためらいもなく気軽に使われているのである。
今や心の病はかってのような暗いイメージは伴っておらず、むしろそれは社会の先端を走る者にとっての「一歩進んだ形の心の状態」として捉えられているのではないだろうか。
そして、そういう状態に持っていったのは、果たして患者本人なのか、それともこの分野における規模拡大競争下での精神科医たちの宣伝効果によるものなのか、いまその判定を下すのは難しい。
いずれにしても、当事者である精神科医がバブル状態と呼ぶぐらいだから、それはいつかははじけて、またもとの正常な状態に戻る日が来るのではないだろうか。
サイコバブルとは、決して歓迎することのできない異常な社会現象であり、無くなるものなら早く無くなってしまった方がいいのではないか。
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